ポルボロン
荷車を回収したのちデロワに帰ってきたレイアたちはボルボローネに行きたい気持ちと戦いながらお店の改装に明け暮れていた。
カヌレから帰って来て約一週間後―。
「変わらないと新しいの融合だ!」
レイアが嬉しそうに言うと「意味わかんねぇよ!」とクーが言う。その光景を見てノアが微笑む。そして、レイアは新しいお店を歩き回り、アーバンの前に立つ。
「ガイおじさんありがとうございます!」
レイアが丁寧にお辞儀をしながら言う。
「なんだよ!改まって、それにアーバンとレアさんの情報も手に入ってよかったな。」
照れ臭そうにガイが言うとレイアが嬉しそうに微笑む。
「ねぇ、ノア。」
レイアがノアを呼ぶとがレイアの方を見る。
「私ね、お店は綺麗になったけどたまに移動販売もしたい。カヌレのときみたいにお父さんとお母さんの情報が手に入るかもしれないし。もし、やるとしたらまたついてきてくれる?」
レイアが首をかしげながら問うとノアが強く頷きながら「当り前。」と言う。
「そういうことなら多分、いいって言うと思うし、ばあちゃんにはもう少し貸してって言っとくからな!」
ガイが言うとレイアとノアは声を揃えて「ありがとうございいます。」と言う。
そして、お店を改装してから持ち主に幸運を運んでくれるぬいぐるみを求める人々で目まぐるしい日々を過ごしながら旅支度を進め、二人と三体はボルボローネに出立する日がやって来る。
前回同様、運任せにしつつも一行は無事に到着を果たす―。
「凄い!ここがボルボローネ!」
レイアが興奮気味に言うとノアが頷く。
「すごいよ!あっちこっち美味しそうなものいっぱい!」と興奮気味にミミィーも言うと「そんなにはしゃぐと田舎者だとばれるだろ!」とクーが言い、相変わらずベンは寝てるかのように無言だ。
「お嬢さんたちボルボローネは初めて?」
優しそうなお姉さんがレイアたちに声をかける。
「私はもっと小さいときにお父さんとお母さんと来たはずなんですけどあんまり覚えてなくて……。」
レイアがうなりながら言うと女性が微笑む。
「ボルボローネに来たら名物のボルボローネを食べてって。口の中で崩れる前にポルボロンって三回言うと幸運を運んでくれるのよ!」
女性から他にもおすすめの観光地などを教えてもらって別れた後、ベンが言う。
「幸運の食べ物に幸運のぬいぐるみなんてレイア贅沢だねぇ。」とのんびり言う。「あたちもポルボロンやりたい!」とミミィーが言い、「お前ら遊びに来たんじゃないんだぞ!」とクーが言う。
「明日は宿の一角でお店を開くから今日はのーんびり聞き込みしながら遊ぼ!」
レイアが明るく言うと「「賛成!」」とミミィーとベンが言い、ノアも両手をあげて喜ぶ。クーは嬉しそうにため息をつく。
観光を楽しみつつの情報収集成果を得ることができなかったが、次の日のお店の開店準備が始まる―。
お店の開店準備が終わる頃、ノアはレイアに話しかける。
「今日さ、ちょっと出かけてきてもいい……?」
おずおずとノアが言うとレイアは初めてのノアのおねだりが嬉しくて、快く送り出したが、ノアが出発する直前に心配になり、少し引き留める。
「ノア、ちなみにどこに行くの?いつ頃戻る?あっ、そのね信用してないとかじゃないの!ただ心配で……。」
慌てながらレイアが言うと。
「そのね……。ちょっと観光したくなって。」
ノアが言うと「俺も連れてけ」とクーが言う。
「クーまで珍しいね。こんなときは呑気なやつって言うのに!」
レイアがクーの真似しながら言うと「うるせぇ!俺だってそう言う気分のときもあるんだよとクーが言う。
そして、宿の一角のぬいぐるみのお店も繫盛して店じまいをした。ノアとクーが帰って来なくてそわそわしているとミミィーが「お迎えに行こうよ!」と言う。
「そうだね!行こ!」
