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付術師のアルカナ  作者: ク抹茶
第1章 ヴェロニカ・エンチャンター
1/15

4話『ヴェロニカの進級試験』

4つ目に1話があります。見る順番はお好みで。

 高等部1年生になったヴェロニカは学院の寮で


 同学年の女子生徒と一緒の部屋。




 部屋は広いとは言えず魔術の練習には使えないが


 ストレスを感じるほどでもないので特に気にしないでいる。


 と言っても学院生の殆どは魔術の研究や修練に明け暮れているため


 部屋にいる時間も少なく


 3日に一度帰ってきて寝るくらいにしか使われていない。




 それはヴェロニカも例外ではないようで、


 今日も今日とて自分の興味が(おもむ)くままに勉学に励む。


 やることは中等部の頃から変わらない。


 付術の書物を読み漁り、実験する。




 ヴェロニカの最近の悩みと言えばお金がないこと。


 付術の練習をしようにも付与する物が無ければ意味がない。


 そこら辺で拾ってきた木の棒にでも付術はできるが


 範囲に限界がある。


 重たい荷物を細身の人が持てないように付術も


 強力な呪文に耐えうる素材がいるのだ。




「…………あら、もう授業の時間ね」




 学院の3か所に設置してある大きな鐘。


 それらが一斉に鳴り始め現在の時刻を教えてくれる。


 鐘は初等部、中等部、高等部の中央広場にある。




 今鐘は6回鳴った。


 つまり


 本日3回目の授業ということになる。




 鐘の鳴る時刻は1日に8回訪れる。


 1回目は1日の初めである真夜中に。


 2回目は真夜中と明け方の真ん中に。


 3回目は学院生が起きる時間の明け方にと、こんな感じだ。




 最初の授業は明け方と真昼の間の時間に行われ、


 次は真昼の時間に行われる。


 今は3回目なので真昼と夕方の中間。


 6回鐘が鳴る時間だ。




 ——1年生の講義室に着いたヴェロニカはいつもの


 入り口近くの席に腰を下ろす。


 他の皆は既に来てしまっている。




 とても静かだが、それは魔術師同士があまり会話しないからだろう。


 友達という関係性を築いているものは少ない。




「皆さんもう席に着いていますね………。


 それでは始めましょう」




 講師は若い男


 に見えるが実は70歳を超えている召喚術師。


 3年生の講師をしている。




 ちなみにヴェロニカは1年生の中でもギンペェルスという


 最上位のクラスにいる。


 分かりやすく言うなら優秀なのだ。




 ギンぺェルスとは呪文の名前。


 下から順にレディムル、バムナグ、そしてギンペェルス。




 落ちこぼれのクラスとしてアルゥスがあるが、


 これは能力的な問題もあるが1番の要因として魔術師としての


 在り方に欠けていると判断された者がなる。




 感受性が豊かとか感情に流されやすいとか


 そういう話だ。




「つまり、この書物において無数にある世界の


 傍観者である創世の女神は、


 あらゆる事象に干渉し得ることが可能で、


 またあらゆる創造物の支配者であるからして、


 その怒りに触れようものなら


 肉体に限らず魂までもが消滅すると……………。


 はい、私の授業はここまで」




 高等部になってから歴史の授業は増えた。


 付術が絡むものも稀にあるが


 ヴェロニカにとってそれはとても退屈な時間。


 ただそれももうすぐ終わる。




「はい、皆さんそろそろ2年への進級試験が迫ってまいりました。


 試験内容を私は知りませんが皆さんが無事、


 昇格することを願っています。


 はい以上……」




 そう、もうすぐヴェロニカは2年生になるのだ。


 最近は退屈な授業が増えて面倒くさかったヴェロニカだが


 これで多少はマシになると思えば気分も楽だ。




 ——最初に講師が出ていき次に部屋を出ていくヴェロニカ。


 来ているローブはヒラヒラと歩くたびに(なび)く。


 これは高等部に上がった際


 学院から渡された学院生のローブ。




 胸付近にある模様は学院の入り口にある紋章と同じ


 目の形をした学院創設の時からあるもの。


 何気にローブを着用している者の魔力回復力を上げている。


 ちなみにヴェロニカはこれを勝手に改造して色々


 付術を追加しているが咎められることではない。




 ——高等部の学院内構造としては


 最上階が生徒たちの部屋がある寮で


 次に下に降りた階層が高等部1年生の講義室。


 その下が2年、3年となっていて


 最下層が実験場や図書館、様々な器具が置いてある


 生徒や講師等の憩いの場所。


 学生寮の更に上は中央広場を囲うように講師用の


 部屋や禁書庫がある学院生立ち入り禁止の塔が並ぶ。




「早くアレを完成させたいわね」




