プロローグ
「――は死んダ」
「どうするつもりダ?」
「ゲラルトはもう一度行くだろウ。もう誰にも止められなイ」
「黒骨団はもう終わりダ。オレにもわかル」
「モランは動かなイ。ゲラルトは死ヌ。アーネリアももう居なイ。そして」
「オマエはオレ達を裏切っタ」
心臓が彼を急き立てるように、責め立てるようにに早く、ドンドンと胸を叩く。顔が熱くなった。頭がジリジリと痺れる。自分の呼吸の音が、やたらとうるさい。
――世界が全て敵に回ってしまったみたいだ。いったい俺が何をしたって言うんだ。
「俺は悪くない。俺は悪くない。俺は悪くない……!」
吐き気がした。胃を性格の悪い奴にぐにぐにと握られている心地がした。嗚咽が漏れる。気が付けば目からは涙が溢れ、視界も思考もぐしゃぐしゃに滲んだ。
もう終わりなのか。俺のせいで皆が死んで、それで――。
俺なんて生まれてこなければ――。
「嫌だ……」
ふいに浮かんだぼんやりとしたいくつかの顔。
じわじわと別な気持ちが胸にこみあげてくる。もう誰のせいだって良い。俺のせいかもしれない。俺は悪くないのかもしれない。でももうそんなのはもうどうでもいい。関係ない。
喉に上がってきたひと際大きい嗚咽を飲み下して、青年は言った。
「もう誰かが死ぬのは……たくさんだ……!」
「オマエに何ができル」
青年は顔を上げて続けた。
「何もできない……だから、力を貸してくれ……もう誰も死ななくて済むように、もう何も奪われなくて済むように……手を貸してくれ!」
――弱虫な俺を、手伝ってくれ!
世界一みっともない男の顔を、雲間から刺した陽が窓越しに照らした。絶望を塗り返せると思えるほど彼は楽観的ではないが、かと言って何もしないで平気でいられるほどの心が強いわけでもなかった。
青年の肩に手が乗せられる。
これはこの世界ではどこにでもあるようなありふれた小さな物語。
これは世界一弱虫な男が世界の片隅で紡ぐ、人の願いと想いの物語。