第一話
「今日も体調悪いから、学校休むよ……」
時刻は平日の朝。中学生の僕は学校の制服に着替えることもなく、ただベッドの中に閉じこもっている。
「今日もなの?」
自室の扉の向こうで母親が立っている。そして心配そうに言った。
「そ、そう……」
嘘である。
「もしかして病気とか?そうだったら病院行かなくて―――」
僕は母さんの優しい言葉を半ば遮るように、
「―――ただの腹痛だから、だ、大丈夫だよ」
そして僕は朝から嘘に嘘を重ねた。
「そっか」
「うん……」
親を騙していると、本当に罪悪感できりきりと腹が痛くなってきた。
「それじゃ、お母さんは仕事に行ってくるから、しっかり休むのよ」
「分かった」
ガタンと、玄関ドアが閉まる音がした。
「……」
アパートが一気に静かになった。たまに聞こえる音は外からの騒音だけ。
それは、家には祖父も祖母も、兄弟も姉妹もいないから。そして、お父さんもだ。いないっていうのは、その……家族構成に入っていないってことだ。家族は僕と母親だけ。
「暇だな……」
学校を休み始めた頃は家で一人になると寂しかったけど、今はそうじゃない。慣れてくると退屈さが上回る。
仮病を使って休んでいるので、お母さんから言われた通りに休養する必要もないんだ。だから直ぐにベッドから起き上がった。
「何しようかな」
なんて思うが、やることが見当たらない。
「うーん」
首を回して、部屋の中にある物を眺めてみる。
机に、本棚、そして、学校指定の鞄。鞄からは教科書とかプリントが溢れてる。
―――そういえば、どうやって僕は不登校になったんだっけ。
「……」
またベッドの上に寝っ転がって、天井を見た。そして過去に遡る。
―――確か、何かの授業で躓いたんだったかな。
数学だったっけ。算数からいきなり難しくなって、それで。
いや、英語だってそうだ。文法だったり、構文だったり。
いやいや、社会だって同じ様なもんじゃないか。
……思い返してみると、その、悲惨だな……
殆ど全教科ぼろぼろじゃん。
僕はベッドの上でゴロゴロゴロして、枕に顔を埋めた。
―――あぁ、それと人間関係も。
別に暴力的ないじめがあったわけじゃない。
でも、何というか、クラスに馴染めなかった。
しかしどれだけ過去を探っても、不登校になった一つの原因をはっきりと突き止めるのは難しい。恐らく、単体では問題にすらならない程度の悩み事が絡み合って、それでこうなったのだろう。
暇つぶしにテレビをつけてみた。
「げっ」
うわ、不登校についてのニュースやってるし。なになに、春先での不登校の生徒の数は急激に増えるとか何だとか。
まさに、小さな犯罪者にでもなった気分だ。
ぶつり、とテレビを消して、思考に耽った。
「……」
また部屋に沈黙が流れる。
「はぁ〜」
そして一度、ため息を吐いた。
まさか自分が不登校になるなんて夢にも思わなかった。それもまだ中学生一年生、義務教育
すら終えていないのに。
唯一の救いがあるとしたら、僕の不登校が長期化しても卒業できるという事だろう。
ただ、不登校が治らない状況で進学なんてしても、目があてられない。高校なんて当たり前だけど、中学校よりも厳しいんだ。なんとか受験を乗り越えても、入学早々から不登校、退学、そして嫌なレッテルを貼られて社会にほっぽり出されるシナリオが目に見える……
「やっぱり、今日、学校行こうかな……」
テレビを消して、ガバっとベッドから起き上がり、制服に着替えようとするが―――
「やっぱり、今日ぐらいはいいかな……」
って、こんな事、昨日もあったような気がする。
「そうそう、明日頑張ればいいか」
一度学校を休みと、癖になるっていうか、その……
まぁ、ズルズルと引きずって、気付けば僕は不登校の立派な仲間入りを果たしたってわけ。