第11話(1)
「は……は……は……は……」
タッ、タッ、タッ、タッ……。
リズミカルに足を動かし、短い呼吸を繰り返す。額に浮かぶ汗を通り過ぎる風がそっと撫でてくれて気持ちがいい。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
きちー。
目標地点まで達して足を止めた俺は、そばの木に手をついて体重を預けると、そのままゴンと頭をぶつけた。
(昔は良くやってたけどな……)
基礎体力作りの為のランニング。
中学の時はバスケやってたし、高校は部活やらない代わりにランニングするようにしてて。走るのは嫌いじゃないし。
だけどそれも、いつの間にかやらなくなった。
初心忘るるべからずじゃないけど、もう一度ちゃんと基礎体力を維持する為に再開してみたわけだが。
(かえって体に悪そうだ)
過労死しちゃいそう、俺。そのままずるずると木にもたれかかって座り込む。
息を切らせたまま仰いだ空が、青かった。気持ちを宥めるように、遠く浮かぶ雲がのんびりと流れていく。
昼前の太陽の光が空を鮮やかに彩って、白と青のコントラストが目に沁みた。
――三月五日。
今日、メジャーシングルに先駆けて、ロードランナーからのミニアルバムが発売される。
ウェブサイトも新しく始動する。
サンプルも上がったから、あちこちのメディアへのプロモーションも、本格化する。同じ、『ラジオに出』て『誌面に出』るんでも、媒体の格が違う。
五月にあるライブイベント『MUSIC CITY』のチケット応募の締切は三月末……少しでも、クロスから客が流れてくれればな。
しばらくそこに転がって流れる雲を眺めながら、ぼんやりとした。こーいうぼーっとしてる時間ってのは結構大事な時間だと思う。余計なことを考えたり、時間に追われたりしないで、ただ、『感じる』だけの時間。
空気の匂い、まだ吐く息に残る白さ、陽の光、ざわめく木々の合間に揺れる小さな花の色、風が運んでくる街の音、触れる草の感触。
瞳を閉じて呼吸を整えていると、普段意識していないだけで毎日に疲れてるのかなって気がする。体もそうだけど、心も。
カラカラ……と少し軽い音と「うにゃー」と言う猫とも人間ともつかない声がして目を開けると、たった今俺が走ってきた川沿いの遊歩道をベビーカーを押す若いお母さんの姿が近づいているのが見えた。地面に伸びている俺に小さく笑うので、つい少し恥ずかしくなって体を起こした。髪に草がくっついている。
(行くかー)
頭上を旋回する鳥の鳴き声を聞きながら髪をくしゃくしゃとかき混ぜて、小さく息をついた。
――仕事、だ。
家に戻ってシャワーを浴びた俺は、身支度を整えて単車に跨った。行き先はロードランナーだ。
今日は、この前さーちゃんが電話で強奪していたライブイベントのコメンテイターの仕事の件で、ライブノーツと言う出版社に行くことになっている。
ロードランナーに向かっている理由は、藤野さんがその打合せに同行することになっているからだった。かつてロードランナーでの録音でエンジニアをやってくれた男の人。
と言うのも、バンドとくればマネージャーが面倒を見る相手は一人じゃない。ウチの場合で言えば四人。
バンド単位で活動している時はまだともかく、メンバーにばらばらに仕事された日にはケアのしようがない。
クロスはこれまで大した仕事をしてるわけでもなかったし、別にアマバンと何がどう変わるわけでもなかったわけだから、重なった場合にさーちゃんは一番でかそうな仕事に付き合ってるくらいで何とかなってた。
だけど、サンプルがあがって本腰入れてプロモーション活動すると言うことは、公的に俺たちの後ろにはブレインという事務所の名前がくっついてくるわけだ。……それだけ、きっちりこなさなければならないと言うことになる。別に今まで適当にやってたつもりはないけど。
そこで、さーちゃんの手の回らない部分のケアを委託することになったのが、サポートレーベルであるロードランナーだ。
