17話 恋のライバル登場?
レゴラスが公務で王都を離れる朝、由美の姿は城の玄関にあった。もちろん見送りの為である。
隣には共に運ばれてきたペンタンもいる。
「レゴラス様、お約束のペンタンマスコットです。あまり上手ではないですが、お守りがわりに持っていって下さい」
ちょっと歪だが、あざとい顔とぷっくりお腹が特徴的なペンタンを手渡す。
綿をたくさん詰め込んであり、もはや手のひらサイズのぬいぐるみである。
「ペンタン様!!小さくても可愛らしい!肌身離さず持ち歩くことにします。ユミ様、ありがとうございます」
満面の笑みで、レゴラスはペンタンをマントの胸ポケットに差し入れている。
え?そこに入れるの?ペンタンの顔が丸見えだし、みんなギョッとしてるけど。でも嬉しそうだから何も言えない……。
他の者も何も言えないらしく、レゴラスはペンタンをそのまま覗かせつつ、出立していった。
「すぐに帰ります」と何度も言い、しつこいくらいにいつまでもこちらに手を振りながら……。
「とても名残惜しそうに行かれましたね」
シャロンが笑いを噛み殺している。フィーゴもそれに頷きながら、すっかり疲れた顔をしていた。
フィーゴは今回も留守を預かっており、由美の様子を逐一レゴラスに伝える役目があった。早馬が何頭も用意されているらしい。
「ペンタン、喜んでもらえて良かった。シャロンさん、手伝ってくれてありがとう」
そんな話をしながら、三人で廊下をゾロゾロと歩いている時だった。
「ちょっと!あなたが召喚されたとかいう、その黒い塊の持ち主?」
若い女性に話しかけられた由美は足を止めた。
廊下をこちらに向かって歩いてくるその女性は、使用人を数名従えており、非常に堂々としている。
胸元の豪華なネックレスがキラキラと眩しい。
うわぁ、なんて綺麗な子。若そうだとは思ったけど、よく見るとまだ10代なのかも。でも大人っぽいドレスが似合うし、スタイルが良くて色っぽいなぁ……。
うぅっ、私と全然違うじゃん。
長い巻き髪でこの世界の人間にしては小柄だが、整った目鼻立ちが少しキツイ印象を与えている。
「ユミ様に失礼ですよ、アローラ公爵令嬢。ペンタン様は黒い塊などではありませんし、ユミ様は創造主で、レゴラス様の妃候補筆頭なのですから」
フィーゴは訂正して諌めると、ペンタンを運ぶ使用人達に目で合図を送り、ペンタンを先に部屋に戻らせようとした。
通り過ぎるペンタンを横目で忌々しそうに見ながら、令嬢は全く反省する素振りを見せない。
「だから何だと言うのかしら?何か私が間違っていて?そこの女があの黒い塊に入って動かしているだけでしょう?奇術にもならないし、私でも出来るわ。フフ、こんなどこにでもいる庶民くさい女が妃だなんて笑っちゃうわ」
「酷いです!ユミ様は素晴らしいお方で、王子に誰よりも愛されているのですから!!」
由美と仲の良いシャロンが令嬢に食って掛かるが、由美はむしろ感心していた。
おおっ、美人の公爵令嬢が言うと迫力と説得力が違うわー。こういうハッキリしてるキャラ、結構好きなんだよね。
しかも何より、この子が一番正しいことを言っているのが笑える。確かにペンタンはただの着ぐるみだし、私は庶民だしねー。
由美は好意すら感じながらアローラを見ていたのだが、彼女にはそれが余裕な態度に見えて面白くなかったようだ。
「言い返さずに平然としているなんて、腹の立つ女ね。メイドの躾もなってないし。誰が本当に王子妃にふさわしいか、これから思い知らせてやるから覚悟なさい!!」
そう言い捨てると、アローラはドレスをひるがえし、颯爽と去っていった。
うんうん、プライド高そうでいい感じ!ああいう『いかにも』なご令嬢もやっぱりいるものなのね。テンション上がるわー。
アローラの態度を楽しく観察していた由美だったが、二人には由美が彼女の態度と言葉にショックを受け、言い返せなかったと思われたらしい。
すぐさまフィーゴがレゴラスに知らせる為にその場を離れ、シャロンに心配そうに部屋へと誘導されてしまった。
いやいや、あんなので傷付くほど私ナイーブじゃないし。それどころか面白かったくらいで……。
しかし、レゴラスが出発してまだ僅か30分。
最初の早馬が城から飛び出したのだった。