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【ZERO2】Against The Wind  作者: 市尾弘那
57/69

第14話(1)

「……お。啓一郎、はよ……」

「がずや゛~だずげで~……」

「……何の冗談よ」

 二週間の路上遠征ツアーが開始された。

 移動込みで、一日に実に三回はライブをやると言うこのあまりと言えばあまりの強攻策を開始して十二日目。

 俺の喉が潰れた。

「冗談に見えるのかよ……」

 布団からもぞもぞと起き出すなり、余りに痛い喉に驚いて声を出してみると、とても「ヴォーカルです」と言うのが恥ずかしいような痛みっぷり。

「……嘘でしょ?」

「今聞いてるこの声が今回の現実」

「何のんきなまとめ方してんのよ」

「はよーっ。起きたかなあー? ……何してんの。そんな狭いトコに肩寄せあって」

 洗面所で歯ブラシを口に突っ込んだままの一矢と、出入り口を塞ぐように寝癖のついた髪のままぬぼーっと立っている俺を見て、いやに爽やかに来襲したさーちゃんが宣った。

「和希と武人は?」

「暇だからってその辺に散歩しに行っちゃったよ。朝ご飯買って来たから……」

「ざーぢゃ゛ん゛……」

「……啓一郎くん。やるなら笑える冗談にして欲しいんだけど」

 じとーっと沈黙する俺に、さーちゃんもじっと沈黙を保った。

「まじ?」

「まじ」

 考えてみりゃ、当たり前なんだよ。

 頭三日はひたすら路上、四日目は新潟のライブハウスで対バン、五日目は夕方に路上一本やって、六日目はまた山梨のハコライブ。七日目に前にも出してもらった山梨のラジオの収録して、そのまま二本路上。八日目はまるまる移動とオフにあてたけど、九日目には二本の路上とハコライブ、九~十一日目でまた日に三本の路上。

 むしろ良くもった。俺の喉、頑張った。

「だーかーら、無茶だよって言ったじゃんよぉぉぉぉ」

 手にコンビニの袋を持ったまま、さーちゃんが床に崩れる。

 んなこと今更言ったって、もうこうなっちゃったもんはなっちゃったんだから、しょーがねーじゃん。

「とにかく、休んで、喉休めて。のど飴はあるから……ああ、マスクはないな、買ってくる。加湿器車に積んであるから……とにかくとにかくとにかくっっっ」

 まるで親の仇でも討つよーな目でさーちゃんが俺を見た。

「啓一郎くんはこの先リハまで、しゃべっちゃ駄目っ!」

 んで、まるで罰ゲームのような宣告を下される羽目になった。




 二週間の路上ツアーは、今までの中で一番盛況になった。

 ぽつぽつと地方のメディアでしてきた仕事が、最近になって実を結んできたらしい。路上はそこそこの人だかりを確保出来たし、ロードランナーからブレインが買い取ったミニアルバム千枚がこの十日ほどで完売した。これって凄いことだと思う。

 以前と同様、高校生の下校時刻にはそこに狙いを定めてやったりすると、俺たちを覚えてくれた人とかもいたし、ハコライブでは東京から来てくれた人も前よりずっと増えたし。

 少しだけ、『追い風』に変わってきただろうか。

 ……ほんの、少しずつ。

 東北地方で初めてそこそこの規模のイベントに出させてもらえるって日に喉潰しといて『追い風』も何もないもんだが。

 別に何千人とか入る規模の会場ではないけど、仙台『knock』はスタンディング六百人キャパのライブハウスだ。

 そこで七バンド出演のライブイベントに出演出来るって話をくれたのは、ロードランナーだった。

 そのせいで今日、東京から藤野さんが仙台まで来るって話で、俺らも結構楽しみにしてたりはした、んだけど。

「……はい。……はい。……すみません。ありがとうございます。宜しくお願いしますー」

 風邪でもひいてるみたいにマスクをしてソファでぼーっとのど飴を舐めている俺の前で、無意味にうろうろしながら事情を説明してしきりと謝っていたさーちゃんが、携帯を閉じてため息をついた。