って言っても、本当に臨時なんだけどね。
どうやらこれは、かなり特殊なケースになるらしい。
まず、俺らレベルのアーティストの場合、そうそう人件費も割けないから、複数の人間がマネージメントをするようなことはないらしい。そうですよね、お金生み出しませんもんね。
でもって、マネージャーが一人しかいないけどどうしても人手が欲しい場合、恐らく口出ししてくるのはレコード会社……ソリティアのマネージメント部門の人間がフォローをすることになる。しかも普通はあっちの方が優位で、もっと俺たちの行動にもあれこれ口を出してくることになる。
……んだけど。
ブレインが……つまりは広田さんが、ソリティアの口出しを嫌がっているらしい。で、ロードランナーとはサポートしてねって話もついてるわけだから、お願いすることになったみたいなんだけど。
何でなんだろうな……。
そう言うのを聞くと、前に三科さんがぼやいてたって画像の話を思い出して、少し不安になったりする。ブレインがどういうつもりで俺たちと契約しているのか、わからなくて。
LUNATIC SHELTERうんぬんかんぬんの話は、俺たちを煽って頑張らせる為なんだろうって俺は思ってるんだけど、思い違いでそんな意図じゃなかったりして、とか。
和希の意見じゃないけど、どうしたってソリティアに話を流しちゃえばもっとずっと楽になるんじゃないだろうかってのは、俺じゃなくても思うだろう。
そうやってやっていく中で、クロスに関してソリティアの働きかける力ってのはどんどん強くなっていくのかもしれないけどさ……。
そんなことを考えながら、ロードランナーに到着してため息混じりに単車を停める。
「おはよーございまーす」
最初に来た時のように内線をかけるんじゃなくて、直接階段を上って事務室の方に足を運んだ。そうしてくれと言われたので曇りガラスのはめ込まれたドアをそっと開けると、数少ない全社員が一斉にこっちを向いてちょっとびびった。
「おはよーございますー。じゃあ行きましょうかー」
俺が何か言う前に、奥のデスクから藤野さんが立ち上がる。上着をひっつかんで小走りにこっちに駆け寄りながら、前にアシストをしてくれてた女の子に声をかけた。
「じゃあ俺行ってくるから、後よろしく」
「はーい。吉村さん来たら貸しちゃっていーんだよね?」
「うん。ケアだけよろしく。んじゃ行ってきまーす」
早口で言って俺のそばまでやってくると、車の鍵を右手で鳴らして俺を見上げた。藤野さんは俺より小さい貴重な人だ。
「お待たせしました。行きましょーか」
事務室の人に頭を下げて、藤野さんについて外に出る。促されるまま車に乗り込み、藤野さんの運転する車でライブノーツへ向かった。
「忙しいのにすみません。ってゆーか、藤野さんて技術屋さんじゃないんですか」
「俺ですか? いやぁ、何でも屋ですよ」
「何でも屋?」
なんて便利そうな人なんだ。
「一応ロードランナーでは俺、ディストリビューションの委託販売デスクなんですよ、担当は。でも委託販売って言っても……もちろんレーベルからの委託販売もやりますけど、ほら、ウチってアーティストさんにお金もらって録った音を流通乗っけてるじゃないですか」
「はい」
最初のオムニバスみたいなやつを指すんだろう。
「で、結局あれも委託販売だし、そーゆーのを販売店に売り込むのもやるし、勢いデスクじゃなくて『みんなやる』になっちゃってんですよね」
「……はあ」
「その流れから、スタジオ担当みたいになっちゃって」
困ったような微妙な笑みを浮かべて、ミラーに視線を走らせる。ウィンカーを出して赤信号で停止しながら、俺の方をちらっと見た。
「ウチにも自社アーティストはいますけど、こういう小さな会社だし、マネージメントに専任してる人間てのがいなくて。俺もあんまりそういう仕事をやったことがあるわけじゃないんで、不備があるかもしれないですけど」
「あ、そんな。俺たちも迷惑ばっかかけることにならないといーんですけど」
