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19話 ペンタンを動かす者

 由美が小さな窓から外を覗くと、歩みを止めた着ぐるみのペンタンが、王子のレゴラスと中庭で対峙しているのが見えた。

 レゴラスは相当怒っているのか、抜いた剣先をペンタンに向け、鋭い眼光で睨みつけている。

 いまだかつてレゴラスがペンタンをこんな冷たい目で見たことはなく、由美は焦燥感に駆られて言った。


「シャロンさん、私達も行こう!」


 廊下へ続いているであろう扉に向かって由美が走り寄ろうとすると、シャロンが止めた。


「ユミ様、確か庭へ続く出口がこちらに!鍵もこちらから開けられます!!」


 シャロンを振り返ると、埃をかぶった棚の影に確かに庭へ出られる扉があった。


 ええーっ、なんて都合のいい展開!罠かと思うくらい。なんでこの部屋に監禁しようと思ったんだろ……。でもここから出れば、すぐにレゴラス様達のいる場所に辿り着けるじゃない。


「シャロンさん、グッジョブ!!」


 意味の通じていないシャロンを急かすと、二人は庭に飛び出した。



◆◆◆



 由美が意識を取り戻す数分前ーー。


 城門の近くでレゴラスはフィーゴに呼び止められていた。


「レゴラス様!やはり戻られたのですね。ユミ様達は城門は出ていないそうです!」


 ずっと駆けずり回っていたのか、フィーゴの息が切れている。


「まだ城の中にいらっしゃるということか。捜索はどうなっている?」

「残っていた兵達で足取りを探って……って、レゴラス様!!あれは!?」


 驚愕の表情を見せるフィーゴにつられてレゴラスもそちらへ目をやると、ゆっくりと黒いものがこちらに近付いてくるのがわかった。


「あれは……ペンタン様?」


 フィーゴの呟きにレゴラスも最初はそう思ったが、すぐにその姿に違和感を覚えた。


 あれは……ユミ様ではない。ユミ様が入っている時と、ペンタン様の纏う空気が全く違う。

 では、あれは誰だ?ユミ様は無事なのか?


 血が逆流する気がした。

 かつて感じたことのない怒りがレゴラスを包み、気付けば偽物のペンタンに剣を向けていた。


「お前は誰だ?」


 レゴラスが低く、冷気が籠ったような声で凄めば、くねくねとした変な動きをしながらペンタンが答えた。


「ペンタンですわ」


 明らかに由美の声ではない。この高飛車な、イライラさせる女の声は……。


「お前はペンタン様ではない。ペンタン様の偽物め……。ユミ様をどこへやった?」


 剣を突き付けられている今の状況でも動じていないのか、偽物のペンタンは呑気な様子を見せている。

 ペンタンの中にいる限り、斬られることはないと思っているのかもしれない。


「あら。あの女以外でも、この黒い塊を動かせるって証明しているのですわ。あの女は創造主などではないし、ただの卑しい出自もわからない女ですのよ?あなたの妃にはもっとふさわしい女性がおりますわ。私とか」

「黙れアローラ。貴様、自分が何をしているのかわかっているのか?」

「ウフフ、私だとお気付きでしたのね。やはり隠しきれない気品が漂ってしまうのかしら?ほら、私が入るとこの黒い塊も高貴な愛らしさに変わるのではなくて?」


 アローラはペンタンの姿でクルッと回って見せたつもりだが、動きにキレがなく、傍目にはカクカクとして気持ちが悪いだけだった。

 身勝手に振る舞うアローラに、レゴラスの怒りが最高潮に達した。


「アローラ、斬られたくなければさっさと脱げ。ペンタン様が穢れる」

「はあっ!?」


 アローラの抗議の声など無視し、レゴラスはフィーゴや臣下の者とペンタンを脱がしにかかった。ペンタンに傷でも付いたら大変である。


 しかし、アローラは抵抗しながら叫んだ。


「私にそんなことをしていいと思ってらっしゃるの?あのインチキ詐欺女がどうなってもいいと!?」

「貴様、私のユミ様に何をした?」


 アローラの言葉に脱がそうとする彼らの手が止まり、レゴラスの剣を持つ手が震えた時だった。



「レゴラス様!!」


 レゴラスがこの世で一番好きな、怒りを一瞬で霧散させる唯一の声が聞こえた。


「ユミ様!!」


 声の方へ顔を向けると、なぜか召喚された時の服装で駆けてくる由美。


「インチキ詐欺女!なんであんたがここにいるのよ?あいつら、しくじったわね?」


 自分が誘拐を仕組んだとバレバレな発言をするアローラから、ペンタンのパーツが剥がされていく。

 元のドレス姿に戻ったアローラは、それでも余裕な態度を崩さなかった。


「アローラ、貴様は牢屋行きだ」

「あら、牢屋に入るべきはそちらの詐欺師ではなくて?創造主だなんて嘘をついて、王太子に取り入ったのですから。その黒い物体を私が動かしていたのをみんな見ていたでしょう?それは精霊などではなく、ただの入れ物ですわ」


 アローラを捕らえようとしていた臣下の手が止まる。

 アローラによる由美の誘拐は大事件だが、由美が王子を偽っていたのならそれもまた大事である。


 大勢の目が由美に向けられたがーー。


「あーっ、ユミ様!今日はペンタン様を動かす日だったんですね?その服、力を出すときに着るあちらの世界の物じゃないですかー」


 フィーゴがわざとらしい大きな声を出し、シャロンに目で合図を送っている。

 シャロンもそれに気付くと話を合わせだした。


「ユミ様ってば、災難でしたよねー。ペンタン様に力を与えた直後に襲われてしまって。眠らされていた間にペンタン様を乗っ取られてしまいましたけど、さすがレゴラス王子!違いにすぐにお気付きになられましたよね?」


 レゴラスにまで話を振っていく。


「ああ、もちろんだ。一目でユミ様の意思ではないと気付いた。ペンタン様のオーラが全く違うからな」


 いやいや、その言い訳は苦しいんじゃないかな。みんなの気持ちは嬉しいけど、茶番が過ぎるというか……。

 騙す気はなかったけど、結局訂正もせずに創造主のままでいい暮らしをさせてもらった私も悪いし。

 牢屋は嫌だけど、ペナルティは仕方ないかも。


 しかし、ここで由美の想定外の事が起きた。


「確かにユミ様が召喚された時、あの服でペンタン様から現れたよな」

「さっきのペンタン様、様子がおかしかったもんな。あれって主以外の他の奴に乗っ取られて、嫌がっていたんじゃないか?」

「大体、あの王子が騙される訳がないんだよ。『氷の王子』だぞ?」


 意見があっさり纏まったらしく、兵がアローラだけを連行していった。


 嘘でしょ!?みんな信じちゃったの?私、創造主続行!?


 由美が呆然としている間にフィーゴとシャロンは静かに立ち去り、中庭にはレゴラスと由美、そしてペンタンの抜け殻だけが残されていた。


あと二話で完結します。

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