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21話 結婚式で舞うペンタン

最終話です。

お楽しみいただけると嬉しいです。

 レゴラス王子と異世界から召喚された由美の結婚が正式に決定した。


 王太子の結婚だけあって、規模は大きいものになるらしい。

 結婚するつもりはないと断言していた王太子の結婚に、国王と王妃はもちろん、国中の民が式の日を待ち侘びていた。

 庶民の由美には王族との結婚式など想像もつかない為、まな板の上の鯉状態であった。



 今日はそれぞれが準備で忙しい合間を縫い、由美、レゴラス、フィーゴ、シャロンの四人でティータイムを楽しんでいるところだ。

 アローラ事件で由美を守ってくれたフィーゴとシャロンとは、身分を超えて仲良くしている。


「そういえば、アローラ公爵令嬢が王都に戻ってくるらしいですよ?」


 フィーゴが仕入れたばかりの情報を、皆に共有してくれる。


「えっ!それはマズイじゃないですか!大切な結婚式でまた騒ぎを起こす気では?」


 心配するシャロンに、問題ないと余裕で微笑むレゴラス。


 あの日、由美達の誘拐騒ぎを起こしたアローラは、一度は貴族用の牢屋に入れられたのだが、父親である公爵の謝罪と何より由美のとりなしにより解放された。

 由美に借りを作りたくないと牢屋で喚いていたアローラだったが、しばらく王都を離れ、領地で静養することに決まった。

 領地に旅立つ日、「私は諦めていませんわ!いつかインチキ詐欺女の化けの皮を剥がしてやるんだから。覚えてなさい!!」と、元気な捨て台詞を吐いて去って行く姿に、由美はまたしても感心してしまったのだが。


「大丈夫ですよ。また僕が機転を利かせて、チョチョイのチョイってなもんです」


 またフィーゴが調子に乗り始めたが、実際フィーゴには助けられた。


「本当にあの時はフィーゴもシャロンもありがとう」


 由美は改めてお礼を伝えた。

 ペンタンが精霊ではなく、ただの着ぐるみだということは二人には事件の後に説明をしたが、既にわかっていたようでそんなことは大した問題ではないと言われてしまった。ペンタンは可愛いし、もう自分らの仲間だからと。

 今も、ペンタンはお茶の席に交じってちょこんと座っている。


「お礼は十分言っていただきました。それより式の夜のパーティーが楽しみです!私も参加出来るなんて!!」


 由美の結婚式の夜、城で披露パーティーが開かれるのだが、今回はメイドもドレスアップして出席出来ることに決まったのである。由美の口添えがあったからなのだが、シャロンはそれが楽しみで仕方ないらしい。


「シャロンのドレス姿、私も楽しみ!シャロンなら、髪をアップにして、大きな髪飾りを付けたら似合いそう。あ、フィーゴ、シャロンにプレゼントしたら?」


 フィーゴが紅茶を吹き出し、シャロンも慌てている。

 しかし、フィーゴは腹を括ったようだ。


「シャロン、僕が髪飾りを用意するから、付けて一緒に出席してくれると嬉しい」

「フィーゴ様!」


 顔を赤らめながらモジモジしている二人に、呆れたようにレゴラスが命令する。


「お前達、クッキー型の追加分の進行具合を見てきてくれ。ついでにアクセサリー屋でも覗いてくるといい」

「いいのですか?」

「ありがとうございます!!」


 二人は仲良さげに部屋を出て行った。カップルの誕生は間近のようだ。


「煩いのがいなくなりました」

「またそんなことを言って。怒られますよ?」


 レゴラスの気遣いが温かく、由美が笑っていると、言い出しにくそうにレゴラスが話し出した。


「ユミ様、なぜフィーゴとシャロンは呼び捨てで親しげな口調に変わったのに、私だけ以前のままなのですか?」

「だって、レゴラス様だって私に敬語のままじゃないですか」

「私もユミ様に普通に話して欲しいです」


 今回は譲る気がないのか、レゴラスはジッと由美を見ている。


 あらら、これは呼び捨てにするまで動かなさそうだわ。じゃあ言っちゃおうかな?