「いえいえそんな……」
恐縮したように言われてこちらが恐縮してしまう。停止中の車内で、照れたような空気が流れた。……び、微妙な空気だ。
「ま、レーベルとか出版社対応なら結構慣れてますから安心して下さい」
青に変わった信号に、藤野さんがギアを切り替えながら微笑んだ。走り出した車の緩い振動がシートから心地よく伝わってくる。窓の外を流れる景色に目を向けた。
クロスは今日からしばらくは東京にいる予定だ。しばらくって言うか、今週。
作りかけたままで放りっ放しになっている新曲など、ライブばっかりやってるわけにもいかないし。
決めかねていた次の音源タイトルは、こないだ作りかけていた新しい方の曲に決定した。とりあえずレコーディングの日程も六月って決定したし、早く形にしなきゃならない。まあ、実際ソリティアとどうなるかで、再レコーディングになりかねないわけだけど。
ともかく、そういうわけで今週は頑張ってスタジオに入って、都内での仕事をやっつけましょう週間となっている。
俺だってバイトしなきゃ生活だって出来ないわけだし。
で、俺と和希がそれぞれ単独の仕事が昼前に重なって入っていて、和希の方はかなりメジャーなギター雑誌の取材に入っていた。全然小さな枠みたいだけど、そうは言っても大手メジャー誌。発売予定がちょうどシングルが出る頃だし、名前くらいは誰でも知ってるような雑誌の仕事だからさーちゃんはそっちに付き合っている。
とは言えこっちもラジオ・ライブ・雑誌が絡む月一のコンスタントな仕事で、取れればやっぱりありがたい。だけど俺一人には任せられんってことで、こっちを藤野さんがフォローすることになったと言うわけだ。
ライブノーツは、麻布の方にある小さなテナントビルの中にあった。約束の時間は十一時。ほぼちょうどの時間だ。
中に入ると、ラフな服装の女性が片手にペンを握ったまま応接室に案内してくれた。しばらくそこで待っていると、やがてドアが開いて一応スーツ姿のおじさんが顔を覗かせる。禿げ上がった丸顔のおじさんで、どこかゆで卵……なんて言ったらいかんのだろーが。
「お待たせしました」
にこにこしながらおじさんが入って来て、その後からちっちゃい女の子がついて来る。グランジっぽい感じのファッションがしっくり来る感じの顔立ち。白い肌にちょこっとそばかすが浮いている。サイドに三つ編みみたいな耳のついた帽子をかぶっていた。……どちらサマ?
(会社の人?)
きょとんとニ人を見比べている俺の隣で、藤野さんが立ち上がる。一緒に立ち上がって、頭を下げた。
「どうも、初めてお目にかかります。ロードランナーの藤野です。こっちが今回お世話になる、Grand Crossのヴォーカルで。橋谷啓一郎くん」
藤野さんから名刺を受け取ったおじさんが、にこにこと俺を見る。
「お世話になります。宜しくお願いします」
頭を下げると、おじさんは先ほどの藤野さん同様名刺を差し出した。
「ライブノーツで代表をやっています。二宮です。こっちは前回までの分のコメンテイターをやってくれていたキョウちゃん。『らんでぶー』ってバンドのヴォーカルやってるんだけどね」
あ、そうなんだ。前任者ってわけか。
キョウちゃんが「よろしくお願いしますー」と妙にあどけない声で挨拶をし、ようやく椅子に座り直す。受け取った名刺をとりあえずどう処理したもんかわからず、藤野さんの真似をしてテーブルにきちんと置いてみた。……しょーがねえじゃん。まともに社会人やったことねーんだから。
「えとね、じゃあとりあえずは企画内容の説明から入りましょうか」
言いながら二宮さんが差し出してくれた資料を受け取りつつ、ちらりとキョウちゃんを見る。にこにこと明るそうな感じで「駄目だから降板」って感じじゃなさそう。……何で俺に替わるんだろう。
手元の紙には『バンドナイト』の主旨や概要、これまでの開催回数や出演バンドなんかが記載されていた。写真とかも載っている。二宮さんの手元にはその他にも連動誌やDVDなんかもある。……DVD?
