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伯爵令嬢 リエッタのお誕生日会2

今日は私の8歳のお誕生日会と称して、懇意にしている上位貴族の方々と、そのご令息・ご令嬢方を招いたパーティを開催している。

つまり、送った招待状の「跡取り娘の婚約者候補を探しているので有志の方はいらしてね」

という言外の意図を汲み取ったご家族が、ご令息方を伴って集っている。


加えて、今日は隣国大公妃のバーバラ様がご出席である。

バーバラ様は、前王妃様と学園時代からの「親友」であったおばあ様を通じて紹介された。

なぜか気に入って頂けた私は、お話相手の傍ら行儀見習いをさせて頂くべく、頻繁にお目通りの機会を頂いている。

隣国大公家との親密な関係は、バーバラ様の甥にあたる国王ジョン陛下との繋がりを意味する。

バーバラ様を通じて、王宮へのお呼び出しもある私の「親友」の座を掴むため、ご令嬢方のご出席も多い。

野心のある上位貴族にとっては息子の良縁だけでなく、娘の「親友」を足掛かりにした出世にも繋がるこの上ないチャンスの場だ。


財政難の伯爵位、御しやすいであろう次期女伯爵である幼女、使いようによっては莫大な財を築ける可能性のある領地。目先のアッシュヒルへの援助など、後の利益を考えれば安いものだ。爵位を継げない裕福な貴族の次男、三男はこぞって私へ祝いの言葉を口にする。


そんな中起った突然の大絶叫。

「お前みたいな顔の女は嫌だっ!!!」

侍女に腕を引っ張られるようにしてやってきたアスラン ブラーレスは、仰け反るほど顔を背けながら「落としましたよ」と告げてハンカチを私に渡した。

私が「ありがとうございます」と受け取った瞬間の出来事だった。

肩を怒らせ、うっすらと目に涙を浮かべて真っ赤な顔で私を睨んでいる。


ここでは、令嬢が落としたハンカチを拾って届けるのは(あなたとお近づきになりたいです)という意味である。そのために令嬢は気になる男性の見える場所でわざとハンカチを落とす。


つまり、今の状況は【私がアスランを気に入った】→【ハンカチを落とす】→【アスランが拾って届ける】→【私が受け取る】→【カップル誕生!】という場面なのである。

但し、私はハンカチを落としてなどいない。どこかで陰謀が渦巻いているらしい。


その状況での大絶叫である。

周囲は固唾をのんで固まっている、ように見せかけて耳と目に全神経を集中している。



(手加減なんかしなくってよ!恥には恥を、だわ!)

そう思い、心の中で息を整えた一瞬の後、満面の笑みを浮かべて言った。

「このハンカチは私の物ではないようですよ。お人違いではありませんか?」


一瞬ぽかんとしたアスランは、侍女の手を振り払い仁王立ちでまたこちらを睨みつける。

「・・・っ」

薄い微笑みを湛えて、手の震えを悟られないよう優雅な仕草で差し出したハンカチを、アスランはひったくるように掴み、踵を返して遠ざかっていく。

(やったわー!)心の中で自分に大喝采を送る。

皆が見守る中、子供らしく、こてんと首をかしげて見送った後、何事もなかったように、隣にいたご令嬢に、にこやかにお菓子を勧める。


大絶叫アスランの御父上であるマックス ブラーレス伯爵は、いくつもの商会を経営している切れ者として有名で、招待に応じて参加した中では一番の資産家である。

(婿には向かないって盛大に発表しちゃったわね。)

アスランは確か三男であったはず。


少し離れた場所から、父のアッシュヒル伯爵と共に表情を硬くしてこちらを見つめるブラーレス伯爵の視線を捉え、渦巻く陰謀の中核の二人には微笑みつつ会釈を返しておいた。


壁際の椅子に座って事の次第を見守っていた、おばあ様である前伯爵夫人は無表情で前を見据えている。かなりお怒りのご様子である。


その隣で、優雅に扇子で口元を隠した大公妃バーバラ様は、目元に柔らかい表情を浮かべて、こちらを見ている。二人の秘密の合図にしている(慰めて)を意味するゆっくりした2回の瞬きを送ると、ぱちりと扇子を閉じる(了解)のお返事を頂いた。


パーティ後のそれぞれの話し合いを想像して、ため息が出そうなところをぐっとこらえ、お開きの時間まで誕生日を楽しむ朗らかな女の子として振る舞い続けた。

(付け入る隙を見せてはいけない。周囲の思惑通りに話題を提供する行動なんて絶対にしないわ。)



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