表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

Happy Merry Xmas!in幻想郷

作者: 東方にわか

今作は東方二次創作の第二弾となります。暖かい目と、広い心。そして幻想郷を愛する精神を持ってお読みください。

 幻想郷―――そこは、結界で隔離された人ならざる者たちの里。そこでは日夜、妖怪、吸血鬼、天狗―――多種多様な種族の幼き少女たちの宴が開かれていた。

 そして、今年の冬も―――


「皆さん!クリスマスパーティーってしませんか?」


 12月。幻想郷の定期集会の終わりに守矢神社の巫女、東風谷こちや早苗さなえは突然提案してきた。


「クリスマス?なにかの食べ物かしら?」


 冥界の支配人、西行寺さいぎょうじ幽々ゆゆこはほんわか笑顔で尋ねた。


「いえ、食べ物ではありませんよ。キリストっていうすごい人の誕生を祝う、一種のお祭りです!」


「ああ、そういえば。ここに来る前のところで人間たちがキリスト様の十字架がどうとか言ってましたね」


 何食わぬ顔で緑茶を啜りながら、紅魔館のメイド、十六夜いざよい咲夜さくやは呟いた。


「そのキリスト様の誕生を祝うお祭りをクリスマスって言って、その日の夜は皆で美味しいご飯を食べたり、プレゼントを交換したりして、楽しく過ごすんですよ。皆さんお祭りごとって大好きですよね。やってみませんか?」


 その早苗の提案に、幽々子や咲夜、射命丸しゃめいまるあやと、黙々と煎餅を食べていた霧雨きりさめ魔理沙まりさも笑顔で頷いた。


「お祭りってことは何か食べ物もでるのよね〜?どんなのがあるのかしら?」


「ケーキっていう、丸くていちごが上に乗っている甘いお菓子とか、お肉もでますよー!」


「それなら、紅魔館から鶏肉をお持ちしましょうか。大きな鶏が何羽か仕入れていたので」


「いいですね!それをですね、ローストチキンにしてですね」


「よっしゃ〜!また旨い酒が飲めるぜ〜!」


「魔理沙さん、クリスマスではシャンパンっていう、特別な飲み物を飲むんですよ」


「宴となればすぐに新聞にして知らせなければ!早苗さん。開催場所と日時を教えてくれますか?」


「日付は12月24日です!丁度1週間後ですね。場所は……霊夢さん!ここでしてもいいですか?」


 あやの質問に、早苗は今まで一人静かにこたつで緑茶を啜っていた霊夢れいむに神社の使用許可を求めた。霊夢はそっけない態度でそれに答えた。


「いやよ。年末は結界の調整で忙しいから、私は参加しないわ。やるんだったらあんたの神社ですればいいんじゃない?もしくはレミリアのところの館でやったら?大きいしぴったりだわ」


 霊夢はそれだけ言うとこたつから立ち上がり、部屋から出ていった。

 ふすまを閉じる時、一瞬見えた早苗の寂しそうな顔を、霊夢は見なかったことにした。


     □ □ □ 


「ただいま帰りました。神奈子様、諏訪子様」


 早苗は博麗神社から帰ってくると、ただいまと声を掛けてくる八坂やさか神奈子かなこ洩矢もりや諏訪子すわこと共に小さなこたつに潜った。

 みかんの皮を剥きながら、優しく神奈子が尋ねる。


「それで?皆をクリスマスに誘うことは出来たのかい?」


「ええ、場所はレミリアさんの紅魔館でやることになりましたが、無事文さんが早速新聞にして皆に知らせてくれました」


「どうしたのー?作戦は成功したのに浮かない顔して」


 諏訪子の問いに、早苗はぎこちなく笑う。このクリスマスパーティーは早苗や神奈子、諏訪子の三人で考えたものだった。理由は、ここ、幻想郷の新参者である自分たちを早く受け入れてもらい、打ち解けるためだから。……というのは建前で、神奈子と諏訪子にはまた別の目的があるのだが、それは一旦置いておく。

