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3話 王子様の反応は……

「あの、王子様?人使いが荒くて悪いんですけど、今度は背中のファスナーを下げてもらえますか?あ、ペンタンの頭はその辺に置いちゃって大丈夫ですので」


 由美の声で我に返った王子は、手にしていたペンタンの頭に一度柔らかく微笑みかけると、集まっていた衛兵の一人に、打って変わって厳しい口調で言い付けた。


「そこのお前、ペンタン様の頭部を持っていろ。丁重に扱えよ?傷でも付けたら、命はないと思え!!」

「はっ!!」


 衛兵達は、由美がペンタンを脱ごうとしたタイミングで、万が一にでも王子に危害を加えられないようにと、二人の傍で待機をしていたようだ。

 ペンタンの頭を託された憐れな衛兵は、必死の形相で抱えている。


 あらら、可哀想に……。ちょっとくらい落としたって平気ですよ?


 安心させるように衛兵に笑いかけようとしたが、王子が由美と衛兵の間に立ち塞がって邪魔をした。


「ファスナーとはなんですか?」

「ああ、首の後ろに出っ張りが見えます?小さい取っ手みたいな。それをピーっと下に引っ張ると脱げるので」


 角度を変えて少し背中を見せるが、王子は戸惑っている。


「私に女性の服を脱がせと?こんな多くの者の目がある場所で?それなら二人きりの時に……」


 ん?何か変なこと言ってるぞ。二人きりの方が怪しいでしょうが。


「服なら中にも着ているから大丈夫です!!」


 由美が少し引きながらも力いっぱい答えると、王子は「では、失礼して……」と言いながら背後に回り、ファスナーを下まで下ろしてくれた。

 自分の体とペンタンとの間に隙間ができた由美は、おもむろに腕を抜く。


 あー、涼しい。やっぱり着ぐるみは暑いよねぇ。


 上半身は完全に会社の制服姿に戻った由美は、ペンタンの足も外した。あとは下半身に溜まっているペンタンの脱け殻さえ跨いで外に出れば、全て脱ぎ終わる。


 思えば、随分長い間ペンタンを着っぱなしだった気がするわ。 真夏だったら死んでたね。


 跨ごうと足を上げかけた由美だったが、ふいに制服のタイトめなスカートが気になった。


 これ、足を上げたらスカートの中が見えちゃうやつ?


 ペンタンはポッチャリ体型のペンギンなので、脱いでもお腹の形があまり崩れず、潰れずに山になっているのだ。

 一瞬躊躇したその時、王子の長い腕が近付いてきたかと思うと、由美は脇の下から持ち上げられていた。


 え?浮いてる?


 すぐに静かに地面に下ろされ、王子がペンタンから出るのを手伝ってくれたことを悟る。


「あ、ありがとうござ……」


 由美は顔を上げ、王子にお礼を言いかけたのだが、王子の大きな手のひらで右頬を包まれ、言葉に詰まってしまった。


 なんで?綺麗な顔がやたらと近いし!!


 王子は少ししゃがみ、覗き込むようにして大きな手で由美の頬を撫でると、ペンタンを着ていたせいで乱れた由美の髪を優しく直してくれる。


 わわっ、やっぱり背が高いのね。 少ししゃがんだだけじゃ、目線が私より全然高いもの。しかも、何よりこのサラサラの長い銀髪と青い瞳!!切れ長の目、通った鼻筋に薄い唇なんて、パーフェクトじゃない。スラッと細く見えるのに、持ち上げてくれたときは安定感があったし、案外力持ちなのかも……。


 テレビや雑誌でも見たことのない抜群の容姿に見惚れていると、由美の髪を整え終わったのか、王子が満足そうに微笑んだ。


「これでいい。ああ、可憐だ……。まさか、ペンタン様からこんな可愛らしい女性が現れるなんて、私は夢でも見ているのだろうか」


 ……へ?なんだか、ほんの少し前にも同じような場面を見たような……。さっきはペンタンの中からだったけど。デジャブか?


 ペンタンだけでなく、ペンタンを脱いだ由美にまで熱い視線を送ってくる王子に、またしても由美は動揺を隠せない。しかし、王子は再び跪くと、今度はサッと由美自身の手を取り、尋ねた。


「あなたのお名前を伺ってもよろしいですか?ペンタン様ではなく、あなたのお名前を」


 やっぱりまたこの流れなのね。ほぼ再放送のやり取りだわ。


「由美です。笠原由美。あ、ユミ・カサハラって言えばいいのかな?」

「ユミ様と仰るのですね!!素敵なお名前です。ユミ様、我が国の召喚の儀に応じて下さり、ありがとうございます。ぜひ私の妻になって下さい」


 展開はやっ!私が「はい、喜んで」とか言ったら、トントン拍子にハッピーエンドになっちゃうやつ……。まずい、また「完」の文字が見える気がする……。

 確かにすこぶるイケメンだし、イケメンはもちろん大好物だけど、私はこう見えて堅実派なのよ。出会ったばかりの人と結婚なんて出来っこないじゃない。大体、なんでこんなことになってるんだっけ?


 由美はこの世界に召喚される前のことを思い出そうとした。


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