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1/3

前編




「待てッ……!」



「待てと言われて待つ奴がいるかよッ!」




 俺は兵士に追われながら、馬を走らせる。

後ろの積荷には、奴らから盗んだある宝が載せてある。


(くっ!積荷が重い!速度が……出ない!)


 俺は焦りながら、ちらと後ろを振り返る。

追っ手は2人、馬に乗った男が俺を追っている。




(くそっ!振り切れるか?)




 丁度、城塞都市クリミアの城門を抜けた。もう少し走れば森に入るはずだ。そうしたら振り切る事が出来る。しかしその時だった。



「うわぁっ!」



 目の前に、熊が現れた。体長1m程の茶色い毛皮をした熊だ。俺は慌てて急停止し、馬を降りた。そして剣を抜き構える。

殺気に反応したのか、その熊はこちらに向かって走ってきた。



(速い!)



熊とは思えない速さで向かってくる。そして俺に飛びかかってきた。咄嵯に身をかわしたが、腕を噛まれてしまったようだ。熊は力任せに腕を振り回し、俺は吹き飛ばされた。受け身を取りすぐに立ち上がると、熊はまた飛びかかって来る。



 俺は繰り出された熊の横薙ぎの攻撃をかわし、そのまま切りつけた。しかし熊は怯まず、俺の腕に噛みついて来る。俺はそれを無理矢理に払い除けると、今度は腹を切りつける。だが、浅い傷しか負わせられなかったようだ。熊は再び襲いかかって来た。何という獰猛さだ。



 俺は必死に避けようとするが、鋭い爪の一撃を避けきれず肩口を引っ掻かれた。痛みに耐えながらも、俺は熊の頭をめった刺しにした。やがて熊は動かなくなった。



 俺はその場に座り込み、肩口を触る。血が出ていた。




(不味いな……。早く止血しないと……)




 そう思い、荷物の中から包帯を取り出している時だった。




「ははっ……運が悪かったな。さぁ観念しろ……ぎゃああああああっっ?」




 兵士の声に俺は驚き振り向く。信じ難い光景が広がっていた。




「なっ……嘘だろ。3匹も……。」



 3匹。しかも先ほどの熊よりも巨体だ。

先頭にいた一匹の熊が手負いの俺を無視し、兵士の1人に噛み付いていた。




「やめ……ぎゃああああああっ!」




 叫び声を上げる兵士。そこに残りの熊が殺到する。咀嚼音と悲鳴が同時に響き渡る。




「お……おいっ!やめろ!」



 俺の叫びも虚しく、熊は食事をやめない。俺は痛みを無視して、剣を抜いた。



(くそっ!どうする?逃げる……か?)



 兵士の1人は、馬に乗ったまま固まっている。その顔は恐怖に引きつっていた。だがあどけない顔立ちだ。今食われている奴に比べると、幾分か歳が若そうにも見える。



(あいつ……。)



 俺は何故か、自分でも理解出来ない行動に出た。それは今思い返していても自分が何故その行動を取ったのか、分からない。だが、何故かそうしなければならない気がしたのだ。



 俺は馬に近づき、積荷を解く。中には鋼鉄の鎧が入っていた。




「おいっ!おい!お前!」



「な、なんだ!?」



「鎧を着るのに手を貸してくれ!」



「何っ!?」



「いいから!あいつらが食事中の間に!早く!」



 俺は兵士を急がせる。鎧は、1人では着る事が出来ない。あまりにも硬く、重いからだ。俺は彼に背中のプレートをつけてもらい、俺は前にプレートとギャンべゾン(鎧を身につける時に着る服)にベルトを装着。固定した。これで動いても鎧はずれない。



「良し!後は……兜と……頼む!その剣、少し借りるぜ!」



「し……承知した!」



 俺は自分の剣と、兵士の彼から借り受けるもう一振りの剣を構えた。



「ありがとな……。ああ。忠告しておく。今は逃げない方が良いぜ。血の匂いに惹かれて、他の獣が近づいてきてやがるからな。」



 俺は、一言兵士に忠告すると同時に、熊の方に走った。



 彼は呆然としていたが、我に返ると馬の方へ走り出した。馬に乗れば、何かあっても時間は稼げるだろう。いい判断だ。



(この化け物熊どもは……俺を食う気満々だな。)



 熊達は、既に食事を終わらせており、俺の方に向かって来ていた。



(さて、頼むぜ……ルネサンス・プレート。)



 俺は自分に言い聞かせるように呟いた。そして覚悟を決めた。まずは一番手前にいる熊に斬りかかる。奴は身を屈めて避けると、前足で攻撃してきた。俺はそれを避けると、横薙ぎに剣を振るう。熊は咄嵯に身をかわすが、脇腹を切る事に成功した。



(よしっ!いけるか?)