 とにかく、作戦では早苗が定期集会の時に集まった皆を誘うのだが、それは成功した。それなのに、何故早苗は浮かない顔をしているのか、諏訪子は気になった。

 神奈子の剥いたみかんを食べながら早苗は言った。


「霊夢さんは、参加しないそうなんですよ……巫女としての仕事が忙しいらしくて……。あ!でも、全然大丈夫ですよ!他の皆さんがたくさん来てくれるので」


 誰の目にもわかるような作り笑顔で、早苗は自分の本心を隠した。神奈子と諏訪子も当然気付いたが、気付かないふりをした。


「そうだな。クリスマスまであと1週間しかないからな、急いで準備をしなきゃだしな」


「早苗〜。一緒に飾り作ろう?」


 あくまで自然な態度で神奈子たちは話を流した。早苗も一度は寂しそうな顔をしたものの、すぐにいつもの笑顔を作り、神奈子たちと飾りづくりに勤しんだ。


     □ □ □


「ということでして、この館でクリスマスパーティーを行うことになりました。私の独断で決めてしまい、申し訳ございません」


 咲夜は紅魔館に帰ってくると、忠誠を誓う紅魔館の主、レミリア・スカーレットに今回の定期集会の報告をしていた。

 レミリアは鮮血の入ったグラスを口にしながら話を聞いていた。


「そのことはいいわ。フランも喜ぶでしょうからね。それにしても、クリスマス。あの守谷の巫女も面白いことを言うわね」


 クリスマスパーティーの話を聞いたレミリアは以外にも乗り気だった。


「お嬢様、珍しいですね。そんなに乗り気になるのは」


 咲夜の驚きにレミリアは微笑みながら答えた。


「実はね、あの二人の神に乗ってくれと頼まれているのよ。自分の子のためだからって。そんなこと言われたら断れないじゃない」


 レミリアの言葉に咲夜も理解したかのように微笑んだ。

 あの新参者の神たちは人間に信仰される立場であるとともに、東風谷早苗という一人の巫女の数少ない保護者であり、家族なのだ。咲夜はそのごく自然な愛情を受け入れようという主の意向に沿うと共に、お嬢様は本当に優しいお方だと感じた。


「ま、ここで借りを作っておくのも悪くはないしね」


 素直じゃないレミリアにはそのことは決して口にはしないけれどっと心の中で微笑むと、従者として最高の笑顔で頷いた。


     □ □ □


「くりすます?何ですか?それ」


 冥界、その中心部にある西行寺家の館、白玉楼はくぎょくろう。その庭で枯れ葉を掃除しながら、魂魄こんぱく妖夢ようむは聞き慣れない単語に首をかしげた。


「なんかね〜来週紅魔館でパーティーをやるらしいのよ。そのお祭りがクリスマスっていうらしいわ〜」


 縁側に腰を下ろし、おまんじゅうを美味しそうに頬張りながら幽々子は答えた。ちなみに、幽々子は既に20個近くおまんじゅうを食べている。あの柔らかそうなほっぺたにはいくつのおまんじゅうが入っていったのか……。

 むにむにほっぺにおまんじゅうがもう1つ入っていくのを見ながら、妖夢はため息をついた。


「幽々子様……。それで幽々子様、私達は何か準備すべきものなどはあるんですか?」


 妖夢はほうきを片付けながら尋ねた。幽々子は「それでね〜」とおまんじゅうを飲み込んでから答えた。


「実は、このクリスマスはあの守矢神社の巫女が提案してきたことなのよ〜」


 幽々子の言葉に妖夢はお茶を淹れながら聞く。


「それでね〜、早苗ちゃんとは別に、あの神奈子からもお願いされているのよ〜。どうしてもクリスマスを最高のものにしたいから手伝ってくれって」


 霊夢からおすそわけしてもらった緑茶を飲もうとした妖夢は盛大にむせた。

 幽々子に背中をさすってもらい、やっと声をだす。


「あの神様たちが頼み込んできたって本当なんですか!?幽々子様」


「本当よ、何でも早苗ちゃんをびっくりさせたいんだって。そんなこと、協力したいものでしょう?」


 幽々子は妖夢の言いたいこともお見通しとでも言わんばかりに話した。それを聞いた妖夢は、ああ、っと納得した。そして、自分が幽々子のしたいことのためにはどうしたらいいかも全てが理解できた。