 俺のいる通路の背中の方の部屋からは、時折笑い声が上がっている。貸し会議室の一室なんだけど、地元のタウン誌が掲載してくれると言うことで、取材の仕事が一本ライブの前に入っているのだ。でも俺は、他のメンバーに押し付けてお休み。

「とりあえず、リハの順番最後にしてもらうようには頼んだけど、もしかするとリハなしになるかもしれないよ」

 声を出すなと言われているので、目だけ上げて首を傾げる。さーちゃんはため息をもう一度繰り返しながら、携帯を閉じてポケットにねじ込んだ。

「リハの順番は事前に決まってるでしょ。俺らがそう連絡を受けていたように、他のバンドも各々のリハ開始時刻の三十分前に来てくれって言われてる。みんながみんな早めに来るようならリハの順番ずらせるけど、そうとは限らないでしょ。……って言うよりは、指定した時間にさえ普通に間に合わないバンドだってかなり多いことは君らだって熟知してるはず」

 まあね。

「普通にしてたって押すもんを、リハの順番入れ替えがどこまで出来るかは疑問だよ、正直」

 それからさーちゃんは、そばの自動販売機の前に立って「何飲む?」と俺を振り返った。無言で立ち上がってその隣に並ぶと、黙ってコーヒーを指差す。

「緑茶ね」

 コーヒーだつってんのにっ。

 俺の抗議を丸無視して、さーちゃんはホットの緑茶のボタンを押すと俺に渡した。

「……」

「あったかい飲み物は喉に良いんだよ。緑茶もね。あ、啓一郎くん、お風呂にでも入りに行く?」

 メンバーが仕事してんのにそれもどうよ?

「藤野、さん、は、駅、から、直?」

 仕方なく、もらった緑茶を片手で弾ませて、元座っていたソファにばすんと座る。途切れ途切れに尋ねると、自分はしっかりコーヒーを買って俺の前に立ったさーちゃんが「うん」と頷いた。

(煙草吸いたいな~……)

 とか言ったら殴られるんだろうな。多分、グーで。

 そりゃあ声がこんなんで歌えなかったら一番困るのは俺だから、そんな馬鹿なことをするわけはないんだが。

 ってゆーか、そもそも吸わない方が良いに決まってんだよな。ギターやってた昔と違って、今は喉使ってんだから、当たり前にやめた方が良いに決まってて。

(やめようかな)

 アマチュアやってた時と違って、今は仮にもプロ……になろうとしてるんだから。

 実際、煙草がどのくらい喉やヴォーカルとしての俺に害を与えるもんなのかってのは俺には良くわからない。ま、いーわけないのは確かだろうけど、やめた途端劇的に何が変わるとも考えにくいわけだが。

 んでもそういう意識の問題ってのは、大事だよなー。

 しゃべっちゃ駄目、煙草も駄目で仕事もパスじゃあすることがない。暇を持て余して俺は窓の外をぼーっと見ながら、そんなことをつらつらと考えていた。

「うん。さっきクロスの入り時間遅くなるって連絡したら、もーじき福島抜けるって言ってたから……VAとミニアルバム、貸出しで車に積んで来てるって言うし、直、『knock』に搬入行くみたいだよ。ついたらまた電話するって話だから」

「ふうん」

 背中を預けている壁から漏れ聞こえる笑い声や話し声が楽しそうだ。ちょっと疎外感。

「あ、そうだ」

 怒られると嫌なので、無言でさーちゃんを見る。

「セカンドの話、広田さんの口からちらっと出たよ」

 えっっっ? 何てっっっ? と聞きたいが、黙っとく。

「まだどうなるかわからないけど、十月くらいには何とかしたいって考えてるみたい。ソリティアとどう話してるのかまでは、俺からはまだ何とも言えないけど」

 だって契約は? と言いたいが、黙っとく。

「でも最近になって、ファーストのイニシャルオーダー、増えてきてるらしいんだよね」

 まじで? 何で? と……聞きたい。

「ほら、ミニアルバムのダウンロードが、そこそこ上成績って言ったじゃない? あれで、宣伝打ってないわりにアルバム自体もじわじわと上がって来てるから、販売店が少し気にして来てるんだよね、君らのこと」

