一話
なぜ、こんなことに……
俺は今しがたまで空にあいていた穴の後を見上げガックリと肩を落とした。
「おーい、おいおい。兄ちゃん何泣いてんだよ。出すもの出したら返してやるからよ」
「そうだぜー。男に乱暴するつもりはないからな、ギャハハ。金だよ金。この貧民街一金持ちの兄貴の家に空から落ちてきて穴開けたとあっちゃあ、いくらあっても足りねえなあ」
「おい、その金を持ってるんだか持ってないんだか分からねえ言い方はやめろ。俺は並の貴族よりは金持ちなんだよ」
なにやら汚らしい男たちが騒いでいるが知ったことではない。
疑問を持ったのは俺の罪かもしれないが、そそのかされた。
罠にハマった。
「おい。いい加減こっちの話聞けよな、兄ちゃん。見たところモブの村人って感じだが……100ゴールド。100ゴールドでいい。つまりは若者の年収分だな。もちろんお前は現金はないだろうからこの紙に血でサインしろ。大丈夫、利子は十一だ。かなりかなり良心的だ。そうだろう? 弟よ」
「そうだなあ、兄貴……ん?」
そろそろウザいな。
落ち込みたい時は素直に落ち込まさせてくれ。
俺はあっちの世界のオモチャの水鉄砲を構えピューっと水を吐き出させた。
ーーと、
チャイン!
「へ?」
ピューっと顔にかけるつもりで水を出したつもりだったのだが、外れて床に水の線がいってくれてよかった。
なにせ床に水の線が穴を開けたのだ。まるで超圧縮された水が物を切断するように。
俺は驚き水鉄砲を食い入るように見つめた。
コレは間違いなく普通の水鉄砲だ。ただしーー
「わ、わ、わああああ!」
兄貴と弟とやらが逃げ出した。埃っぽい部屋の空気がかき乱される。
俺はもう一度天を見上げる。
落ちてしまった。この世界に。
この基本世界、普通世界、なんと表現したものか……
ともかく、
「元の世界に帰りてえ……」
そう俺が床を叩くと分かってはいたが、床が抜け一階に落ちてしまった。痛くもない。
そうここは、基本的なバランスの世界で全てのパラメーターが俺のいた世界の億分の1しかないのだった。