「分かりました、幽々子様。この魂魄妖夢、幽々子様のために全力を尽くします!」


「そんなに肩を張らなくてもいいわよ〜。あ、そうだわ妖夢。クリスマスではプレゼントを渡すらしいの。何か欲しいものでもある〜?」


「だ、大丈夫ですよ!プレゼントなんて!……プレゼントなんかより、幽々子様と一緒にいたいです……」


「それじゃあ、今夜は一緒に寝ましょうか」


「こ、子供扱いしないでください!」


 耳の先まで赤くなった妖夢を見て、幽々子は優しく微笑むのだった。


     □ □ □


「アリス〜!ア〜リ〜ス〜!って、霖之助りんのすけもいたのか」


 博麗神社からまっすぐに魔法の森に飛んでいった魔理沙は仲の魔法使い、アリス・マーガトロイドの家に向かった。

 庭先に置いてあるガーデンテーブルでアリスとお茶をしていた、香霖堂こうりんどうの店主、森近もりちか霖之助りんのすけはティーカップから口を離し、魔理沙に目をやる。


「どうしたんだ、魔理沙。宴がどうとか言っていたが年末のことかい?」


「いや、年末の年越し祭じゃなくてな、くりすます?っていうお祭りを来週吸血鬼のとこの紅魔館でやるんだって!」


「ああ、人間たちが騒がしくしているわね。プレゼントの準備とかで」


 アリスの情報に魔理沙はそうそれ!と指差した。


「早苗がプレゼント交換をするって言ってよ。でもプレゼントって何を用意したらいいかわかんねえんだよなあ。なあなあ霖之助、良いもん持ってないか?」


 唯一外の世界のものが入ってくる香霖堂の店主である霖之助は顎に手を当てて考え込む。


「うーん、クリスマスに似合いそうなオシャレなものは生憎あいにく置いていないな。魔理沙が貰って嬉しいものを用意したらどうだい?」


「え〜?貰って嬉しいものなんて言ってもな〜。あ!新型の八卦炉はっけろが欲しいぜ!ド派手なやつ!」


「それは機会があったら作ってやるから。それ以外にないのか?」


 霖之助は呆れながらも八卦炉の制作を約束し、再度魔理沙にうながす。

 魔理沙が悩んでいる横で、アリスが尋ねた。


「ところで、霊夢も参加するの?年末は忙しいはずだけど」


 アリスの疑問に魔理沙が答える。


「いや?来ないって言ってたぜー」


 勿体ねえよなーとぼやく魔理沙の横でアリスはチラッと何もない虚空に視線を送る。


「ま、なんかプレゼントは考えるかー。じゃあな〜。あ、クリスマスの日時は……」


「大丈夫、ちゃんと分かっているよ」


「そっか。じゃあまたなー!」


 嵐のように魔理沙は一頻り(ひとしきり)騒いだ後、ほうきに乗って飛んでいった。

 それを見えなくなるまで見送ってから、アリスは口を開いた。


「それで?霊夢は来ないようだけど、どうやって参加させるの?」


 アリスは先程見た空間に声を掛けると、


「さあ?来ないんだったら、しょうがないんじゃないのかしら」


 と、ガーデンテーブルの空いている席に何食わぬ顔で座るスキマ妖怪、八雲やくもゆかりは答えた。


「残念ね、私はこっちから出させてもらったわ」


 紫の挑発にアリスの代わりに霖之助が話した。


「まあでも、呼ばないってわけにもいかないだろう?神から直々にお願いされているのに」


「そうね。紫の能力を使って呼べば良いんじゃない?博麗の巫女を運ぶぐらいの能力はあるんでしょう?」


 先程の仕返しとばかりにアリスは挑発ちょうはつ仕返す。


「さあ?連れてきてもすぐに帰っちゃうわよきっと」


 紫は気にする様子もなく優雅に紅茶を飲みながら言った。アリスは納得がいかないという顔をしていたが、霖之助だけが1人目の前の問題に頭を抱えていた。


     □ □ □


 博麗神社、その本堂の中心部。そこには広大な幻想郷を囲む『博麗大結界はくれいだいけっかい』の魔法陣がある。霊夢は博麗の巫女の力を操り、年中稼働し能力が衰えた魔法陣に輝きを注ぐ。

 やがて黒く色褪いろあせていた魔法陣が白く光りだし、幻想郷の空を優しく包み込む。

 これで、第一工程は(・・・・・)無事に終了した。

 強大な博麗の力は少しでも調整を誤れば幻想郷をたやすく消し飛ばせてしまう。だから、この結界の調整は年に1度だけで充分であり、そして、たった1時間ほどの作業でも恐ろしいほどの神経を擦り減らす。