 ……。

「まだぽつぽつだけど、問い合わせは入るようになってるみたいだし……どうしたの、啓一郎くん」

「……うー……」

 しゃべりたい。

 不満げに唸り声を上げる俺に、さーちゃんが吹き出した。

「い、いーんだよ? 少しくらいは口利いたって。別に罰ゲームしてるわけじゃないんだしさ」

 気分としては似たようなもんだ。

 でもまあ、出来るだけしゃべらないに越したことはないだろう、とは俺も思うし……。

「……外、行って来ちゃ駄目?」

 飲み干した緑茶の缶をゴミ箱に放り込んで立ち上がる。片手でコーヒー缶を弄んでいたさーちゃんの目線が俺の動きに合わせて上を向いた。

「いーけど、連絡はつくようにしておいてよ。……どこ行くの?」

「良くわかんないけど、コンビニでも行って雑誌でも買ってこようかな。……どうせ、この後、リハまでは別にすることもないんでしょ」

 今十一時半。リハ入りは十四時半だ。

「うん。でも十四時には移動を開始したいし、昼食なんかもあるから……十三時頃には目の届くところにいてもらえるとありがたいかな」

 母親に監視されてる子供みたいな気分。もしくは先生管理下の修学旅行生。

「あ、それとさ、ついでだから俺にも雑誌買ってきて」

「いーよ」

 さーちゃんが千円札を二枚取り出して告げた雑誌は、流行りの音楽雑誌とエンタメ誌の二冊だった。

「さーちゃんて雑誌良く読んでるよね」

 それもこういう、コンビニとかにもあるような流行誌ばっかり。

 ポケットにさーちゃんの二千円をねじこみながら言うと、さーちゃんは俺を見上げて笑った。

「情報収集はしっかりしとかないとね。流行りの傾向とか押さえておくと、いろいろ役に立つでしょ。エンタメ業界なんだから」

 中に戻るさーちゃんと別れて貸し会議室の建物を出た俺は、地理も何もわかりようのないこの街で、とりあえずぶらーっと散歩してみることにした。被ったキャップとでかいマスクで、何だか軽く不審者のような気分だが、季節柄、花粉症の人がマスクしてたりするからそんなでもないかな……。

 仙台の駅付近は、道が広くて綺麗に整備されてる感じがする。真っ直ぐ続いているでかい通りを駅の方に向かって歩いて行った。駅付近にはでかいデパートみたいなのがあったはず。

 都心を思い出すような都会的な雰囲気できちんと整備されているけど、東京みたいに雑然と汚い感じはしない。自分が生まれ育ち、挙げ句未だに住んでいる場所に向かって持つ感想じゃないが。

 やっぱ東京って人が多すぎるんだよなー。人が狭いところに集中してりゃ、どうしたって雑然とせざるを得ないし、汚くなりもするだろう。

 そのせいか何なのか、こうして東京を離れると時の速さが変わる気がする。

 仙台駅の前のでかい歩道橋の階段を上った。場所柄、立地柄、どうしても狭い……いや、歩道橋としては破格の広さではあっても、歩道橋なりの広さしかない駅前の場所に人が集中するから急に混んだ気になる。と言っても別に、渋谷駅の歩道橋ほどじゃない。不愉快になるほどではないくらいの人いきれ。

 歩道橋から続くデパートに行こうか、駅ビルの方に足を向けてみようか、階段を上りきって迷っていると、耳に音楽らしきものが聞こえた気がした。

 重たい弦楽器の音――ベース。それと、細い歌声。

(へったくそだなぁ)

 まだ幼さのある少年の声。ベースだけで弾き語りとは少し変わった趣向……。

(あれ?)

