旅と初めの街カヌレ
次の日、お店の入り口で叫び声が響く。
「なんだこりゃぁぁああ!!レイア無事か!」
ガイが叫びながらお店に入るとレイアが慌てて下に降りる。
「ガイおじさん!おはよう。朝ごはんちょうど出来たんだけど食べる?」
レイアが天使のような微笑みでに聞く。
「せっかくだから頂くとするが、その前に入り口このお店の惨状どうしたんだ?」
ガイは朝ごはんに反応してにこやかな顔になるも一瞬にして慌てた顔に戻る。そこにノアもお店に来る。ノアを見た瞬間ガイが口をパクパクとしだす。
「レイア!アーバンがいない間に男?を連れてくるなんてボーイフレンドか?」
ガイは喜ばしいような心配そうな顔で口早に質問攻めをする。
「この子はノア。昨日色々あってそんなとき助けてくれたの。あと、しばらくこの家で一緒に暮らすことになった!」
レイアが言うとノアに「近所に住んでいるガイおじさん、ハナちゃんって言う小さな女の子のお父さんなんだよ。」と紹介するとノアがお辞儀をする。
「それはそうとレイアが無事でよかったよ。アーバンがいない間に何かあったらレアさんとアーバンに顔合わせらんないし、ハナも悲しむからな。お店のドアやらその他諸々は町の皆にも声かけてなんとかしよう。」
ホッとした表情でガイが言うとノアの方を向いて「レイアを助けてくれてありがとうな。」とノアに向かって言うとノアが照れ臭そうな複雑そうな顔で俯く。
「ガイおじさんも心配かけてごめんなさい。お店もよろしくお願いします!」
レイアが申し訳なさそうに言いながら礼儀よく頭を下げる。
「おう!任せとけ!なんなら前よりパワーアップさせてやるぜ。」
手をグッとしながら歯を見せて○が笑う。
そして、大掃除兼お店の修繕をすると一日があっという間に終わる。
「皆さん、今日は一日ありがとうございます。」
深々と頭を下げながらレイアは頭を下げる。
「とりあえず扉は治ったからな。」
「あとはお店の内装をどうにかするだけだ。」
「次、いつ集まる?」と手伝いに来た町の住民が言う。
「そんな、また来てもらうなんて悪いので私なんとかします!」
気合いを入れながらレイアが言う。
「違うぞ、レイア。皆レイアたちにお世話になってるから恩返しをしたくて手伝いに来てくれたんだ。だからここは甘えとけ。それに力仕事を子どもとぬいぐるみには堪える。ただ俺達も合間を見繕ってしか来れないからしばらくお店はお休みだな。また何か考えが思いついたら相談する!」
ガイが言うとレイアが再び頭を下げる。
次の日──。
一日空いてしまった日の朝、恒例のミミィーのピクニックコールがはじまる。
「レイアちゃん!ミミィーピクニック行きたいの!行くの!」
ミミィーが駄々っ子のように言うと「おい、レイアは昨日沢山働いたんだから休ませてやれよ。」呆れたようにクーが言う。
「ノアも行くの!」
ミミィーが言う。
「ちゃんと行くつもりだからちょっとだけ待っててね。」
あやすようにレイアが言う。ノアにも行くか聞こうとしたとき同じ部屋にいたノアそっと立ち上がりレイアたちのところに近づく。
「僕も一緒に行っていいの?」
ノアが聞くとレイアが「もちろん」と嬉しそうに言う。
「待てよ。ノアお前俺らの声聞けるのか!?」
驚いたようにクーが言うとレイアが目を見開いて驚いた顔をする。
「確かに!そう言えば今まで気づかなかった!」
レイアが言う。さっきまで静かだったベンが「僕はなんとなく気づいてたけどね。」とあっけらかんと言う。
「気づいてないやつは皆そう言うんだ。」
クーが怪しんだ声で言うと「ノア僕たちとレイアが話していると少し相槌うってたし。」眠そうな声でベンが言う。
「そうだったの?ノア。」
首を傾げなからレイアが聞く。
「うん。でも、邪魔しちゃいけないかなって……。」
申し訳なさそうにノアが言う。
「邪魔なんてことはない!これからしばらく一緒に暮らすんだから沢山お話しよ!ノアのお話も沢山聞かせてほしい!」
レイアが立ち上がりながら言う。
ノアは照れ臭そうに小さく頷いた。
レイアは慣れた手つきでスコーンとジャムとサンドイッチをバスケットに詰めていき、紅茶を用意する。
「ノアは紅茶はミルク派?それともレモン?」
レイアが振り返りながら聞くと困ったようにノアが首をかしげる。
「ストレート派?もしかして、紅茶よりコーヒーが良かった!?」