 このつらさを知っている霊夢は、進んで能力を使おうとせず、平穏を最も好んでいる。

 厨房でお茶を沸かし、湯呑みに注ぐと、居間のこたつで体を温めながら、お茶を啜る。

 ほう、っと白い息を漏らすと、ふすまの外を見る。真っ白な雪がただただ静かに降っていた。

 そんな静寂を破るように、玄関から声がした。


「おい、お邪魔するぞ」


 そういってやってきたのは、守矢神社の神、八坂神奈子だった。


「なあ霊夢。お願いなんだが、今度のクリスマスに参加してくれないか?」


 神様が直々に出向いてのお願いに、霊夢は首を振った。


「ごめんけど、それは無理よ。早苗にも言ったけれど、私は今結界の調整で忙しいの」


「けれど、つい先程整備は終わったのだろう?それが分からないほど私は弱くはないのでな」


 一点張りの霊夢に神奈子は引かずに問いかける。


「嫌よ。まだあれは第一段階でまだまだ終わってないのよ」


「それじゃあ、その最後の工程までにはどれぐらいかかるんだ?」


 どれだけ断る姿勢を崩さない霊夢に、それでも参加してくれという神奈子。霊夢はその神奈子の姿勢に苛立ちを表した。


「なんでそんなに私を誘うのよ!何?宴の最後に博麗の力でも見せろっていうの?絶対にお断りね!」


 霊夢の怒気にも神奈子は静かに答えた。


「いや、そんなことではない。ただ、霊夢にもお願いしたいんだ」


「何!?自分の子の為に私のこの忙しさをどうにかしてって!?」


「そうだ。早苗の為にお願いをしている」


「っ!!どいつもこいつも!自分の子の為にって言って!たやすく他人に迷惑をこうむる!私の気持ちなんか分かりもせずに!」


「お前の気持ちなんてとっくの昔に知れている!」


 突然の神奈子の怒鳴り声に霊夢は怯む。


「あんた何かに分かるはずないわ!この力の重みを!」


「ああ、博麗の力なんて知りもしないさ」


「じゃあなんでそんな分かった風な顔してっ!」


「でも貴様の心の中身は分かっている。私は大地の神だ。地面を伝ってお前の哀しみが溢れ出ているのだって感じているさ」


 その言葉に霊夢は一瞬ビクッと肩を跳ねさせた。


「霊夢、お前は凄いやつだ。神である私ですら推し量れない力をその小さな身の丈に宿している。けれど、そのお前の本心はいつも哀しんでいる。寂しがっている。自分の肉親の記憶は無く、その力の重みを誰も理解はしてくれない。そうだろう?霊夢」


 神奈子はただ静かに話した。自分が今まで誰にも明かさずに隠し続けてきた本心を、神奈子はいともたやすく言い当ててきた。

 神奈子は、「でも」と続けた。


「でも、それは早苗もなんだよ。私達が幻想郷に行くと決めた時、私達は早苗を連れてきてしまった。前のところでは早苗もお前のように誰も理解しえない力を持っていたが為に、周囲から浮いてしまっていた。だから、そんな哀しいところから早苗を連れ出してやりたかった」


 神奈子は優しく、それでいて悔やむように話した。


「しかし、早苗はここでも孤独を感じてしまった。自分よりも圧倒的に強い者達に囲まれ、自分の存在意義を見つけられず、心がすり減ってしまった。でも、早苗は酷いぐらいに強かった。私達はそれに気付かずに早苗に甘えてしまった」


 神奈子は霊夢の前に座ると、静かにこたつの上のみかんの皮を剥き始めた。


「諏訪子がな、教えてくれたんだよ。夜中、台所で1人朝の支度をしながら泣いていたそうだ。私達が心配をしないように、1人で抱え込んでしまっていたんだ。お前も、そうなんだろう?霊夢」


 神奈子の言葉に、霊夢はただ小さく頷いてしまった。


「早苗の哀しい心を癒す為にも、お前がいつか潰れてしまわない為にも、このお願いを聞いてくれないか?私から見たら、お前と早苗は気が合いそうだ。こうしてみかんのすじをとってくれるやつがいるだけでも、人は不思議と幸せを感じられる生き物なんだよ」


 そうして、神奈子のすじまで綺麗に剥かれたみかんを、霊夢は小さく千切って口に運んだ。


     □ □ □


 12月24日。クリスマスイブのその夜。いつもは不気味な雰囲気を醸し出している紅の館は数々のイルミネーションでいろどられ、最高のパーティー会場となっていた。

 大広間には白いテーブルクロスを掛けられた大きなテーブルが並び、その上には美しく盛り付けられた巨大なタンドリーチキンやサラダ、ローストビーフに大小様々なケーキがロウソク立てと共に配膳されていた。

