表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/21

16話 涙を拭ってくれる人

「『また死んでしまう』とは、どういうことですか?」

「それは、えっと……」


 いけない!私、まだ元の世界で死んでること言ってなかったよね。こんな話、重いし聞きたくないんじゃ……。


 しかし、重ねて問いかけるレゴラスの瞳は真剣そのもので、とても誤魔化せる雰囲気ではない。

 動きを止めた由美は、悩みつつも日本で最後に起きたことを全て打ち明けることにした。ペンタンの中に入っていると、レゴラスの顔を直接見なくて済むのが救いであった。



「ということは、その女神の息子のイタズラによって、ユミ様の大切な命が失われ、その直後にここへいらしたと?」

「そうみたいなんですよね。この格好で今みたいにふざけてポーズを取ってたら、ペンタンごと潰されちゃったみたいで。いやー、参っちゃいますよね。間抜けな最後で。もう元の世界にも帰れないし……」


 わざと明るく伝えてみたが、レゴラスは再び剣に手を置くと、激しく怒り出した。


「なんてことを!女神の息子といえど、許しはしない!ユミ様の代わりに私がこの手で!!」


 由美の前ではいつも朗らかなレゴラスが、ものすごい剣幕で上空を睨んでいる。


「あ、あの、大丈夫です!もちろんショックでしたけど、きっと寿命だったのだと思います。今はこちらで良くしてもらっていますし」


 なんとかレゴラスを宥めようと、ペンタンの手をパタパタとさせていると、レゴラスがゆっくりと剣から手を離し、俯き加減で言った。


「酷いのは私も同じですね。あなたから元の世界に帰りたいと言われるのが怖くて、今まで経緯を聞けずにいました。私はユミ様を失うのが怖くてたまらないのです」

「レゴラス様……」


 自分で思っていた以上に、私はこの王子様に大切に思われてたみたい。ペンタンのオマケだと思っていたけれど、私自身もちゃんと見てくれてるのね。


「ユミ様、辛かったですね。泣いてもいいのですよ」

「ふふっ、泣きませんよ。もう仕方のないことですし……」


 言いながら、目が涙で潤み始めた。


 あれ?なんで今更涙が出てくるんだろ。だってもう死んじゃってるんだから、どうにもできないことだし。

 家族や友達がどうしてるか、仕事がどうなったか、気になることはたくさんあるけれど、ずっと考えないようにしてきた。だって、考えたら悲しくて潰されちゃいそうで。


「ううぅ……」


 本格的に涙が溢れてきてしまう。

 気付けばペンタンの頭がはずされ、由美の濡れる頬にレゴラスの手が添えられていた。


「私の前では無理をしないで好きなだけ泣いて下さい。私がいつだって涙を拭いますから」

「そんな王子様みたいなセリフ……」


 本物の王子相手なのだが、人前で泣くのが恥ずかしくてつい冗談めかして言ってしまう。


「ふふっ、王子なので。本当はユミ様だけの王子になりたいのですけどね」

「王子様ってすぐ愛を囁いたり、プロポーズしたりしますよね。格好いいけど」


 いつも慣れたようにサラッとキザなことを言うレゴラスに、つい憎まれ口を叩いてしまう由美。

 実際は、甘い雰囲気に呑まれそうになるのを必死に抗っていた。


「あはは!ユミ様は手強いですね。でも私も『優しいだけの王子』ではないので、ユミ様に帰る場所がないのをいいことに、あなたを私のものにするつもりです。時間をかけて、心ごと」


 え?とりあえず保留にしてたけど、本気で私と結婚するつもりってこと?


 レゴラスは指で由美の涙を拭うと、由美を抱き締めた。

 小柄な由美の体は、レゴラスの長身と長い腕にすっぽりと覆われてしまう。


 うわぁぁ、王子様に抱き締められてる!まあ首から下はペンタンだからそんなに密着はしてないけど、あまり絵面が良くないーーって、そういう問題でもないし!


「涙は止まったようですね。これからもずっと傍にいて、あなたを笑顔にします」


 由美の後頭部を撫でながらレゴラスは言ったが、急に撫でている手が止まり、慌てたような小さな声が聞こえた。


「あ、遠出の仕事があったな……。いや、ユミ様とペンタン様を置いていくなど、考えられない!一緒に連れていくか?でも険しい道だし……」


 プッ。「ずっと傍に」って言っちゃったばかりだから、困ってるのね。そんなの実際は無理なんだから、気にしなくていいのに。


「遠出のお仕事、頑張ってきて下さい。ペンタンとお留守番しているので」


 レゴラスの腕から抜け出し目を見て言うと、レゴラスは情けない顔をした。


「お二人と離れるなんて、私が寂しくて耐えられません……」

「何を言ってるんですか。フィーゴさん達も困りますよ?」

「最近フィーゴは調子に乗っているので、少しくらい困ればいいのです。以前は真面目で大人しいヤツだったのに」


 またそんな子供みたいなこと言って。でもフィーゴさん、最近態度がくだけてきたと思ってたら、やっぱりキャラ変してたのか。

 お城の人達、全体的に気安くなってきてるよね。レゴラス様が怖い人じゃないってわかってきたからかな。


 以前の『氷の王子レゴラス』は知らないが、由美の知る今のレゴラスは、度を越えて可愛いものが好きな、イケメンで優しくてちょっと困った可愛い人である。



 その後、マドレーヌ型の依頼から戻ってきたフィーゴが、遠出の仕事など嫌だと駄々をこねるレゴラスに困り果て、由美にチラチラと助けを求めてきた。


「レゴラス様、お守りがわりにペンタンの小さなマスコットを作りますから、それで我慢して下さい」

「ユミ様手作りの小さいペンタン様!?行きます!速攻行って、終わらせます!!」


 なんてチョロい……。でもこの感じ、クセになるんだよね。


 いつの間にか笑顔になっている自分に気付く。

 フィーゴが視界の端で、由美を拝んでいた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