レイアと二体のぬいぐるみは宿を出てノアたちを探すと宿の裏の路地にきれいな特徴的な髪の少年がいてすぐにノアだとわかった。
「ノア!」
とレイアが声をかけるとノアと一緒にいる男性を見て固まるが直ぐに男性は姿を消してしまう。
「お、お父さん待って!お父さん……。」
消え入りそうな声でレイアが言う。その近くでノアは頭を項垂れる。
「ノア、お父さんと知り合いなの?お父さんと何話してたの?お父さんはどこいにいるの?どうして何も教えてくれないの?」
寂しそうな怒った声でレイアが言う。
「ごめん……。ただ今言えるのは僕はこの近くの研修所から逃げてきてアーバンさんはそれを手伝ってくれたんだ。それ以外のことはまだ言う勇気が持てなくてごめん……。でも、いつか必ず話すから……!」
たどたどしくも懸命に話すノアを見ながらレイアは冷静さを取り戻す。
「ううん、私も怒ってごめんね。あのね一つお願いがあるの。ノアは行きたくなかったら待ってていいから教えてほしい研究所の場所を。」
ノアの目を真っ直ぐに見ながらレイアが言うとノアがおびえるような顔をして「駄目だ!」とクーが言う。
「どうして?」とレイアが聞くと「それが親父さんの願いだからだ。」とクーが答える。
「でも、私の願いはまた家族三人とぬいぐるみたちとノアと仲良く暮らすことなの。どうしてわかってくれないの。」
大粒の涙を流しながらレイアは走り去る。
その後ろ姿を見ながら正解をノアは考えると、「本当は俺もそうしたいんだけどな……。でも、どの答えを出しても正解で不正解なんだよな。ノアも悪かったな。」クーが言うと、ノアは首を振る。三体を宿に置きに行き、ノアが扉に手をかける。
「おい!お前まさか!」
ノアの行動を読んだクーが慌てる。
「ごめん、でも必ずレイアと戻る。約束する。」
ノアが微笑みながら言うと「君、過保護過ぎない?」のんびりとベンが言う。
「うるせぇ!仕方ないだろ!俺はお袋さんに作られたからレイアとは兄妹みたいに、妹みたいに感じちまうんだよ!」
寂し気にクーが言うと「どっちかって言うとレイアちゃんの方がおねぇちゃんよね!」とミミィーが言い「確かに」とベンが同意をする。
ノアが必死になってレイアを探すと街の広場の近くにあるベンチにちょこんと座るレイアを見つける。ノアはそっと隣に座る。
しばらくするとレイアが話し始める―。
「急に逃げちゃってごめんね。クーもお父さんもノアも私を心配してくれてるのは分かってるの。でも、でも、それと同じくらい私はお母さんもお父さんも大切でまた、あの日常が恋しくて仕方がないんだ。」
寂しそうにレイアが言う。
「行こう。」
ノアがレイアの手を握りながら言うとレイアは驚く。
「ノアは反対すると思った。」
立ち上がりながらレイアが言う。
「本当は反対。アーバンさんにもレイアと研究所は関わらせないでって言われているし、僕もあそこには足を踏み入れたくはない。でも……!」
とノアが決意を固める。
「レイアはアーバンさんとレアさんそして、僕と暮らしたいって言ってくれた。それを叶えたいって思った。叶えられると思った!レイアとなら……。」
レイアの目をしっかりと見ながらノアが言う。
「ありがとう。ノア……。ありがとう。」
とまたもや涙を流しながらレイアが言う。
「僕も二人には恩返しをしたいからさ……。」
照れ臭そうにノアが言う。
「ねぇ、ノア?」涙を拭きながらレイアが言うとノアが振り向く。
「家に帰ったら教えて。ノアとお父さんとお母さんとの思い出。」
綺麗な花ような笑みでレイアが言うとノアが頷く。
そして、二人は研究所の入り口の前に立ち慎重に進む―。
途中、警備のホムンクルスとすれ違いそうな場面もあったが息をひそめて難を逃れる。
そうして進むと一つのこじんまりとした部屋に出る―。