軽く飛び上がりながら慌てた様子でレイアが言うとノアが首を左右に振る。
「違うんだ。その……。僕、紅茶もコーヒーも飲んだことなくだから味がわからないんだ。」
ノアがレイアと床を交互に見ながら言う。
「だから、レイアの好きな飲み方で飲んでみたい。」
続けてふり絞りながらノアが言うと、レイアが嬉しそうに笑う。三体のぬいぐるみたちも表情は変わらないが微笑ましい雰囲気になる。
準備をした一行はいつもの丘に来ているただいつもと違って人間が久々に二人になったことでレイアは鼻歌混じりで丘まで登る。
「レイアご機嫌だね。」
ベンがのんびりと言うと「レイアちゃんが嬉しいとあたちも嬉しい!」と上機嫌にミミィーが言う。「ノアお前さんはどうなんだよ。」クーが聞くとノアは胸を抑える。
「なんかここがお日様みたい暖かくて足が自然と足が前に進む。これが楽しみとかわくわくってことなのかな?」
ノアが嬉しそうな顔で微笑みながら言う。
「きっとそうだよ!ノアがピクニック楽しみだからノアの心もぽかぽかしてて、きっとノアの足も速く丘に行きたいって思ってるから前に進んでくんだよ!」
レイアが柔らかく笑いながら言う。そして、「じゃあどっちが先にてっぺんにつくか競争ね!」と「よーいドン」と合図と同時に三体のぬいぐるみたちをノアに持たせてレイアは頂上に向かって走っていく。置き去りされたノアはクーに「取り敢えずお前さんのペースで登ってけ」と言われノアは再び歩き出す。頂上で合流したあと、レイアはクーに怒られたのは言うまでもない。
夕暮れ前、いつも通りうたた寝をしてしまったレイアはノアに起こされて起き上がり、帰り支度を始める。
「ノアはお砂糖なくても紅茶飲めるなんて大人だね。」
帰り道にレイアが言うと「そのままでも美味しかった。いつかコーヒーも飲んでみたい。」とノアが返す。
「ノアはコーヒーがいかに大人の飲み物かわかってないな!飲むとねこーんな顔になるんだよ!」
レイアはそう言いながらいつもの天使のような顔とは程遠い顔をした。その顔見たノアは二人が出会ってから一番大きな声で笑う。つられてレイアと三体も笑うと通りすがりの木の荷車を引いたガイと荷車に乗ったハナと出会う。
「レイアちゃん、こんにちは!」
レイアたちよりうんと小さな手を懸命に大きく振りながらハナが言う。
「レイア!ちょうどこれから寄ろうと思ってたんだよ。」
アーバンが荷車を一旦止めながら言う。
「ハナちゃんこんにちは!紹介するね。このお兄ちゃんはノア君だよ。」
レイアがノアを紹介するとノアはハナに目線を合わせてお辞儀をするとハナも丁寧にお辞儀をする。
「おじさん何かあったの?」
レイアが聞くとガイは荷車を軽く叩く。
「こいつをな、向こう農家のばあさんが昔の野菜の移動販売に使ってたみたいなんだがばあさんがもう年で移動販売なんてできないからって良かったらお店の修繕終わるまでレイア使わないか?と聞いてくれてな。取り敢えず運んできたんだがどうする?」
ガイが言うとレイア嬉しそうな顔で言う。
「いいの!やりたい!ノアも一緒にやるよね?」
レイアはノアの方を向くとノアは頷く。
「よし!じゃあ明日試しに町の広場でなんかどうか?」
ガイが言うと隣でハナが「ハナもお手伝いする!」と言う。それを聞くと「本当に!ありがとう。」とレイアハナの目線をに合わせてお礼を言う。
「おい、ハナ遊びじゃないんだぞ。」
ガイがたしなめるように言う。
「ハナちゃんもお手伝いしてくれるの?ありがとう!一緒に頑張ろう。」
レイアがガッツポーズをしながら言う。レイアを見ながらガイはため息をつく。
「レイア、すまねぇな。ハナちゃんとレイアたちの役に立つんだぞ。レイア言うことはしっかり聞くこと。」
ガイはハナに言い聞かせると「はーい!」と元気な声で返事をする。ガイは「明日また迎えに行く。」と二人に言い、別れる。
その日の夜、レイアは次の日に備えて新しいぬいぐるみを作る。
「レイア……。」
心配そうな顔でアトリエの入り口からノアが顔を覗かせる。
「ノア!どうしたの?先に寝てて平気だよ?」
首を傾げなからレイアが言うと「何かできることある?」とノアが言う。
「手伝ってくれるの?ありがとう!じゃあ出来たパーツに綿を詰めて貰ってもいい?こうやってぎゅうぎゅうにいっぱい詰めるの!」