 そのテーブルを取り囲むように人間、天狗てんぐ河童かっぱ、妖怪など様々な種族が一同に介していた。

 各々好きなように喋っていたが、突然証明のシャンデリアから光が消え、大広間から2階に続く大階段の踊り場にシャンパンを手にしたレミリアと早苗が立っていた。

 レミリアは一歩前に出ると開会の挨拶を始めた。


「今晩は、皆さん。今夜は私の館に集まってくれたことに感謝するわ。集まってもらった理由は他でもない、楽しい楽しい宴を行うからよ。というわけで早苗。挨拶をして頂戴」


「は、はい!皆さん!今日は私が企画したクリスマスパーティーに参加して頂き、ありがとうございます!今夜は無粋なことは一切考えないで、人間の里の宴を楽しんで下さい!それでは、ここにクリスマスパーティーを開会します!皆さん、飲んで食べて楽しみましょう!カンパーイ!」


 その言葉と共に一斉に手にしていたシャンパンを掲げ、宴は開幕した。

 

「うめえ!なにこれウッマ!」


「美味しい〜!あ、ちょっとそのお肉はアタイが狙ってたやつ!」


「へっへ〜ん、残念だったな!」


 魔理沙やチルノは開会するや否や七面鳥の取り合いを始めた。


「こら魔理沙!あんまり食事時に騒ぐなよ」


「まあまあ、ほら。香霖も飲みましょ?」


「お二人共シャンパンの追加をどうぞ」


 その横でアリスと霖之助は咲夜が運んできたシャンパンを傾ける。そこに、この場の雰囲気を体現したかのような、可愛らしいフリルの付いたクリスマスドレスを身にまとったフランドール・スカーレットが現れた。

 

