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14話 サプライズのペンタンクッキー

 由美がこちらの世界に召喚されてから、既に一週間ほどが経っていた。

 城の人達は皆親切だし、何より王子のレゴラスが常に気にかけてくれる為、快適な日々を送っている。


 この日、朝食が終わった由美の周囲にレゴラスが居ないことを確認するなり、メイドのシャロンが駆け寄ってきた。


「ユミ様、頼まれていたものが出来上がったそうですよ!」

「ええっ!?もう出来たの?この前お願いしたばかりなのに」


 由実が驚いていると、由美の反応に気を良くしたのか、胸を張りながらシャロンが得意気に答えた。


「このくらい、お茶の子さいさいですよ。私にはツテがありますからね!早速ご覧になります?」


 こっちの世界でも、お茶の子さいさいって使うんだー。久々に聞いたけど。


 由美の返事は決まっていた。


「もちろん!!早く見たいわ」


 というわけで、レゴラスが仕事に向かうのを見送った後、急いで厨房へやってきた二人。

 厨房の作業台には、ペンタンや、猫やクマの形をしたクッキー型がたくさん並べられていた。


 

 時を遡ること少し前。

 お茶の時間に星形のクッキーを食べていた由美は、ふと疑問に思ってシャロンに尋ねたのである。『この世界に、動物の形のクッキーはないのか』と。

 そのようなクッキーを今まで目にしたことのなかったシャロンは、由美にクッキー型を作ることを提案した。

 シャロンの友人のお父さんが鋳物の職人をしているから、依頼をしたら作ってもらえると教えてくれたのだ。


 こちらの世界のクッキー型は、日本で一般的な抜くタイプではなく、鯛焼きのように溝に流し入れて使う型が主流だ。

 試しにペンタンの全身と、猫とクマの顔だけのイラストをシャロンに渡したのだが、実物の型を確認してみると、あまりの出来栄えの素晴らしさに由美は目を見張った。


「シャロンさん、これ凄いね!プロの技っていうか、こんなにイラスト通りの型が出来るなんて!」

「おじさん、気合いが入ってましたからね。でもこんな可愛い絵は今まで見たことないって。ペンタン様の実物に会いたがってましたよ」


 抜き型と違って顔のパーツも凹凸で表現してある為、ただのペンギン型ではなく、すぐにペンタンだとわかる。


「あー、早くこの型を使って焼いてみたいわ。可愛く焼けるかな?」


 そこで、コック長がすかさず話に入ってきた。


「ユミ様、生地なら私共で用意しておきましたよ。オーブンも温めてあります。いつでも焼けますが」


 え、ほんと?今から生地寝かせたりしなくていいの?それって、ほとんど小学生のお菓子教室みたいな、焼くだけのおいしいとこどりじゃない。


「コック長さん、ありがとうございます!今から少しスペースとオーブンをお借りしてもいいですか?シャロンさん、私これからクッキー焼いてもいい?」

「構いませんよ。私もお手伝いしましょう」

「私もやりたいです。おじさんに感想を伝えたいので」


 二人が快く賛成してくれたので、由美は早速クッキーを焼くことにした。

 コック長は流石に慣れたもので、コツや、焼き時間などを丁寧に教えてくれる。



 一時間半後、型を繰り返し使いながら、クッキーが焼き終わった。

 途中様子を見に来たフィーゴには、レゴラスへの口止めを頼んである。サプライズで差し入れをする予定だからだ。


「可愛い!初めてなのにこんなに上手く焼けるなんて、コック長さんのおかげです。ありがとうございます」

「いやぁ、可愛いクッキーが焼けましたね。こうなると、マドレーヌ型も欲しくなりますね」

「それいいですね!追加でおじさんに頼んでおきます」


 確かにペンタンマドレーヌも捨てがたいが、そもそもこの型はいくらかかったのだろうか。

 由美は急に不安になり、シャロンに確認することにした。


「シャロンさん、このクッキー型ってお高いんじゃ。つい頼んじゃったけど、私こちらのお金って持ってなくて……」


 まあ、あちらのお金にしても、お財布もカードも会社のロッカーに入ったままだから今は持ってないんだけどね。


 すると、再び顔を出していたフィーゴが会話に加わり、当然のように答えた。


「支払いは済んでおりますので、ご安心を。ユミ様が必要なものは、何でも揃えるようにレゴラス様から言われていますからね。まさか最初に欲しいと仰られたのがクッキー型とはビックリしましたが。普通の女性は宝石とかドレスをねだるものかと……」

「ユミ様はその辺の高慢ちきなご令嬢とは違うんですっ。ご自分のことより、レゴラス王子のことを考えていらっしゃるのですから!」


 ムッとしたのか、すかさずシャロンがフィーゴに言い返している。


 というか、ドレスはすでにたくさん用意され過ぎてて、そんなにあっても着きれないし。宝石なんて、国宝級で怖くて触れない……。こんなに良くしてもらってるんだから、少しは王子様へのお礼になるといいんだけど。


「ハハッ。わかっていますよ。さあ、焼き立てのうちにクッキーをレゴラス様の元へ。確実に喜びます。命を懸けてもいいです。あ、マドレーヌ型の代金もお任せ下さい。ケーキ型も頼みましょうか」


 そこから聞いていたのね。さすが王子の側近、抜かりないわー。こんなことで軽々しく命を懸けないで欲しいけど。


「ありがとうございます。じゃあフィーゴさんも一緒にお茶にしましょう!」


 こうして、皆でレゴラスの執務室へと急いだ結果ーー。

 ある程度はレゴラスの喜ぶ顔を想像していた由美だったが、思っていた以上の反応に驚くことになるのだった。



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