 由美はレゴラスの耳元に顔を寄せると、そっと囁いた。


『レゴラス、愛してる』


 レゴラスが驚いたように耳に手をやり、真っ赤な顔でテーブルに突っ伏した。


「ズルイです!本当にユミ様はズルイ人だ!」


 照れまくるレゴラスを見ながら、「勝った!」と満足してほくそ笑んでいた由美だったがーー。


 復活したらしいレゴラスに手を引かれ、彼の胸に倒れ込むと仕返しをされてしまった。


「ユミ、いつまでも私が負けていると思うなよ?」


 イケメンのキメ顔と声は破壊力が強く、今度は由美が赤面する番だった。



◆◆◆



 結婚式当日、空は快晴だった。


 レゴラスの指示で作られた由美のウェディングドレスは美しく、薄い布が重ねてある軽い仕上がりだ。

 式はつつがなく終わり、これから城のベランダから民衆へのお披露目タイムである。


「ユミ様、こちらにいらしてもらえますか?」


 シャロンに呼ばれて行くと、そこにはペンタンと謎の台車。


 なんか嫌な予感がするんだけど……。


 不審がる由美に、明るくシャロンが説明する。


「さあ、どうぞペンタン様の中へ。あ、皺になりにくい素材のドレスですから心配はいりません。あとは台車でお運びしますから、ユミ様はペンタン様に入るだけで大丈夫です!」


 いやいや、おかしいよね?なんでウェディングドレスで着ぐるみに入らなきゃいけないの?

 あ、レゴラスがさっき含み笑いしてたのはこれか!!

 やられた……。


 渋々ペンタンの中に入ると、すぐに台車が発車する。

 ベランダに近付くと、レゴラスが光を浴びながら笑顔で待っていた。


「今日のペンタンも一段と可愛いな」

「もう!何考えてるのよ!」


 文句を言いつつも、二人はそのままベランダへ移動した。

 レゴラスとペンタンが現れると、今か今かと待っていた民衆から盛大な歓声が上がる。


「レゴラス様、ペンタン様、おめでとうございます!」


 そこはペンタンなの!?


 おかしさにパタパタとペンタンの手を動かすと、「ペンタン様ー、可愛いー!!」と黄色い声が上がった。

 今やこの国でペンタンは幸福を呼ぶ精霊として有名なのだ。

 今日はペンタン型のクッキーが国民に振る舞われる予定になっている。


「ユミ」


 レゴラスに呼ばれて体を向けると、ペンタンの頭がゆっくりとはずされた。


「ユミ様ー!」


 集まった人々のボルテージも最高潮である。


「ユミ、ペンタンから出てくるユミは最高に可愛くて美しい。私の最愛の人……」


 甘く囁かれたけど、内容がちょっとおかしくない?

 ……レゴラスが幸せそうだからいっか。


 ペンタンを脱ぎ終わり、ウェディングドレス姿の由美が民衆に向き直った時。


「あの女は詐欺師よ!ペンタンはただのぬいぐるみなんだから!!」


 最前列を陣取っていたアローラが叫び出した。


 やっぱり現れたか。すごい執念だわ。でもやっぱり嫌いじゃないのよねぇ。


 人々がアローラの発言に動揺していると、一人の子供が空中を指しながら叫んだ。


「見て!ペンタン様が踊ってるよ!!」


 見れば、由美が脱いだはずのペンタンがくるくると回りながら宙に浮いている。


 は?何が起こっているの?


 隣のレゴラスも呆然と見上げているので、ペンタンが動き出したことはレゴラスにも予想外だったようだ。

 ペンタンは楽しそうに皆の頭上を舞っている。


『由美さん、あれは私の息子です。ご迷惑をおかけしたお詫びと今日のお祝いに。おめでとう由美さん。お幸せに』


 女神セレーンの声だった。

 息子と結婚式に来てくれたらしい。


 ずっと見守ってくれてたのかな。セレーンさん、ありがとう!


「女神様の息子さんみたい。お祝いだって」

「女神の息子って……あの?」


 思っていたより義理堅かった女神親子に感謝しつつ、踊るように舞うペンタンを二人は穏やかな表情で眺めた。

 

 気付けばアローラは姿を消していた。由美を糾弾出来ずに逃げたのだろう。


「ユミとペンタンに初めて会った日を思い出すな」


 懐かしそうにレゴラスが目を細める。


「思えば、初対面の着ぐるみを知らない人に、いきなり脱ぐのを手伝わせるなんてホラーだよね」


 レゴラスの困ったような様子が思い出され、由美に笑みが溢れた。


「確かに困惑したな。魅力的な女性に脱がせろって頼まれたんだから」

「そんな言い方してないもん!」


 子供っぽく言い返す由美に、レゴラスが妖艶に微笑む。


「今夜は全て脱がせるのが楽しみだ」

「え、ちょっ、はあっ!?」


 動揺し、ボフンッと赤くなった由美にレゴラスが口付けると、祝福するようにペンタンが二人の傍で飛びまわり、集まった人々は楽しそうに囃し立てた。


 

 ペンギンの着ぐるみ姿で召喚された由美は、可愛いもの好きな氷の王子レゴラスに溺愛され、いつまでも幸せに暮らしたのだった。


これにて完結です。

お読みいただきありがとうございました。

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