 独り言を呟きながらヴェロニカが通過していく


 この場所が学院に3つある吹き抜けの中央広場。


 広場と魔術修練場だけが外の景色を見ることが叶う。




「さてと…………」




 自分の部屋で羊皮紙に何やら書いているヴェロニカ。


 最近の彼女は先ほど言っていたアレ


 と言う物を完成させるために設計図のような計画書を練っているのだ。




「これは必ず欲しいけど、限られた範囲で贅沢かしら?」




 アレ、とは言うまでもなく付術したもの。


 試験用に準備をしている。




 高等部に上がるための試験は筆記だったが、


 例年通りなら2年へ上がる試験は魔物の討伐。


 戦闘を伴う試験。


 毎年必ず死者の出る危険なものだ。




 その対策のためヴェロニカは所謂


 魔導具と呼ばれる付術の施された武器を作ろうとしている。




 防具や武器に付術する場合


 魔導防具や魔導武器といった言い方をする人もいる。


 ただ面倒臭いので全部まとめて魔導具だ。




「外での試験なら寒さへの耐性を………。


 攻撃への耐性は…………まあいいわ。


 杖の方の付術はもう決まっているし、これで完成と言っていいわね!」




 付術する呪文の選定が終わったようだ。




 そうすると後は付術をするだけなのだが、


 付術師はヴェロニカ意外にも数人いる。


 他の術師より少ないが付術台も少ないのでいつも空きがない。


 部屋に自分用のを置ければいいが


 付術台の製法は秘匿されているため実現できないのが現状。




 ならばどうするか。


 答えは順番を決める。


 なんとも単純だがこれが1番合理的で手っ取り早い。




 そんなこともあって付術師が付術台を使うときは


 事前にやることを決めて一気に終わらせてしまうのが通常だ。


 ヴェロニカも今その事前準備が終わった。




「私の順番は………明日ね…………。


 はぁあ、これだけが唯一の悩みね」




 待たされることがヴェロニカには不快なよう。


 暇ができてしまったが午後の授業までやることがない。


 学院の付術関連本は読み切ってしまったし、


 他に興味のあるものも思い当たらない。




 しょうがないので試験が筆記だった時のために


 図書館で勉強をすることにした。




 ——図書館へ行くには地下へ降りなければならず、


 そのためには3方向の長い通路を行った先にある


 長い階段を降りなければならない。


 初等部から続いていることなので


 それほど苦ではないが魔術師はそもそも筋力が弱いので疲れはする。


 荷物を運んでいる時は尚更。




「お、何だアルゥスの奴がいるじゃないか」



「よお、落ちこぼれ!」




 途中の階層で何やら揉め事が起こっているよう。


 見るに落ちこぼれクラスの女子生徒を2人の男子生徒が


 いじめているようだ。




 相も変わらずあの2人は楽しそう。


 この前も同じようなことやっていたのに


 飽きないのかしら?


 そこが不思議でならないわ。




 ヴェロニカはそんなことを立ち止まって思う。


 何処でもあんな輩はいて初等部からもう見飽きている。


 それによく見ると2人の男子生徒の胸には


 学院の紋章の部分にレディムルと記されている。


 これはつまり最下位のクラスの生徒を1段上のクラスの生徒が


 見下していると言うこと。


 普通ならそんなことをしている暇はないのに


 争いは近いもの同士でしか起こらないと言うことだろう。




「おい! 黙ってないで何とか言えよ!」



「きゃっ……………! お前等なんか、お前等なんか………」



「お、何だ? 小さすぎて聞こえないぞぉ?」




 まあ、ヴェロニカには関係のないこと。


 そんなわけで無視して図書館の方へ向かう。


 勿論他の生徒も構っている暇はないので無視する。


 そこに善意も悪意もない。




 ——図書館でパラパラと本をめくるヴェロニカの手元には


 複数種類の書物が何冊か積み上げられている。



『魔物について〜上巻〜』



 これは様々な地域の魔物が記載されている図鑑。


 結構な量が紹介されているため


 目当ての魔物を探すのに苦労するが、


 地域ごとに分けられているため


 寒い地帯の魔物を探すには打って付けだ。




「「「「「…………………………………………」」」」」




 静かな場所。


 それもそのはず。


 ここは図書館で、大声を出したりすれば注目の的。


 下手をすれば怒った誰かによって攻撃されるかもしれない。


 冗談ではなく本当にそんな場所だ。




 この魔物は弱そう。


 でも良い素材になりそう。


 そうだわ。


 魔物を討伐するついでに何か魔導具の


 素材になるものでも探すというのはどうかしら?


 外に出る許可を取るのは面倒くさかったから


 丁度いいわ!




