伯爵令嬢 リエッタのお誕生日会1
二つの世界を華麗に生きてみせますわ。
8歳にして冷静沈着を誇る令嬢は、顔立ちだけではない容姿を武器に出来ることを知り、力強く生きていきます。
顔立ちが残念?そんなことは百も承知ですわ。
少しお話する時間を頂けるかしら?そんな些細な事は気にならなくなりますわよ。
「お前みたいな顔の女は嫌だっ!!!」
目の前で目に涙を浮かべて叫んでいる男の子を無言で見つめる。
(言ったわね!優雅に返り討ちにしてやるんだから!)
スカートを握りしめ、強張りそうな表情筋を滅して平静を装う。
一瞬の後、口元にも目元にも薄い微笑みを浮かべたのは他でもない、自分のため。
8歳にして冷静沈着を誇る私は、今ここでは 次期女伯爵の リエッタ・アッシュヒルである。
アッシュヒル家は王国内の伯爵位の中でも、侯爵に匹敵する家格の高い家柄である。
王都から比較的近い領地であるにも関わらず、辺境伯と同等の扱いを受けているのは、先代国王の実姉が隣国の第二王子への輿入れの際に、姫君の持参金として差し出した飛び地に隣接しているためだ。飛び地からは良質のサファイアと少量のルビーが産出され、隣国の第二王子が賜った大公家の大きな収入源となっている。
アッシュヒル伯爵は、飛び地から産出される宝石の隣国への輸送路の確保のために農地を潰して街道を整備し、領兵の強化に力を入れている。
しかし、良くも悪くもとっても人の好い先代伯爵夫妻と、忠誠心が篤く少々脳筋気味の父である当代伯爵のおかげで、財政は逼迫している。
元々豊かな穀倉地であった農地を潰したことで、産出される農産物も、それに伴う税収も減り、街道の整備のための費用も賄い、隣国との摩擦を避けるために必要な警備のための領兵の増強の負担までも自領経費としている。
普通に考えれば、基盤は整っているのだから、整備した街道を利用して他国との貿易の許可をもぎ取るとか、隣国の輸送団に対する通行税のなどの対策は検討すらしていない。
唯一、何とか金策に奔走していたおじい様がなくなった後、瞬く間に財政は傾いた。
ここまでの状況は、7歳になって参加した王家主催の次期領主のための勉強会で「没落貴族」のレッテルを貼られた事がきっかけだった。
そこで執事長と領地管理人に纏わりつき、偶然知った彼らの困りごとに対する配慮と手助けを条件に仕入れた内容だ。お嬢様に脅されているなど、とんでもない言いがかりである。
敬愛するおじい様とおばあ様&お父様を、お人よし&脳筋呼ばわりするのは少々心苦しいが、このままでは逼迫どころか、私が伯爵位を賜る前に破産してしまう。
一番の問題は、父である伯爵と前伯爵夫人のおばあ様がこの状況を安易に解決しようとしている事だ。
ということで、冒頭の状況に戻る。