#N 世界の花束
「あー、どこいったんだろうね。ビル」
ハルが歩く。
砂利が靴に踏まれて音を立てる。
アルコールで消毒したような殺風景の中を、私たちは歩いていく。
「んー、元からいなかったんじゃない?」
「なんでそんなこと言うの〜? ナツは悲しみのあまりに現実逃避をしたの?」
「違うよ、ハル。ビルはね、ビルなんだよ。」
「わ、なんかズルいそれ。なんとでも言えるじゃん。ビル? ビル? 建物の方? 人物の方?」
「言ったもん勝ちだよハル。こういう曖昧な表現が最近の若者にはウケるんだ。私含めてね。」
「ふ〜ん、知らないけど」
ハルはぷいっと前を向いてスタスタ歩いていく。
太陽の沈む方へとどんどん歩いていく。
思わず立ち止まった。
ハルのシルエットが綺麗だった。
透き通る夕陽が余計にそのスタイルの良さを際立たせる。
輪郭が強調されていて、何となく羨ましいなと思った。
私は、地面を踏みしめてまた歩き出した。
「ビルは、第2区って言ってたよね。」
うんともうぬともつかない適当な相槌を打つ
「どこまであるんだろうね。これ」
「んー、どこまででしょうね。どこまでもある方がいいんじゃない? 私たちは冒険家だよ?」
ハルが難しい顔をする。
私の意図を汲み取ろうとしているのだと思う。
私は何も考えてないのに。
「そうだね。うん、そうだ! じゃあ行こっか! 次のとこ。」
「今までもそうだったでしょ? 今までも」
「え〜? そうだったっけ、今まで人にあった事なんて、あれ? あった? なかった?」
「ないよ、今の今まで。どこまで行っても、人なんていない。」
「なに? 全部いないの?」
「うーん、何人か。いるかな」
「なに、え? ナツ何話してるの?」
「人類のこと。それと、私のこと。」
「わかんないわかんない、なになに? どういうこと?」
「だから、人類が消えたことと。私たちの話。」
「え? あ、今の今までって、え?」
「ハル、もっかいなんの話しって聞いて。」
「うん、いいけど。意味わからないよ?」
「意味わかんなくていいから、早く!」
「おねだりは?」
「いいから!」
「も〜、ナツはせっかちだな。じゃあ、言っちゃうからね? 知らないよ?」
「うん」
「まってまって!なんの話し?」
ナツは少し自慢げに、それでいて落ち着いた表情で言った。
「愛情の話」
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