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5話 生き返った後、召喚?

 目を開けると、果てしなく広がる白い空間の中で佇んでいた。

 視線の先には、どうみても日本人には見えない金髪の綺麗な女性が、由美と向かい合わせで立っている。


 ここはどこ?確か、急に棚が倒れてきて……。


 由美は自分の体を確認してみたが、ペンタンを着たままなのでよくわからない。

 どこも痛くないということは、大丈夫だったのだろうか?由美が手足を動かしていると、突然目の前の女性が勢い良く頭を下げた。


「ごめんなさい!あなたを死なせてしまって。私に出来ることなら何でもします!!」


 え?死なせてしまって? ーーということは、私は死んじゃったの!?


 確かに、あの棚の下敷きになったなら生きているのは難しいかもしれない。

 それにしても、この人は誰で、ここはどこなのだろうか。真っ白の床まである長袖のワンピースらしきものを着た女性は、なんだか人間離れして見えた。

 

 不思議に思ってしげしげと眺めていると、下げていた頭を元に戻し、波打った長い髪を後ろへと流しながら女性が話し始めた。


「私はセレーン。人間界でいうところの女神の一人です」


 なんと女神様だった!じゃあここは死後の世界というものなのかしら?


「由美さん達があの倉庫に入ってきた時、私の二人の息子が傍で遊んでいたのです。あ、人間に私達の姿は見えないので、気付かなかったとは思いますが……。息子達は日本のアニメにハマっていて、たまたまあの倉庫でカ◯ハ◯波ごっこをしていたら、波動が棚に当たり、倒れてしまったとのことで……」


 はい?つまり、女神様の子供がふざけて、ポーズの有名な例の技をくり出したら棚が倒れて、ペンタンを着て浮かれていた私が巻き込まれて死んだと……。


 ーーいやいや、そんなカッコ悪い死に方ってある!?ペンタン着たままだよ?動画を撮ってた志織ちゃんもトラウマものだよ……。せっかくペンタンが納品されたのに、これはもうお蔵入りかもしれないな。あ、カニクリームコロッケ食べ損ねた……。


 ショックを通り越し、もはやどうでもいいことが由美の頭を過る。言葉が出ない由美に、女神がなおも続けた。


「それでですね。お詫びと言ってはなんですが、由美さんを生き返らせました」

「え?私、生き返ってるんですか?じゃあまたあそこに戻れるんですね?」


 しかし、女神は申し訳なさそうに眉を下げると俯いた。


「いいえ。同じ世界には、一度死んだら戻れない決まりなのです」


 戻れないのかいっ!!


 由美は心の中で突っ込んだ。

 ぬか喜びだったようだ。


「しかし、由美さんを必要としている、とある世界にお連れしますので。きっと由美さんにも気に入っていただけると思います!」


 自信ありげに拳を握りながら力説しているが、由美は簡単には信用できなかった。

 バカみたいな理由で死んだ上に、見も知らぬ世界に行けと言われたのである。なんで由美がそんな面倒なことをしなければならないのか。


「あの、転生するってことですか?」


 由美が確認すると、妙に勿体ぶった言い方でセレーンが答える。


「いいえ。今の由美さんのままお連れしますよ。ペンタン含めて」

「は?ペンタン含めて?……それって、どういうことですか?大体、なんで私は今もペンタンを着たままなんですか?そっちは戸籍とか平気なんですよね?」


 矢継ぎ早で質問をするが、由美はだんだんと自分が発光していることに気付いた。ペンタンが輝いているのがわかる。


「そろそろ時間ですね。由美さん、本当に申し訳ないことをしました。新しい世界でお幸せに!」


 ちょっと待って!私の質問に全然答えてないじゃない。自己満足で完結しないでーー!!


 そのまま由美は意識を失ったのだった。



 ーー由美の記憶が完全に戻り、今に繋がった。


 うわっ、全部思い出したのはいいけど、割と碌でもなかったわ……。あの女神様、セレーンさんだっけ?私の質問を全然聞かない人だったなぁ。『君の悪いようにはしない、安心しなさい』とか言われても、全く安心出来ない上司みたいなタイプ……。あ、総務部の課長はいい人だったけど。

 あーあ、せめてペンタンは脱いでからこっちに来たかったわ……。「私に出来ることなら何でもします」の一言は何だったんだろう。


 しかし、日本で生きていた頃に戻れないのなら、この世界で生きていくしかない。

 幸いなことに、召喚という形の為、戸籍の問題や習慣の違いで非難されるということは無さそうだ。


 今のところは丁重に扱われているし、考えてみれば私は運がいい方なのかもしれないよね。うん、きっとそう!このままいけば、とりあえず衣食住は確保出来そうだし!


 この現状を、由美は前向きに捉えることにした。もともとポジティブな性格なのである。

 しかし……。


 由美は目の前に広がる現在の光景に、無意識に溜め息を吐いていた。

 王子がキラキラした期待を込めた瞳で、プロポーズの返事を待っているのである。


 これはどうしたものか……。私の返事によっては、「ここからすぐに出ていけ!」とか言われちゃうかもしれないよね?せめてこの世界に馴染むまでは、ここに居させてもらわないと。

 あー、これは絶対断られることはないと思ってる顔だわ……。プロポーズを受け入れることなく、逆上させずに好感度は現状維持って、なかなかハードルが高くない?


 由美の返答次第では、せっかく運がいいと思っていたこの環境も、すぐに失われてしまうに違いない。


 とりあえず、しばらくは時間を稼ごう!長く一緒に居たら、私ももしかして王子様を好きになっちゃうかもしれないし?


 由美の打算と堅実、ポジティブな性格が合わさり、返事は決まった。

 『保留で行くべし!! 』



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