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7話 ペンタンの説明をしくじりました

 優美な薔薇が描かれた3客のティーカップ……。


 やっぱりそう来たか!


 由美は自分の予想が正しかったことを悟った。ペンタンも紅茶を飲めると、彼らは本気で思っているらしい。


 紅茶がもったいないし、早く『着ぐるみ』について説明しなきゃ。ーーって!なんて豪華なお菓子の山!! さすが王子様!!


 由美の責任感は、あっさりとお菓子の誘惑に負けて霧散した。

 まるで、ケーキバイキングのような色とりどりのケーキや焼き菓子に、由美の気持ちは一気に持って行かれてしまったのである。わかりやすい由美の嬉しそうな表情に、王子も明るい声で促した。


「何がお好きかわからなかったので、色々用意してみました。お口に合えばいいのですが」


 本当に食べていいの?という、キラキラした目で王子を見れば、目を細めて頷く王子。由美は遠慮なくケーキをいただくことにした。すでにペンタンのことなど綺麗さっぱり忘れている。


 いただきますと挨拶すると、まずはラズベリーのムースを口に運んだ。


「美味しーい!滑らかなムース。この甘酸っぱさが堪らないっ」

「こちらのピスタチオのケーキもオススメですよ」

「ピスタチオ!大好きですー!!」


 気付けば、一口分のケーキが乗ったフォークを口元に差し出され、我を忘れてパクっと食べてしまう。思っていたより着ぐるみのせいで疲労が溜まり、体も脳も甘いものを欲していたようだ。

 由美が満足するまで王子の「あーん」は続けられ、壁側に立つメイド達は、普段とはまるで別人のように甲斐甲斐しく世話をする王子の様子に、目を疑うことしか出来なかった。

 ペンタンの存在は、由美にはすっかり忘れられていたが、王子が由美にケーキを食べさせる合間に愛おしげに撫でていたことも、メイド達だけはしっかり把握している。


 由美は美味しいケーキを堪能し、満たされていた。


 いやー、この世界のスイーツってばレベルが高いわー。やっぱり王子様は美味しいものを食べてるものなのね。うんうん。


 これまた香りの良い、高級そうな紅茶を飲み干した由美は、ようやく一息ついて辺りの様子をうかがう余裕を取り戻した。

 正面には長い足を組み、こちらを優雅に微笑みながら眺めている王子がいる。その隣には、ソファーに置かれたペンタン。

 もちろん、ペンタンの前の紅茶に口を付けた形跡はない。むしろ、あったら怖い。

 壁際にはメイドらしき女の子が五人と、いつの間にか男性も二人。


 つい我を忘れてケーキに没頭してしまったわ。あ、王子様がペンタンを撫でてる。余程気に入ったのね。


 食べるのを止めてフォークから手を離した由美に、王子から声がかかった。


「もうよろしいのですか?ユミ様の食べる姿は、書物で読んだリスという生き物のようで大変可愛らしかったです」


 ブハッ!何を言い出すやら。確かに頬張りすぎて、『頬袋があるの?』とよくからかわれてたけれど!


「御馳走様でした。とても美味しかったです。つい舞い上がって食べ過ぎました……」


 さすがに27歳にもなって、恥ずかしい行動だったかもしれないと反省する。

 肩を竦めながら由美は答えたが、王子はずっとニコニコとご機嫌なままだ。話題を変えたくて、今度は由美が尋ねてみた。


「あの、まだ王子様のお名前を聞いていないので、教えていただけますか?」

「ああ、そうでしたね。私の名前はレゴラス。この国、ソルディーノの王太子です。年は29。普段は公務と、騎士の鍛練を主に行っています」


 29!!なんだ、私と近いじゃない。一気に親近感が湧いたわ。


「じゃあ、私とほとんど変わらないんですね。私は27歳なので」

「え!?」

「「「えええっ!?」」」


 何!?王子様も、メイドさん達も、何をそんなに驚いた顔をしているの?私、変なこと言った?


 思わず心配になる由美に、レゴラスが取り繕うように説明した。


「あ、いえ、ユミ様が大変小柄で可愛らしいので、てっきり10代かと……」


 10代!うわ、黙ってれば10代で通せたのに……。失敗したな。まあ、偽る意味もないけどさ。


「では、ペンタン様も!?」


 いやいや、『ペンタン様も?』の意味がよくわからないんですが……。ペンタンの設定は一応あるけれど。


「えーと、ペンタンは6歳の男の子なんですけど、それはあくまで私が勝手に作っただけの設定で……」

「ユミ様がペンタン様を作られた!?私はてっきりペンタン様が精霊で、ユミ様は精霊に愛された稀有な存在なのだと解釈していましたが、実際はユミ様が創造主で、ペンタン様が生み出された精霊ということですか!?」


 はいぃ?全然違います!そんなこと、少しも言ってません!!


「ペンタンは確かに私の作品ですが、そうじゃなくて。……あーもう、どうやって説明すればいいの?つまり、ペンタンは生きてはいないのです!今も動いてないでしょう?」

「ペンタン様が……生きていない?」


 ショックを受けたように青褪めながら、なにやらレゴラスが考え始めた。メイド達も固唾を飲んでこちらの会話を見守っているらしく、やたらと緊張感が伝わってくる。

 沈黙が流れること数分。レゴラスが顔を上げた。


「なるほど。ようやく理解しました。ペンタン様はユミ様が生み出した生命体の為、ユミ様がペンタン様の中に入って初めて、ペンタン様に命が吹き込まれるのですね?今はペンタン様の意識が眠っている状態なので、まるで抜け殻で生きていないように見えてしまうと」


「おおっ!」っとメイド達から声が上がるが、何かが違う。 いや、全然違う。


「途中まではなんとなく合っていたような気もしたけど、根本的に全く違う気がする……」


 そもそも着ぐるみって、誰かが中に入って始めて動くものだよね?でも着ている人は創造主な訳ではないし、着ぐるみは生き物じゃなくて多分衣類の一種だし……。ん?私、説明しくじったかも?


 しかし、時すでに遅し。

 静かに立ち去っていたメイドの一人が、由美がペンタンという精霊の創造主だと国王に報告してしまったのである。


 由美の明らかな説明不足により、今後由美は創造主として誤解され、国民に伝わっていくことになるのだった。


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