 微笑ましい気分で何となく音のする方――駅ビル方面に向かいかけた俺は、ラインがちゃんと聞こえてくるにつれて耳に馴染みのあるフレーズに足が止まった。

 ベースしかないし、歌は途切れ途切れ、しかも外してる。だから微妙っちゃ微妙だけど、これ。

(俺らの曲じゃん?)

 多分。……いや、絶対。

 ミニアルバムに入ってる奴だ。

 俺が、迷惑にも行き交う人の中でぽかんと足を止めている間にその曲が終わり、声は次の曲に入った。次の曲もまた……クロス?

 音のする方へ再び足を動かす。歩道橋の隅っこ、柵の前にその人影が見えた。地面にぺったり座り込んでベースを抱え、おもちゃみたいな小さなアンプでがしゃがしゃと音を出している。歌は生声。

 まだ中学生くらいかな。あどけない顔で体もまだ小さい。俺だって大概他人のことは言えないが、何だろう……骨格の感じとかゆーのかな。幼い。

「……」

 俺の見ている目の前で、少年はミニアルバムの『Smile Again』を歌い始めた。ポップ路線の明るい聴きやすい曲。

 ……買って、くれたのかな。もしかして。

 俺たちレベルのミュージシャンが、こうして偶然自分のCD買ってくれた人に遭遇するなんて、奇跡に近い。

 どこか尖った目つきをしてるけど、あどけなさの残る少年のそばまで俺は足を進めた。歌もベースも下手だけど、声は悪くないし、きっちり武人のベースラインを暗譜してる。当然楽譜なんてものが市場に存在するレベルにないので、自分で耳コピしたとすれば耳の良さは大したものだ。