俺の視線に気付いたわけでもないだろうけど、二宮さんが雑誌をこちらに押し出した。月刊の、まんま『バンドナイト』と言う名前の雑誌で、ページをめくると巻頭からしばらくはイベント『バンドナイト』の記事や写真がずっと載っている。半ばくらいから出演バンドの詳細やインタビューなんかに移っていく。
キョウちゃんがバンドにラジオレポート用のインタビューをしている場面や、彼女の書いたらしい記事なんかも載っていて、それを見る限り何でやめることになったのかが良くわからない。
尋ねてもいーもんか少し迷ってちらりと彼女を見ると、キョウちゃんがちょうど顔を上げた。目が合う。
「ウチのバンド、五月末に解散するんです」
えっ?
「解散?」
「はい。だから、続けられなくなっちゃって。コンセプトがこれって『バンド』だし。楽しかったんですけどね」
「そうなんですか」
ふうん。
……解散、か。
別に珍しい話じゃない。ない話じゃない。
でも、聞く度にふと寂しい気がする言葉だ。いつも。
「大変ですよぉ」
キョウちゃんが冗談めかして笑う。二宮さんが苦笑した。
「おいおい。せっかく後任が決まったのに『やっぱやだ』って言われちゃったらどうするんだよ」
「あはは。でも最初は大変だったんだもん」
それからキョウちゃんが俺を向いて、笑顔のまま続けた。
「でも、やりがいあると思います。良いきっかけに繋げる為に頑張って下さい」
キョウちゃんの向ける純粋な笑顔に、俺も微笑み返した。ちっちゃな積み重ねのひとつひとつが大事なきっかけだ。増してこの仕事は、そんなに『ちっちゃい』ものじゃない。
やらせてもらえるだけでも御の字だ。あとはこっちが、それをチャンスに変えられるかどうか。
「はい。ありがとう」
いいきっかけになれるよう、頑張ろう。
◆ ◇ ◆
スタジオのドアを開けると、だかだかとドラムを鳴らす音と安定した低いベースの音が腹に響いた。入ってきた俺に気付いて、一矢と武人が手を止める。
「はよーっす」
「はよ。アレンジ進んだ?」
「遊んでた」
あのなあ。
無言でその場に手と膝を突いてうなだれた俺に、ニ人分の笑いが降ってくる。
「まあまあ……ちょっとさ、これ、聴いて聴いて」
その言葉にずるずると顔を上げて、代わりに床に腰を下ろす。武人が和希のノートパソコンを覗き込んだ。
「パソコンどうしたの? 和希、来たんだ?」
「そうそう。打ち込んだ、聴いてーって」
打ち込んだ?
「ほら、この曲、さーちゃんが『打ち込み増やしたら』とか言ってたじゃん? で、とりあえず『遊び心満載で突っ込んでみました』のメッセージと共に」
あ、遊び心満載……。
武人がパソコンを操作する。一瞬を置いて、出力を繋いだスピーカから電子音が流れ出した。
暗闇の中、水泡のようにほの暗い光がいくつも生まれて消えていくような……少し、柔らかい始まり。
それが、シンバルの逆回しに似た音を合図に、突然細かな粒子がハイスピードで一点に向けて流れてくようなイメージに変わる。
まるで、星の間を高速で後ろ向きにすり抜けているような、スピード感。
「すっげぇ」
面白い。
「でね、これに俺らの音が重なるとこうなるわけ」
武人が一度パソコンを停止する。再度音を流し、少ししてから一矢がドラムを絡ませた。やや遅れて、ベース。
(あ、すっげー)
特殊なことは敢えてしない、シンプルにローに徹するリズム隊が重みを作り、上の方に広がる打ち込みの音と良いバランス。
今はまだ下の比重が大きい気もするけど、ギターが入れば打ち込みよりやや下の位置をカバーするだろうし、俺の声は基本的にミッドで中立を貫くラインで綺麗なバランスになる。
低音を意識しているせいで、ドラムはフロアタムが中心だ。ベースは倍テン。変な遊びのない、ストレートなベースラインでスピード感を滲ませる。俺は結構好きな傾向。
