001
※主人公の一人称が2通りありますが、誤字ではありません。読みにくいかもしれませんが、ご了承ください。
「また背、伸びた⁉︎」
2043年8月14日9時半ごろ、家族で訪れた祖父母宅での私への第一声はこれだった。
近頃はお盆の帰省も少なくなったらしいけど、私の家は毎年のように祖父母宅を訪れていた。
「あ、はい、そうですね」
私は苦笑いして、近づいてくる祖母と母の間からさりげなく逃げた。
「お久しぶりです、お義母さん」
「真奈ちゃん、お久しぶり」
玄関から母が祖母に挨拶しているのを流し、靴を脱いで家に上がる。
「失礼します」
家の奥から、女の子の高い声がする。
「おじいちゃん、伯父さんたち来た?」
「おう、来たぞ」
と、杖をついて玄関に出ようと奮闘する祖父が、奥に向かって答えた。
「こんにちは、おじいさん。お久しぶりです」
「おう。そげん、かしこまらんでもいいんやぞ。今年からは、父さんたちと同じに扱うんやけな」
父さんたちと同じに扱う。
少ない親戚がこの家に集う初日の夜には決まって、全員が一堂に会しての宴会がある。
そこでの席は、祖父と祖母を一番奥に、そこから長男の叔父さんと次男の父が両隣に座り、叔父さんの長男でもう成人している双子の従兄さんたち、それから叔母さんと母、僕たち子供が座る決まりだ。
それを今年からは、僕を父さんや叔父さん、従兄さんたちと並ぶ席に座らせる、ということだろう。大人の男たちの仲間入り、というわけだ。
やっぱりなんだか、苛々する。
こんな古い家父長制なんて。
私は、そんなこと望んでないのに。
それでも親戚との関わりを無くすわけにはいかないから、まだ子供の私は、大人たちが決めたことに従うしかない。
あるいはずっと受け継がれてきた慣習に。
「啓斗くん来たぁ⁉︎」
…従兄さんたち。
僕のことを可愛がってくれるし、嫌じゃないんだけど、ちょっと苦手。
「お久しぶりです」
「やあ、啓斗くん!」「来なよ、話そうぜ!」
僕は、問答無用で家の中へと連れて行かれる。
「久しぶり、啓斗くん」
「叔父さん。お久しぶりです。叔母さんと来ちゃんも」
「久しぶりね、啓斗くん」
「おひさー、啓」
叔父さんと叔母さんに、従妹の来葉ちゃん。
同い年の来葉ちゃんの高い声が私には羨ましいよ。ほんと。
「ほら、こっち」
来葉ちゃんたちとの挨拶に気を取られていたら、階段から従兄さんたちに呼ばれた。2階にある、従兄さんたちが泊まっている部屋だろう。来葉ちゃんは古い機種のスマートフォンをいじっていて、僕は他にすることもないので仕方なく手招きに従う。
従兄さんたちに続いて、ぎしぎし鳴る階段を登る。
自分が踏むときの音は気になるなぁ。
従兄さんたちは階段を上がってすぐ横の扉を開き、中に入った。僕が入った途端に背後で木製の扉が閉められ、それから従兄さんたちによる怒涛の質問責めが始まった。
「啓斗くん、どうだ、学校は楽しいか?」「なんか趣味できたか?」「部活何入ったんだよ?」「友達はできたか?」「進路は決まった?」「それはまだ早いだろ高一なんだから」「そうか」
「高一なのに背高いよな、羨ましい」
「足が長いのか」
「そういえば、彼女とかできたか?」
「えっ」
「「えっ、って」もしかしてほんとにできた?」
「いや、ちが」
「なんだ、つまらん」
そういう話は、しないでほしいんだけどな。
なんて、言えないけど。
私のことは、まだ誰にも、父や母にも、言えてないんだから。そして、きっと一生言えないままなんだろうな。
<デザインド>の僕が、本当は女かもしれないなんて、私は絶対に言えない。