 本を読みながら考え事をするヴェロニカや他の生徒。


 だがその時間はある1年生の登場によって崩れ去る。




「皆さぁん! ちゅうもぉく!」




 久しぶりに大きい声を聞いて逆に新鮮な図書館の面々。


 声の主は学院生のローブを着ていないことから


 初等部か中等部の男子生徒。


 だが体格的に中等部の2年か3年生だろう。


 他に2人のそれぞれ男女が横にいる。


 そして1番目立っている生徒は気弱そうな男子生徒の


 服を掴んで無理やり立たせている。




「今から、この落ちこぼれ君の処刑を行いまぁす!」



「いえい、いえい!」



「や、やめっ………」



「ほら挨拶しろよ。自分は未来のアルゥス生ですって!」




 こういう奴らは中等部や高等部1年生に


 なったばかりの生徒に数人はいる。


 親がそれなりに良い家で調子に乗っているのだろう。




 そして高等部にだけあるアルゥスのクラスを知って来た。


 変な幻想でも抱いているのか


 こういうことをして英雄視でもされたいのだろう。




「ほら、ゴミは早いうちにポイしないとな……! あえ?」




 徐々に大きい声が不快になってきた頃、


 ヴェロニカよりも後ろから


 男子生徒が風の魔術で攻撃した。


 身なりからして同学年。


 バムナグというクラス名がヴェロニカの位置からかろうじて見える。




 そんな彼が放った魔術は風の初級魔術。


 高速で飛んでいく風の刃で対象を切り裂く。


 その魔術で落ちこぼれ君を掴んでいた中等生の腕が切れ落ちる。


 狙いは正確で無詠唱の魔術を使っている。


 クラス序列2位というだけはある。




 魔導具があればこんなふうに無詠唱が


 出来るのだが、ヴェロニカは魔導具があっても


 必ず1つ以上の呪文を唱えなければならない。




「あ、あああ! 俺の腕がぁ!!」



「ヒ、ヒィッ……!」



「…………お、おいお前何すんだよ!」




 女の方は後退りをして無傷の男の方は


 魔術を放った男子生徒に詰め寄る。




 男子生徒はそんな彼らの元に歩いて向かい言う。




「君たち中等部の生徒だな。


 ここは高等部の敷地。


 用もないのに来るもんじゃない」



「な、何言ってんだお前!」



「それと、君は先程その生徒をゴミだと言ったな。


 だがそれでは魔術師として失格だ。


 その生徒にだって使い道はある。


 僕は人間を使った魔術を扱わないから必要ないが、


 死霊術などでは重宝するんだ。


 君は要らなくても必要だと言う者は必ずいる。


 あらゆる視点に立って考えるんだ」



「な、何なんだよお前………」



「それと重要なことだが、ここでは静かに……」



「ねえエリク、良い加減にそいつら黙らせてくれる?


 さっきから転がって(うめ)いているソイツ……うるさい」




 男子生徒の名はエリクというらしい。


 さっきは別々に離れていたが同じバムナグのクラスだと


 思われる女子生徒が不機嫌そうな態度でそう言った。




「ああ、確かにうるさいな」




 エリクは腕を失って泣きそうになっている


 中等生に手を向け無詠唱で魔術を放つ。


 先程と同じく風の魔術。


 それは攻撃魔術。


 中等生の頭は風の刃が近距離で直撃し吹き飛んだ。




 荒っぽいがこれで静か。


 図書館にいた高等生もホッと一息。


 ヴェロニカもようやく本を読めると目線を元に戻す。




「き、キャアァァァァ!」



「うわあああ!」




 最後に2人がうるさくて不快だったが


 まあ、終わったし別に良いだろうとヴェロニカは思う。




 落ちこぼれ君はエリクに一言感謝を伝えて帰っていった。



 今日はそれなりに騒がしい日だった。




◇◆◇




 次の日の夜中。


 付術台をヴェロニカが使って良い時間。


 最下層のいくつか区切られている部屋の一室にそれはある。




「ようやくね………んふふ」




 ヴェロニカは嬉しそう。




 付術のやり方はそれ程難しくはない。


 しかしそれは付術台を使う技術的な面での話。


 難題は呪文を刻印する前。


 呪文の文字を覚えることだ。




「まずは服ね」




 付術台は質の良い木で出来ている。


 その木の台の中央手前に紫の魔石を置き


 台の中心に魔法陣が彫ってある。




 魔石の中にも魔法陣が刻まれているが


 これも明らかにされていないし見ることのできない


 魔術が掛けられている。




 付術をしたい場合は台の魔法陣に物を乗せ


 使用者が呪文を唱えて付術をする。


 呪文は頑張って彫る。




 難題は呪文の文字を覚えることと話したが、


 これが付術師になる魔術師が少ない原因でもある。




 呪文は古代文字や神代文字など


 とにかく意味の分からない単語が延々と続く。


 発声は出来ても文字に起こすことの出来る魔術師は少ない。




 というかそもそも、魔術を扱うのに文字を知る必要はない。


 口で言えば良いから。




 ただ何よりの原因は興味を持てないということだろう。


 魔術師はどれほど困難な道のりでも好奇心があれば


 構わず進もうとする者が多い。




 つまり付術は人気がないのだ。




 そんな事情もあって付術師は重宝されるが少ない。


 ヴェロニカは付術に興味を持った数少ない魔術師なのだ。




「最初の呪文は、


 フリギウス リィ レデンティルア」

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