レイアがお手本を見せながらお願いするのをノアが隣から除き込む。「はい!」とレイアが渡すとまた作業を再開する。
二人で一つの猫のぬいぐるみを完成させてレイアこの子が愛されますようにこの子の持ち主が幸せになれますようにそう願いながら頭を撫でてあげると「僕を作ってくれてありがとう!僕幸せになるよ。」とぬいぐるみが話す。その声を聞いたノアは目を見開いててから細め微笑む。
「よし!明日に備えてもう寝よ。手伝ってくれてありがとう、ノア!」
腕と背筋を伸ばしながらレイアが言うと「もういいの?」とノアが聞く。「あんまりやり過ぎてもいいぬいぐるみはできないからね!」とレイアが言う。二人は「おやすみ」と眠りにつく。
次の日、三人の移動販売は久しぶりのぬいぐるみ屋さんの開店だからハナの可愛いさのおかげか繁盛をして閉店をする。店じまいを手伝いに来たガイは言う「移動販売も大変だがたまにはいいんじゃないか?」というと「私も思ってた!もう少し遠くに足を伸ばそうかなって思ったの。」レイアが言う。「そうするなら僕も手伝う」とノアが言うとノアの手をレイアが包むように握る。「本当に?ありがとう!嬉しい!」と天使のようにレイアが喜ぶ。「ハナも!」と飛び跳ねながらハナが言う。
「ありがとう!でも、お父さん心配しちゃうから街の中のときまた手伝ってくれる?」ハナの目線に合わせながらレイアが言うと「えー!」とハナが言うので「お土産待っててね!」とレイアがなだめる。
「わかった……。」
頬膨らませながら渋々とハナが返事をする。
その日の夜、昨日同様ぬいぐるみを作るレイアとその隣で手伝うノアがアトリエで並びながら作業をする。
「次はどこ行く予定なの?」
ノアが聞くとレイアが視線をあげる。
「今のところ近場な街がいいかなって思ってるからカヌレに行こうと思う。久しぶりに町を出るから楽しみなんだ!美味しい焼き菓子のお店もあるから絶対に買いに行こうね!」
レイアが微笑みながら言うと美味しい焼き菓子を想像しながらノアが頷く。
二日後、お昼前―。
二人はようやくカヌレについた。予定より遅くなったのはさかのぼること出発するときだった―。
「カヌレにまでってどうやって行けばいいんだろ?」
町の入り口でレイアが地図とにらめっこしながら言う。
「行ったことあるんじゃなかったの?」
レイアを頼る気でいたノアは頼みの綱をなくしたような顔で肩を落とす。
「行ったことはあるけど毎回お父さんと一緒だったからいつも後ろからついて行くだけなんだよね…。」
レイアが苦笑いしながらノアの「焼菓子は?」という視線から目線を逸らす。二人は地図の読み方を伝授してもらうために早朝からガイを訪ねる。呆れられながらもなんとなく地図の読み方を理解した二人だが途中でも事件が起こる―。
「こっち?あっち?もうこうなったら運だよね!」
そう言いながらレイアは近くあった木の枝で棒倒しを始め、倒れた方向に進もうとするもノアが制止をする。
「ここはもうちょっと冷静に考えようよ……。誰か通ったときに聞くとかさ。」
ノアが言うと、「いつ通るかなんてわかんないし、それに違ったらまた戻ってくればいいんだよ!」とレイアが制止を振り切る。その結果同じ道を行ったり来たりしながらなんとかカヌレまで辿り着いた。開店準備が終わるころにはノアもレイアも疲れ切っていたがぬいぐるみを求める人たちの笑顔を見ると次第に元気を取り戻しって行った二人だった。
店じまいをして、焼き菓子を買って二人が帰路につくときに一人の男性が声をかけてくる。
「もしかして、レイアちゃんかい?見ないうちにお姉さんになったねぇ。」
男性が言うと「あっ!お久しぶりです!お元気でしたか?」とレイアが聞く。
「もう元気よ!元気!あり余ってるわ。そう言えばこの間、と言っても数か月前なんでけど私の家に出た黒光りの奴レイアちゃんパパに退治してもらってね。お父さんにお礼を言ってもらえるかしら?」男性がその日のことを思い出しながら表情を変えて言う。父の話を情報を耳にしたレイアは目を見開く。
「お父さんに会ったんですか!?お父さんどこに行くとか聞いてませんか?」
レイアが不安そうな顔で問う。
「お父さん何かあったの?私が最後に会ったのは四か月くらい前よ。そういえば移動研究所の情報を集めていたわ。」
心配そうな顔で男性が言うと「それはどこにあるんですか!」レイアが前のめりで聞く。
