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15話 甘える氷の王子様

「ユミ様!?突然どうされました?何か困ったことでも?」


 執務室へ予告なしに押しかけた由美に、レゴラスは相当驚いていた。

 由美の顔を見るや否や心配そうに駆け寄ってきたので、慌ててレゴラスの手を取ると、手のひらにクッキーを乗せた。


「これは……ペンタン様のクッキー!?」


 目を一瞬見開いた後、レゴラスは恍惚とした表情でクッキーを眺め、慈しむように捧げ持ったまま動かなくなってしまった。


「レゴラス様?おーい、レゴラスさまー。焼きたてのクッキー、食べないんですかー?」


 微動だにしないレゴラスに不安になり、由美は立ち尽くすレゴラスの顔の前で左右に手を振ってみる。


「はっ、こんな可愛らしいペンタン様を食べるなんて、そんな非情なことは出来ません!!」

「いやいや、今更『氷の王子』が何を言ってるんでしょうね。レゴラス様が食べないなら、私が先に……」


 フィーゴがからかいまじりにレゴラスの手からクッキーを奪うと、自分の口に運ぶ真似をした。

 もちろんそれはふりだけで、彼なりの冗談だったのだが、ペンタンを盗られたと思ったレゴラスは途端に冷気を纏い、腰の剣に手をかけた。


「フィーゴ、お前は許されざる罪を犯した。死をもって償え!」


 ヒエーッ、たかがクッキーひとつで!まだたくさんあるのに。

 というか、なんだこの茶番は……。フィーゴさん、追いかけ回されてる割にヘラヘラしてるし。


「レゴラス様、こっちのペンタンも可愛いですよ?はい、アーン」


 クッキーを作った者として、殺伐とした空気になぜか責任を感じてしまった由美は、状況改善に向けて一肌脱ぐことにした。

 腕を掴んで止まらせると、勢いでレゴラスの口にクッキーを放り込み、すかさず猫やクマのクッキーも見せる。


「他の形もあるんですよ?可愛いでしょう」


 猫のクッキーを目にしたレゴラスは漸く剣から手を離し、クッキーを飲み込むと、由美の方に向き直って優しい声で話し始めた。


「ユミ様、可愛い上にとても美味しいです。ペンタン様の型を作るなんて素晴らしい発想ですね」


 一転して穏やかな空気を醸し出すレゴラスを見て、フィーゴとシャロンが口々にはやしたてる。


「よっ、ユミ様!さすが、王子使い!」

「今日も王子の扱いが冴え渡ってますね!」


 なんだそれ。猛獣使いみたいな言われようだし、あなた達ってばどんどん王子様の扱いが雑になってきてない?


 しかしレゴラスは耳に入っていないのか、二人の言葉を気にすることもなく、腰をかがめて甘えるように再び口を開けた。

 由美は大人しくクッキーを与え続けながら、シャロンの知り合いに型を作ってもらったこと、他のお菓子の型も欲しいことを伝えた。


「なるほど、それは早急に作らせましょう。フィーゴ、シャロン、今すぐ頼む。他にもユミ様が使いそうな道具があれば、まとめて注文してきてくれ」


 え?今から注文に行くの?


 不自然に思った由美が二人を見れば、彼らも不思議そうな顔をしつつも、すぐに返事をすると部屋から出ていった。


 突如レゴラスと二人きりにされてしまった由美。

 こんなことは始めてでソワソワしていると、レゴラスがペンタンに近付き、頭を撫でた。ペンタンは今日も由美と一緒に移動しており、ここまで連れてこられていた。


「ユミ様、甘えついでにお願いがあるのですが」


 さっきはやっぱり甘えていたらしい。レゴラスへのアーンは少しも嫌な気持ちがしない為、美形は得だなと由美は思った。


「何ですか?」

「ペンタン様の中に入って欲しいのです。実はずっと、もう一度ユミ様がペンタン様を動かすところが見たくて。人払いもしましたし、お願いできませんか?」


 なるほど。二人のおつかいは人払いだったのね。別に見られても構わない二人だけど。


「いいですよ。今日のドレスは比較的短めで動きやすいですし」


 由美がさっさとペンタンの頭部を脇に寄せると、レゴラスがタイミング良く由美を持ち上げ、ペンタンの胴体に入れてくれる。

 ヒールを脱いで足の部分を履き、ファスナーと頭部をレゴラスに頼むと、あっという間にペンタンに変身し終わった。


「じゃーん。どうですか?可愛い?」


 なぜかペンタンを着ると、テンションが上がってしまう。

 由美は頼まれてもいないのに、次々と軽快にポーズをとってみせた。


「ああ!!やはりユミ様が中にいらっしゃると、ペンタン様の可愛らしさが桁違いに増しますね!愛おしくて堪りません」


 まるで愛の告白のように聞こえた由美は、照れてつい余計なことを口走ってしまった。


「こうやって調子に乗っていると、またうっかり死んじゃったりして」

「え?それはどういう……」


 由美は、召喚されるまでに起きた出来事をまだレゴラスに話していなかったことに気付き、焦ったのだった。


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