やばい!
6つの道に分かれる初期位置から、僕は順を回って探検を始めた。最初は斜めの道から。そして次は横の道。最後に縦の道。道中で出会う色んな物に驚いては、感動した。
「ほら、食べていきな!」
「どうも!」
僕、お金は持ち合わせてなかったけど、試食できる屋台もあったんだ。これまで食べたことのない味に、僕は度肝を抜かれた!
「これ、触ってみてもいい?」
「いいぜ、こいつ面白い形してるだろ?」
「凄い、変な果物……!」
それに、屋台で売られている変な形の果実に鼻を近づけたり、触ったり!
とにかく使えるだけの五感を駆使して楽しんだんだ。
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そして数十分が経過。 ある程度観光を楽しんだ所で、初期位置に戻ってきた。
「ふぅ〜。楽しかった!―――って、あれ?」
まるで漫画のような出来事に僕の心は躍っていたが、ここで一つの事実に気づいた。
「人通り、少なくなってきたな……」
さっきまで人混みで通りはごった返していたのだが、何ていうか今は、出勤ラッシュが通り過ぎて一段落した感じだ。僕は都会住みなので、こういう経験なら数えられない程見てきたのだ。朝の通学路に酷似しているぞ、この光景。
もしかして、現実世界と時間がリンクしているのだろうか。それなら説明がつく。
「えっと、それよりも」
とにかくここまでで分かった事を少しだけ整理したいと思うんだ。
この国の名前はシンドラという事。
そしてこの国の形は球形になっていて、背の高い城壁によって囲まれている事。
国の規模はかなり大きく、数十分の探検では到底探索しきれなかった!
「あ、そういえば―――」
興奮が段々と冷めてきた。
「どうやって帰るんだ?」
そして冷静になった頭に、一つの疑問が芽生えた。
当然だ、僕は日本出身、ここに住んでるわけじゃない。住む場所も無ければ、頼る人もいない。出来れば今すぐ帰りたいんだけど。
「……」
そしてそれを皮切りに、色んな疑問が沸き起こった。
どのくらい僕はここに滞在することになるのだろう?
食事はどうするんだ?お金なんて、ないんだし。
服だってどうすればいいんだ?着替えもないし。
とかとか。
「えっと、これってやばくね……?」
その全ての疑問に、僕は答えることが出来なかった。不安が不安を呼んで、とうとう膨れ上がった不安が全身を縛りつけ、動けないでいた。
そして僕は一つの大変な事実を思い知らされた。
「おい!!!」
「ひぃ!」
僕は大通りの真ん中に突っ立っていたので、当然のように通行人にぶつかってしまった。
「ぼーっと突っ立てると危ねーぞ!」
「ご、ごめんなさい!」
背後からやってきた中年のおっさんみたいな人と肩が接触。
反射的に謝罪を口にした。
「たく、最近の子供は―――」
この異世界での出来事は実際に自分が経験するのだ。つまり誰かが僕と衝突すれば痛い。痛ければ当然、ダメージを受ける。そしてダメージを受け続ければ、僕は死んでしまう!
こいつはゲームとは違う!現実なんだ!
「いってって……」
あの人、滅茶苦茶ガタイがいいな、なんて、通りの中央から脇の方に移動しながら、思っていた。
そして現実ならば、食欲だってあるんだ。
つまり……
ぎゅるるる……
「お腹すいた……」
そういえば今日、朝食食べてなかったっけ。
僕は腹の虫がなったお腹に手を添えながら、空を仰いだ。
「これからどうしよう……」
僕の視線は石造の建物郡から切り取られた空に向けられた。そこには雲なんて一つもなく、妙に青い空があるだけだった。