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鏡よ鏡 勝負姿以外は映さない

どちらの世界にも、私の部屋には鏡が無い。

不用意に無防備な自分の姿を見ると落ち込むからだ。

幸い、どちらの世界でも周囲が身支度を整えてくれるから不自由はない。


どちらの父も、整った顔立ちに、武道で鍛えた体躯を持ち、周囲からは美丈夫と評されている。

そしてどちらの母も、顔立ちは普通だが、都会で育ったために洗練された雰囲気を纏う、いわゆる雰囲気美人だ。

どちらの弟も、まだ3歳と幼いが、父に似て整った顔立ちの、笑顔が人懐っこい人気者である。

どちらの祖父母も、年を重ねた父を思わせる整った顔立ちに、加えて上品な佇まいだ。

周囲からは、美形一族などと言われるのに、私だけが違う。

色白の一族の中で、唯一肌の色が濃く、やせ細った体形で目ばかりがぎょろりと大きい。


容姿を恥じて常に俯き、おどおどとも取れる立ち居振る舞いだった私を、優しく諭し、時には厳しく叱咤して前を向かせてくれたのが、二人のお強いお姉さまだった。

年と共に衰える容姿ではなく、年と共に深まり洗練されていく、教養と美しい立ち居振る舞いをこそ恃みにするようにと教えてくださった。

そして、関係は希薄であったものの、母の存在も希望になった。

顔かたちではなく、自分自身に似合うものを見極め、装いにふさわしい立ち居振る舞いをすることで美しい雰囲気を纏えることを身をもって教えてくれた。


支度部屋の壁一面の大鏡にはカーテンを引いてある。

今後も鏡に姿を映すのは、身支度を整え、令嬢の鎧をまとった時だけと決めた。


初めての公の社交の場だった。

どちらのお誕生日会でも、誉めそやされた社交辞令にさえ容姿が含まれることはなかった。

加えて、公衆の面前で放たれた、容姿を侮辱する発言にも俯かずに顔を上げていられた。

(私、強くなれるかもしれません!)

顔立ちだけではない容姿が武器になることを自覚した一日だった。


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