 俺はそのまま二撃目を加えようとした。しかし熊は俺の攻撃をかわすと、飛びかかって来た。俺は慌てて飛び退くが、熊の爪が肩をかすめる。しかし、傷一つ無い。鋼鉄の下に鎖が複雑に編み込まれた「多重装甲」は、全てを防ぎ切っていた。俺は熊の攻撃に構わず、走る。そしてすれ違い様に切りつける。熊は倒れ、動きを止める。だが、俺の攻撃は浅かったようだ。

  

 

 熊はすぐに起き上がると、唸り声をあげたのち、再び襲いかかって来た。



 俺は避けようとせず、あえて攻撃を受けた。やはり、無駄だった。熊は俺に噛み付くが、傷一つ無い。寧ろ、熊の歯がぼきりとかける音が響いた。俺は熊の首に剣を突き立てる。熊は暴れるが、やがて動かなくなった。俺はそのまま剣を引き抜いた。他の熊は俺から離れ、警戒するようにこちらを見ていた。



 対する俺はゆっくりと歩き、距離を詰めていく。熊も少しずつ後退していく。そして、間合いに入った瞬間だった。奴は突然、猛スピードで突進して来た。俺はそれをひらりと避けた。ルネサンス・プレートは重装甲でありながら、軽い。熊の突進程度であれば、容易くいなすことが出来る。


 

 熊は勢い余って木に激突するが、すぐに立ち上がりこちらを向く。だが、もう遅い。俺は熊の頭に剣を叩きつけた。



 熊は断末魔の悲鳴を上げ、倒れた。



(ふう……何とかなったか。)



 俺は一息つく。すると、遠くから馬の蹄の音が聞こえてきた。そちらを見ると、先ほど助けた兵士が馬を駆りながら向かってきていた。

俺は彼の方へと歩いて行く。そしてお互いの顔が見える距離まで近づくと、彼は馬を止め、地面に降り立った。俺は剣を仕舞うと、兜を脱いだ。



(意外と若いな。10代前半……か?)



 茶髪で、あどけない顔立ちをしている。そんな彼が、真剣な表情をして話しかけてくる。



「ところで貴様は……。」



 俺は、彼の質問に答えていく。



 名前、年齢、出身、職業などだ。俺はそれに素直に答える。何故、俺が盗賊行為を働いていたのか、という事も聞かれたが、それは適当にはぐらかしておいた。



「ふむ……確かに条件とは一致するが……。」



 俺の体をジロジロと見る。



(なんだよ。恥ずかしいからあんまり見ないで欲しいぜ。)



 彼は納得はしていないようだったが、これ以上は聞くつもりは無いようだ。



「おやおや大丈夫……でしたか?」



 すると、後方からまた新たな声が聞こえた。俺は振り向く。そこには白い甲冑を着た騎士が立っていた。

 

 身長は170cm程だろうか。男は兜を脱いだ。頭は銀髪で、顎髭が生えている。



 その顔は柔和な笑みを浮かべている。余裕ある風貌からは知的そう、という印象を受けた。

俺は警戒しつつ、答えた。



「貴方は……?」



「このお方はテオドール卿だ。」



 兵士が代わりに答えた。俺はその名を聞いて驚く。それはクリミア王国の重鎮の名前だったからだ。テオドール卿は俺に近づくと、手を差し出してくる。俺は握手に応じた。



テオドール卿は俺の手を握り、言った。俺はその言葉に驚いた。テオドール卿は、俺を客人として迎え入れたいと申し出てくれたのだ。



「何故……ですか?」




 俺は疑問を口にする。当然だ。俺はこの国の人間ではない。しかも、つい先日この国を襲った賊の一人なのだから。しかし、テオドールは笑顔のまま言う。




「我々は戦力が欲しいのですよ。特に、新型のHMを直ぐ様着用して戦える戦士が、ね。特に貴方、奴隷でしょう?いや今は盗賊……か。ならば、身の安全も保証したいはずです。」



「身の安全……。」



「悪い話では無いでしょう?」




 俺の鎧と目を真っ直ぐに見つめながら。彼は言った。俺もその瞳を見返す。そこには嘘偽りの無い真摯な想いが込められていた。俺はその視線に耐えられず、思わず顔を逸らす。

だがその時、俺の脳裏にある光景が蘇った。




(俺は……。)




———それは俺が奴隷として働かされていた時の記憶だ。あの地獄の日々の中、俺に優しくしてくれた少女がいた。名前は知らない。ただ、彼女はいつも俺にこう言っていた。




「いつか必ず、貴方を自由にする!だから、それまで待っていて……。」



 俺はその言葉を励みに、今まで耐えてきた。




 10年間にも及ぶ、長い奴隷生活。そんな生活を支えたのは、あの温かい一瞬の思い出だけだった。そして俺が遂に自由になった時、彼女に会えると思っていた。俺は、彼女の事が忘れられなかったのだ。だから、俺は彼女に会うために旅に出た……俺は決心した。



 例えどんな条件であろうと、この人についていこうと。俺はテオドール卿の手を強く握ると答えた。



「行き……ます。」



俺はそう言って、頭を下げた。


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