目的地までの旅路
目的地に着くまで、結構時間がかかるらしい。なので道中、僕達は肩を並べて話し合ったんだ。
「あんた、この国の出身じゃないでしょ」
「あ、ばれてた?」
「うん」
やっぱり服装とか、そういうので直ぐにわかるらしい。
「どこ出身なの?」
「僕はこの世界の人間じゃないんだ」
特に隠す必要性も感じなかったので、単調直入に言った。
「はぁ?」
彼女は呆れた顔をした。それも当然だろう。
「僕は東京っていう所から来たんだ」
「東京?なにそれ」
彼女は僕から目線を逸し、道の脇にある小石を蹴った。
「東京っていうのは、僕が住む世界にある一つの国の首都なんだ」
「へー」
う、アメは全く興味なさげな返答を返してきた。流石に別世界の人間っていうのは信じづらいかもしれない。もしかして、外国の人間っていう感じにしておけば良かったかもしれない。
「それじゃ、どうしてこの国に来たの?」
「それは……」
結構複雑な話になるんだ。
「色々とあってさ……」
「ふーん」
僕はどう説明しよう考えたが、あまりにも突飛すぎる内容だったので、諦めた。そして別の会話に切り替えた。
「えっと、君は冒険者なの?」
「ううん。学生」
「そうなんだ!僕も同じ!」
「ってことは、中学生?」
アメの退屈な表情に活気が戻った。
「うん、中学一年生!」
「え!?私も!」
偶然もあるもんだな。異世界に飛ばされて、同じ学年だとは。
でも、ちょっと待てよ?
今日は平日、そして只今午前、学生なら学校に通っているはずじゃないのか?
「へへ、私ってさ、この国で一番優秀な学校に通ってるんだ」
「凄い!」
彼女は胸を張って、堂々と言った。
「私はシンドラ国立中学校の生徒なんだよね」
「国立なんだ!」
この国の教育事情なんて全く知らないけど、国立っていう単語を耳にすると、凄いように聞こえてしまう!
「まぁね!」
「でもでも、今日って学校じゃないの?」
「あ、えっと、その……」
僕がそんな質問を投げると、アメはさっきまでの威勢の良い調子を落として、地面に視線を向けた。
「私さ、実はね」
「うん」
アメは何度も周囲を警戒した。どうやら大事な告白らしい。何だろう。
「これはあんたがこの世界の人間じゃないから、特別に教えてあげるんだからね」
「え、うん」
俯いた彼女の横顔から零れる表情。それは気まずさとか、恥ずかしさとか、そういう感じの感情が滲み出ていた。
「私さ、不登校なんだ……」
「ふ、不登校!?」
不登校!?
うわ、まさかこんな異次元の空間でも不登校なんて単語に遭遇してしまうなんて。どの世界にもいるんだな、不登校ってやつは。
つい僕は平静な顔を崩し、思いっきり驚いた表情を作ってしまった。
「何よ!そんなに驚いて!私の事、馬鹿にしてるの!?」
「違うんだ!」
どうやら彼女にとっても不登校であることは繊細な問題だったらしい。
「だっだら、どうしてそんな反応―――」
妙な親近感を覚えてしまった。だって、
「―――実はさ、僕も不登校なんだ」
「え?」
そして二人の足は同時に止まった。
「嘘?」
「本当!」
まさか、別世界で不登校に出会うなんて、二人は夢にも思わなかっただろう。