「その話は大きな声でしない方がいいわ。どっちにしろ本当に行くのだとしたら途中で日が落ちても大変だし、今日は家に泊まって行きなさい。」
家を指さしながら男性が言うと二人は丁寧にお辞儀をする。
次の日の早朝、男性に移動研究所のあるという噂の場所を大雑把に地図に印をつけてもらう。荷車は預かってくれるということなので二人はリュックサックを背負いレイアは中に三体のぬいぐるみを詰めた。地図を頼りながら二人で印の周辺を懸命に探す。
「えいっ」とノアが茂みに手を突っ込む。しばらくしてから重厚な音が響空洞が現れる。
「ノア凄い!どうして見つけられたの?」
レイアが輝いた瞳でノアを見つめる。
「なんか変なくぼみがあったから押してみた……。」
気恥ずかしそうにノアが言うと「埋蔵金でもかくされてそうだな!」と吞気にクーが言うと「宝探し!」と吞気にミミィーが言う。「ノア偉い!進も!」とノアの頭を撫でながらレイアが言うと一行は空洞を突き進む。途中、コウモリの羽音などで「もう帰ろうよ。レイアちゃん怖いよぉ。」と弱音をはくうさぎのぬいぐるみもいたがレイアとノアは歩き続ける。そして、大きな部屋に出ると一人の倒れている女性らしい人間がいた。レイアが慌てて駆け寄ると「ノア……。どうしよう、息してないし、冷たい。」顔面蒼白になりながらレイアが言う。ノアが複雑表情をしがらレイアの隣に座り、優しく女性の頬叩いてみる。
「レディの顔を叩くなんて随分なご挨拶ね。」
その声を聞いてレイアは「生きてた!」と喜んでいたが「こいつ人間か?」クーが言うと「口動いてない。」冷静にノアが言う。
「あら、気づくのが早いのね。ずっと一人でいたから退屈していたのよ。同胞さん。」
女性が三体のぬいぐるみたち同様純粋な人にしか聞こえない声で話す。
「あなたは一人なの?あなたは人間?ほかの人は?」レイアが質問攻めをする。
「私はレアって人に作られた人造人間。彼女は暖かい人だった。合間ができては私に微笑みかけてくれる優しい人だった。でも、ある日慌ただしい日があって先生って呼ばれてる人が私にお前は失敗だからここに残れと言ったの。」女性は徐々に淡々とした話口調になりながら言う。レイアは母の名前が出てきて母が生きてることへの喜びと何故手紙一つすらくれないのだろうか。など様々なことが頭をよぎるが事情を説明したうえで父と母の行方を聞く。
「もしかして、あなたの父親はアーバンって人かしら?あの人もレアの行方を追っていたわ。」
女性が言うとレイアは勢い良く頷く。
「今もいるかわからないけど次の研究所候補?がボルボローネってとこらしいっていうのは伝えたからもしかしたらそこに行ったかもしれないわ。にしても、レアもアーバンも変わり者よね。ほかの人は私のこと見向きもしないのにレアは私に微笑みかけるし、アーバンは出会って早々に私に名前つけてくるし。」女性が言うとレイアは「どんな名前をつけてもらったの?」と聞く。
「ウイッシュだってでもこの名前を呼んでくれる人いないのよね。」と寂しそうに笑いながら言う。
「「ウイッシュ!」」
二人は顔を合わせて頷きながら言う。
「「ウイッシュ」」
三体のぬいぐるみたちも呼ぶとウイッシュの閉じたままの瞳から雫が零れる。
「なによ……。いきなり呼ばれたら照れるじゃない。」
照れくさそうに言う。
「ねぇ、ウイッシュはお外に出られないの?」
首をかしげながらレイアが言う。
「私はいいの。そろそろ私は……。」
濁しながらウイッシュが言うとノアがレイアの肩を叩く。何かを察したのかクーも「レイア行こうぜ。」と声をかける。レイアは首を振るも、「レイア!」と珍しくノアが大きな声を出すので引き下がる。
「ウイッシュ、私じゃ力不足でごめんね。またね。」
なごりおしそうにレイア言う。
「レイア!もう一度、私の名前呼んでくれない?」
ウイッシュが言う。
「ウイッシュ!ウイッシュ!ウイッシュ!!」
大きな明るい声でレイアは叫ぶとウイッシュが笑う。
「ありがとう!気をつけてね。同胞もまたね。」
ウイッシュがそう言うと名残惜しさは捨てきれないが一行は進む。そして、その後ろでウイッシュはさらさらと天に昇っていく。まるで負の感情取り除き、沢山の負の感情で穢れたぬいぐるみたが持ち主が知らないまま空に帰ったようにそっと―。