真ん中には椅子に座りながら編み物をしているレイアによく似た桃色の髪をふんわりさせた愛らしい顔立ちの女性が座っていた。
その姿を見たレイアは一瞬で笑顔になり、駆け寄る。
「お母さん!お母さん」
レイアが歩み寄りレアの顔を覗くとレイアの表情が固まる。レアは心をなくしたように目には光がなかった。
「お母さん、レイアだよ!どうしたの?お父さんは?」
レイアはレアをゆすりながら話しかけるもピクリとも動かない。ノアもレアのところに行こうとしたが後ろからいきなり殴り飛ばされ転がる。
「ノア!!」
レイアはいきなりのことで頭を混乱させながら叫ぶ。
「私の神域に足を踏み入れたのはどこの可愛いネズミかと思ったら、帰巣本能はあったようだね。しかも、新しいモルモットまで連れてきてくれたのかい?本当にできた子だね。
36番。」
博士は嬉しそうに言うとゆっくりとレイアに近づくとレイアの頭をなで、微笑みかける。そして、レイアの前に座っっているレアの首を締め上げ投げ飛ばす。
「お母さん!!」
レイアが慌ててレアのもとに駆け寄ろうとするも博士に足を引っ掛けられ転倒する。
「なんでこんなひどいことするの?」
レイアは痛みに耐えながら問う。
「なんでって?そんなの玩具だからだよ。」
あっけらかんとと言う。
「友達にはそんなことはしない!それに人に嫌なことはしないってお母さんに教わらなかった?」
レイアが怒りを込めた瞳で博士を見ながら言う。そうすると博士はレアの座っていた椅子を指をさす。
「君はあれを何と呼ぶ?何をするものだと考える?」
博士がレイアに問うとレイアが不思議そうな顔をする。
「何ってあれは椅子で座るためのものだよ。」 レイアが答える。
「実にシンプルな答えだね。確かに正解だ。だけどこれは使う人によっては……!」
博士は椅子を持ち上げて後ろにいたホムンクルスと思われる者に思い切り投げつける。
ホムンクルスはそのまま倒れこみ動きをとめる。
「なんでそんな……!」
レイアが博士に食ってかかるとしゃがんでいるレイアに目線を合わせる。
「あれは椅子で確かに座るものだけど使い方次第では武器でモノを壊すこともできるんだ。」
何事もなかったかのように笑いながら博士が言う。その顔に狂気を感じたレイアは咄嗟にレアに駆け寄り、守ろうとする。
「人間の愛って美しい。そしてときには残酷だ。でも、僕は今日、愛を手に入れた。レイア君がいれば、君が僕の友達を作り続けてくれれば僕は一人じゃなくなる!」
博士は両手を広げながら嬉しそうに叫ぶ。
再び博士はレイアに近づこうとすると博士が部屋に入ってきた男に殴り飛ばされる。
「お父さん!」
レイアが驚きながら言う。
「レイア久しぶりだな!また、可愛くなったな!」
アーバンが言うとレイアは目に涙を浮かべる。そして、アーバンはすぐに真剣な顔になる。
「ノア、レイアに合わせてくれてありがとな。レイア、幸せに暮らせ。二人で早く行け。」
アーバンが真剣な顔で言うと「やだ!」とレイアが言い、ノアが首を左右に振る。
「いいから早くいけ……!」
そう言いながらアーバンは博士にみぞおちを殴られる。
「は、やく……。」
アーバンが言うと何とか立ち上がったノアがレイアの手を取り、走って逃げ追ってを巻きながら宿まで戻る。
「助けれなかった……。」
レイアはしゃが見込んでいう。
「ごめん……。」
ノアがぽつりと呟く。
「ノアは悪くない!怪我痛くない?」
レイアが聞くと、ノアは胸に手を当てる。
「怪我よりもここが痛い」
ノアが言うとレイアが「私も」と言う。
二人はそのまま部屋で休み、慎重研究所の入り口の前を確認しに行くが、封鎖されていた。レイアたちは談をして、少し足を延ばしてそのままメアのにもとに向かうことにした―。