「……ってな雰囲気がいーのかな、と」
不意に一矢がドラムを叩く手を止めた。武人がパソコンの音を止める。
「すっげーかっこいいっ。すげー」
頭しか聴いてないけど。
「何かさ、今までの楽曲とテイスト結構変わるよね」
「変わるね。『王道ロック』からはますます外れてくけど」
「音数がかなり増えますね。でもごちゃごちゃはしてないから、邪魔になんないと思いますよ」
「うん。……こうなってくると、キーボードよりマニピュレーターが欲しくなるような気もするなあー」
武人の回答を聞いて、ふとそんなことを思いつく。
どうせ今の時点で、抜けたキーボードの穴を打ち込みでカバーしてるんだ。『キーボードを入れよう』と思っているからそういうラインのアレンジのままだけど、マニピュレーター入れた方が今の雰囲気は残していけるような気がする。
それはこれまでの俺たちにはなかった発想だけど、和希が打ち込みが得意なことを考えればそれを生かさない手はないよな、考えてみれば。
「あー。結構そっちの方がいーのかもしんないね」
べちべちと指先でベースの弦を弾きながら、武人があどけなさの残る目を瞬かせた。
「キーボード入れるのもいーけど、どうせ四人になっちゃって、そこで既にテイスト変わってきちゃってるんだし。下手なキーボードのサポート入れるくらいだったら和希にプログラムいじってもらって、もっとそれを伸ばす方向で……で、マニピュレーターのサポートに手伝ってもらって」
実質、現状の規模で言えば和希が簡易マニピュレーターやってるわけで、どっちかつーたら手伝って欲しいのはそこなのかもしれない。
「キーボードだってサポート入れるのまだ先でしょ?」
しょぼい規模でしかライブをやっていないんだから、今は自分たちの手で賄えてしまっている。必要になるのは多分まだ先。ブレインは当面サポートに人件費を割いてくれそうもない。
「んじゃそれは要検討かな。……啓一郎、『バンドナイト』どうだった?」
チューニングが気になるのか、キックのペダルを強く踏み込んで聴いている顔をしながら一矢が問う。座り込んでいた場所からパンツをはたきながら立ち上がって、煙草をくわえながら口を開いた。
「何か大変そう」
「大変そう? 結構?」
「ん」
「具体的にどんなこと、やるんですか」
火をつけて煙草の煙を吐き出しながら、俺はライブノーツで受けた説明を思い出した。
「うんとねー……ま、最初にさーちゃんが言ってた通りなんだけど。要は毎月第ニ土曜日の夜に『SHIBUYA MAX』でバンド集めてニ曲ずつくらいで回して……転換の時にバンドとの話を入れてみたいな」
「それ、ラジオで流すんでしょ」
「そうそう。ラジオゲストとかってCDで曲をニ曲くらい流したりするじゃん。あれをCDじゃなくてライブ音源でやる、みたいな雰囲気。イベントの進行は別の人を立てるから、俺がやんなきゃいけないのはそれぞれのバンドのライブ前にざーっとラジオ用に紹介とコメントやって、ライブ終わりにバンドにインタビューして」
「何とかなりそうじゃん」
チューニングキーで鼻の頭をかきながら一矢が顔を上げる。灰を灰皿に落としながら、ついくしゃくしゃと髪をかきまぜた。
「うんー……。ただね、これは俺も今日行って知ったんだけど、DVD作ってるらしーんだ」
「『バンドナイト』の?」
「そう」
頷いて、くわえ煙草で床に放り出した紙袋を引き寄せる。中にはさっきもらった『バンドナイト』の雑誌とかDVDだとかコンピCDとか、その他もろもろの資料が入っている。中をあさって『バンドナイトvol4』とタイトルがついているDVDを抜き出した。一矢に渡す。
「何これ。毎回出してるの?」
「そう。ニ枚組で一ディスクニ回分。つまりそれで四回分」
「ふえー」
武人がベースをぶら下げたまま、ドラムの前から一矢の手元を覗き込む。
「どのくらい売れるんですか」