 両手の親指をポケットに引っかけたまま無言で彼が歌うのを聴いていると、やがて彼が俺の存在に気づいたらしい。顔を上げる。

 気づくかなーと思ったけど、気づかないらしい。歌をじっと聴いてる俺に少し恥ずかしそうな顔をしながら、歌い続ける。

 うーん。曲をコピーしてくれてる人にさえわからない、どマイナーぶり。

 思わず笑いそうになっていると、そのまま数フレーズ歌った少年が歌をやめてばっとこっちを見直した。

「あんた……見たことある」

 あんたって……。

「ああ、そう?」

 頭にかぶったキャップの鍔を指先で摘みながら苦笑した俺に、少年は尚も続けた。

「Grand Cross?」

「あったりぃー」

 あ、駄目だ。声、まだ戻らねーや。

 そっと喉に手を当てていると、少年が俺に止めを刺した。

「……ひでぇ声」

 怒。

「CDは差し替え?」

「違うよ……歌いすぎで喉潰れてんの、今」

 答えながら、ぱさっとキャップを外す。くしゃっと髪を撫でつけてからもう一度キャップを被り直していると、少年は小さく「ふうん」とひとりごち、視線を俯けた。

「聴いてくれたんだ?」

 尋ねると、少年は無言で頷いた。それからふと気が付いたように顔を上げる。

「何で、ここ、いるの?」

「え?」

「もしかして、ライブ、あんの?」

「あ、うん」

 頷くと、少年は何だかちょっとだけ顔を紅潮させた。

「いつ? まだ、入れんの」

「さあ? 入れると思うよ」

 そんな超人気イベントじゃあるまいし。

 実際のところどのくらいチケットが捌けたのかとか、知らないけど。

「……」

「……」

「……」

「……入れてやろうか?」

 こうして俺らのコピーをしてくれてる人に偶然会ったのも何かの縁。見たところまだ子供だし、ライブの入場料はしんどいだろう。

 言ってみると、少年はちょっとひねくれた表情に、微かに嬉しい困惑みたいな色を滲ませた。……可愛い奴だ。

「そんなこと出来んの?」

「だって俺、出演者だもん。ゲストにしてやるから、名前」

 そしたら入れてあげられるよ、と言うと、少年は少し赤くなってもぞもぞと頷いた。

「保田」

「下は」

「潤一」

「ヤスダジュンイチくんね。場所と時間はー……」

 俺、『knock』の場所ってうろ覚えなんだよな。フライヤーで地図見ただけで……でも、そう複雑な場所じゃなかったはず。

 俺が告げた場所と時間を、手のひらにマジックでメモってる様子に、微笑ましい気持ちになった。だってこれって、凄ぇよ?

「ま、親とかまずかったら無理しなくていーけどさ。来てくれたら夜には俺の美声を聴かせてあげよう」

「あんたの歌は別にいーんだけど……」

 ……ちょっと見たことがないくらいに可愛げのねーガキだ。

 しゃがみこんだ膝に頬杖をついてしらーっとした目線で見てやると、ガキはぽそぽそと小さな声で何か言った。

「あー? 何だって?」

「だからっ……武人さんも来てるの」

「……男が男の名前言うのに赤くなんなよ気持ち悪い」

「うるせえなッ」

 はー……武人ね。

 まあ、抱えてる楽器からしてそうだろうとは思ったけどさ。

「もちろんいるに決まってるだろ」

「……」

「武人のベースが好きなんだ?」

 頬杖をついたまま尋ねると、ヤスダ少年はふいっと顔を逸らしながらこくんと頷いた。

「あんまり、年変わらないんじゃないの?」

 うー……何だかんだ、俺って結局しゃべってるな。このくそガキと別れたら、もう本当にライブまでしゃべるのやめよう。

 ヤスダくんがまた黙ったままでこくりと頷く。それからぼそりと「だから……」と言った。

「だから、凄いなって」

「……」

「俺と一つしか違わないのに、上手くて、プロで……俺もあんなふうに弾きたい」

 プロでって。まだインディーズだけどね。それだけで食っていけるわけじゃないし。

「もっとずっと下かと思った。中三なの?」

「うるさいな」

 俺の言葉にヤスダくんがかあっと赤くなる。いや、態度は尖ってるけど顔立ちが幼いもんだから、一年生くらいかと思った。

「練習だろ」

 思わず笑いを噛み殺していた俺が、その笑いを収めて言った言葉に、ヤスダくんの視線が無言でこっちを向く。

「若いんだから、上達なんかすぐだろ。やる気さえあれば」

 言いながら、立ち上がる。喉が疼いて、微かに咳が出た。

「来たら、声かけて。どうせ会場のどっかにいるから」

 地面に座り込んだまま、立ち上がった俺を見上げるヤスダくんに笑顔を向けた。

 と言っても、キャップとマスクで目しか見えないだろうけど。

「待ってるよ。……楽しみにしててくれ」


          ◆ ◇ ◆


 ギュイーン。

 ドン、ドン、ドン、ドン……。

 自分のバンドのリハを他人事のように見るこの空しさ。

「啓一郎くん、薬局行ってみたらこんなんあったけど、飲んでみる?」

 一応、順番を最後にしてもらったリハは、何とか十分程度ならリハも可能だと言うことで、俺以外の他のメンバーは現在ステージに上がっている。駆けつけてくれたローディの田波さんも、ステージをうろうろとしている。で、俺はギャラリーの隅っこの壁際で、マスクしたままじっと膝を抱えてそれを見ている。

 ライブハウス『knock』で合流した藤野さんは、俺の声が出ないと聞いて買い物ついでに薬局に足を運んできてくれたらしい。差し出されたのは何だか薄黄色い液体の詰まったビン。

「……」

 もう本番までしゃべらない、と言う決意を忠実に守り、無言で受け取ったまま藤野さんを見上げる。藤野さんが吹き出した。







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