「咲夜咲夜〜!私にもそれ飲ませて!」


「ダメです妹様。これは大きくならないと飲めないんですよ」


 フランは霖之助の持っているシャンパングラスを指を指し、咲夜にねだったが、流石の咲夜もレミリアのいる前で堂々とお酒を勧められは出来ないので、やんわりと断った。

 しかし、フランはむ〜っと頬を膨らませると、無限にお酒が湧き出るひょうたんを口に傾けている鬼、伊吹いぶき萃香すいかを指差した。


「あの人は小さいのにお酒ガブガブ飲んでるよ!私も飲むの!」


「いえ、妹様。あれは鬼でして……って、ああ!妹様!」


 フランの屁理屈へりくつに気を取られているうちに、フランはえいとジャンプして咲夜の持つお盆からグラスを1つ奪い取った。

 そして、咲夜の静止も聞かずにグラスの中身を一気に飲み干す。

 霖之助達も慌てる中、案の定、フランはデロンデロンに酔っ払っていた。


「なっ!ちょっとフラン!貴方勝手にお酒を飲んだわね!」


「えへへ〜お姉様〜?フランね、なんかとってもポカポカで気持ちがいいの〜。あれ?いいのかな〜分かんないぃ〜」


 誰がどう見ても完全に酔っ払っていた。その様を姉であるレミリアと従者である咲夜は2人して大慌てだった。

 いつもの毅然きぜんとした態度とは懸け離れた様子に、周囲からは笑い声が漏れ出す。

 主催者である早苗もレミリアの変わりように目に涙を浮かべて大笑いした。

 そんな自分の子の様子を見ていた諏訪子は、にんまりと笑顔を浮かべた。


「良かったね、早苗」


     □ □ □


 そんな、紅魔館が温かい空気に包まれているのと同時刻。早苗と諏訪子がいなくなったの守矢神社に霊夢は立っていた。

 視線の先には早苗が精一杯に飾り付けをしたクリスマスツリー。その頂点に輝く星をただ静かに眺める。


「霊夢、そろそろ行くぞ」


 そこに、神奈子の声がかかった。振り向くと八雲紫がスキマを開いて待っていた。

 最後にもう一度星を眺め、1つの小包こずつみを足元に置き、その場を去った。


     □ □ □


 場所は戻って紅魔館。フランの飲酒による一騒動も落ち着き各々喋り合いながら飲食をしていた。

 そんな和やかな空気の会場の端にチルノやルーミア、ミスティア達が集まっていた。チルノは口の端に付いたソース(ローストビーフのもの)を拭き取ってから言った。


「危ない危ない。あまりの美味しさにアタイったら作戦を忘れてたよ」


「ほんとよ。良い?このパーティーには霊夢がいないわ。ということは……」


「幻想郷最強のアタイに仕放題!」


 チルノの言葉にルーミアは「最強は私よ!」と言っていたが、横からミスティアが話を進める。


「作戦はこう。まず私がクリスマスの歌だっていうことで能力を使い、皆が惑わされている間にルーミアの能力でこの会場を闇で包む!」


「そしたらもうアタイたちの勝ちってことね!」


「そういうことね!それじゃあ早速、ミスティア、始め……」


「させるわけないでしょ。バカなんだから」


 三馬鹿妖精のイタズラを霊夢は入場ついでに片付けた。そこに早苗が駆けつけてきた。大きく目を見開いて驚いている早苗に、霊夢は顔を逸らし、少し赤くなりながら言った。


「……予定よりも早く結界の調整が終わったから来てやっただけよ」


 その霊夢の態度に早苗はどうしても笑みが抑えきれなかった。


「な、何よ!そんなに笑って」


「いえ、霊夢さんが可愛すぎて……ありがとうございます霊夢さん。来てくれて」


「別にあんたのためじゃないし……」


 いくら話しても素直になれない霊夢に遂には神奈子も諏訪子も笑いだしてしまった。

「ちょ、ちょっと何笑ってるのよ!」と騒ぐ霊夢の手を引いて早苗は色とりどりのケーキが並ぶテーブルに連れて行った。


「さ、霊夢さんもいっぱい楽しんでください!」


 満天の笑顔で笑う早苗を見て、霊夢はフンっと鼻を鳴らした。


「言われなくても存分に楽しんでやるわよ」


 こうして、飛び入り参加の霊夢も加え、紅魔館でのクリスマスパーティーは無事に解散を迎えた。


     □ □ □


 紅魔館の帰り道、主催者である東風谷早苗は見事に酔いつぶれていた。あの後、霊夢とともに萃香の晩酌に付き合わされ、パーティーが終わる頃には歩くのもやっとになっていた。

 あまりお酒の飲まない早苗が珍しく酔いつぶれている様に、おぶっている神奈子は自然と笑みがこぼれる。

 珍しく、ということはいつもの自制心が働かなくなるほどに、今回のパーティーを楽しんでいたということ。それは神奈子達が最も望んだことであり、早苗にさせて上げたかったことだ。


「ほら、もう家につくぞ。大丈夫か、早苗?」


「だ、だいじょうふれふ……」


 完、全、に酔っ払っていた。

 守矢神社に着くと、そのまま早苗は布団に潜って寝てしまった。だが、その方が好都合だった。

 誰もいない居間にあるクリスマスツリーの横から、空間がねじ曲がった。


     □ □ □


 私の名前は東風谷こちや早苗さなえです。日本のどこかで生まれ、国内で育った生粋の日本人です。でも、私は普通の人とは違い、不思議な力を持っています。それは『奇跡を起こす』という能力です。

 私の家は代々続く神職の家でした。そのこともあってか、学校でも上級生も関係なく「東風谷さん」「早苗様」って敬称呼びをしてくれました。皆、凄い、神様みたいだって崇めてくれました。

 ……でも、私はちっとも嬉しくありませんでした。私には「お前は人間じゃない」「私達とは違う」って、そう、言われているようでした。

 授業は「東風谷は当然こんな問題解けるよな」と言われ、先生に当てられない。

 休み時間には「早苗様と一緒になんて……」と言って誰も話に来てくれない。

 休日には家の仕事があるから、友人と遊びにも行けない。

 そもそも、そんな仲の良い友人なんていもしない……

 そんな悪循環を抱え、常に品行方正を求められ、でもそんな心の内を明かすことも出来なくて。

 気付いたころには手遅れでした。

 神奈子様達にも言っていないけど、随分前から『奇跡』なんて起こせなくなりました。

 このことを話せば、皆と同じ扱いをされるのだろうか。そんなことも考えました。でも、この力が無くなってしまったら、私の存在意義は何が残るのでしょうか。

 ……いつしか、私は作り笑顔だけが上手くなっていました。

 そんな私を助けようと、数少ない知人である諏訪子様と神奈子様が私を『幻想郷』に連れてきてくれました。

 私だけが特別だった世界とは違い、そこは皆特別でした!皆凄い力を持っていて、誰も贔屓ひいきをしていなくて、対等な、私が望んだ世界でした!ここでなら、味わえなかった青春を謳歌おうかできると思いました!私と同じ巫女である、霊夢さんとも仲良くなれると思いました!

 でも、そんなこと、夢物語でした。

 友人を作る方法も知らない。

 他人を尊重する力もない。

 ただただ息苦しくなってしまいました……。

 諏訪子様と神奈子様が私にしてくれたことだから、逃げ出しては行けない。でもここでの自分の存在意義を見出せない。

 そんな矛盾に1人涙も流してしまいました。

 私は、バカですね。自分で何かを変える勇気も、力も持ち合わせていない。ただ流されて、息苦しくなって、それの繰り返し……。

 もう、『奇跡』なんて、起きなくてもいいから、私に『普通』をください。

 神様、お願いします・・・・・・


     ◻︎ ◻︎ ◻︎


 見が覚めると、そこは守谷神社でした。頭がガンガン痛いです……。確か、クリスマスパーティーでお酒を飲みすぎて、神奈子様におぶってもらって帰ってきたんでした。

 目の下を触ると、涙の跡がありました。寝ながら泣いてしまったんですね。不覚です。周りを見ると神奈子様も諏訪子様もいません。

 居間の方から明かりが漏れています。お二人共、まだ起きているようです。

 私は涙の跡を拭い取ると、襖を開けました。

 ―――そこには、霊夢さんがいました。

 いえ、霊夢さん以外にも、魔理沙さん、アリスさん、紫さんがいました。


「あ、早苗。ちょうど起きたか」


 横を向くと、神奈子様がクリスマスボックスを持っていました。

 何事かと思っていると、魔理沙が「んじゃ、やるか!」と声を掛けました。

 それに合わせて全員が手にしたクラッカーが音を上げました。

 大量のカラーテープがその場を埋め尽くし、その後には満天の笑顔の皆さんとびっくりして動けない私がいました。何事かと皆を見ると、魔理沙さんが大きな声で答えを言ってくれました。


「早苗〜!メリークリスマ〜ス!はい、これ私からのプレゼントな!」


 メリー、クリスマス……?でも、クリスマスパーティーは先程終わった筈です。なのに何故……。

 その謎も、渡されたクリスマスボックスを開けて気がつきました。


 中には、私が前に欲しいと話していたアクセサリーでした。


 その後にも、アリスさんの渡されたクリスマスボックスには、私をモデルとした人形があり、紫さんからは綺麗な砂の瓶詰めを貰いました。

 もう、それで充分分かりました。これは……


「これは、私達が用意した早苗へのクリスマスプレゼントなんだ」


 神奈子様がそう言って私を抱きしめました。


「今まで、1人で背負わせてすまなかった。助けてあげられたような気をしていて、すまなかった。早苗の心を見てやらずに、すまなかった!」


 神奈子様が耳元で言っていることを聞くたびに、涙が溢れてきました。


「ごめんね、早苗。早苗のしたいこと、何にも聞いてあげてなかったね。私達は早苗が悲しんでるところを見たくなかっただけなんだ。ごめんね」


 諏訪子様はそう言って、私を抱きしめてくれました。

 もう、涙で顔がぐちゃぐちゃでした。

 こんな気持ちは初めてです。嬉しくて、嬉しくて、涙が止まってくれません。でも、涙は流れているのに、心はどんどん温かくなっていきます。こんな気持ちは、初めてです。

 神奈子様は私からの離れると、じっと私の顔を見ました。涙でぐちゃぐちゃの顔を見られちゃいましたが、気にしません。今は、神奈子様の優しさという温もりを感じていたいのです。


「なあ、早苗。お前はここで、何が欲しい?何を、したい?」


 神奈子様の言葉に、私は紫さん、アリスさん、魔理沙さん、そして霊夢さんを見てから、作り笑いではない、初めての本物の笑顔で言いました。


「皆さんと、友達になりたいです!」


 霊夢さんは少し頬を赤くすると、そっぽを向いて言いました。


「……今度、みかんの皮剥いてくれる?私、スジとるの苦手だから」


 そのぶっきらぼうなセリフを、心の中で反芻はんすうして、向日葵ひまわりのような笑顔で答えました。


「はい!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