表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の花束  作者: !
7/8

#2.6 ビル

「うん、美味しい」


 ガサツいている寝起きの声。紛れもない私の声だ。


「良かった、私ね。ナツのためにいっぱいきゅうり切ったんだ。偉いねぇ」


「うん、偉い」


 どこかわざとらしく鼻を擦るハルと、朗らかな表情のビル。


 料理をしている時、色々話したんだろう。最初よりも仲良くなっている気がする。こう、雰囲気が、こう、ね?


「ほんとに美味しい。漬物だよねこれ、何でつけてあるの?」


 ビルが待ってましたと言わんばかりの顔で答える。


「根性液」


 ぽりっ


 口の中できゅうりのみずみずしさが弾ける。


 酸味と塩味がバランスよく整えられた底に旨みを感じる。


 噛むという行為が起爆剤のようになって、旨みが破裂するような感覚。


 あとからピリリと辛味も感じる。


 うまい


 まだビールは飲めないけど、大人の言うビールが欲しいというのはこういうものを言うのだと思う。


「で、なんだっけ」


「根性液!」


「おばあちゃんの知恵でしょ」


「やっぱりそう思うよね! ね!」


 ハルが嬉しそうに身を乗り出す。勢いよく手をつかれたテーブルが反動で揺れる。


 あ、根性液がこぼれちゃう。


「その台詞って被ることあるんだね」


 苦笑いするビル。


 それを横目にしばらく私たちは食べ続ける。


 漬物が半分くらいになったとき、ビルが口を開いた。ゆったりとしている動作で、まるでこのシーンが永遠に残るもののような感覚がした。


「そうそう、実は僕の出せる料理なんてこれくらいしかないんだ」


 これくらいしかない。それは、何か意味を含むような言い方で、一種の諦めのような雰囲気を帯びていた。


 ハルはパクパクときゅうりを食べ続けている。時々頬が緩むのが可愛い。


「それって、どういうこと? そんな言い方って、まるでそうさせられてるみたいな……」


「そう! させられてる。させられてるんだ僕は、ナツも多分、いや、確実にこっち側なんだろう? 僕はビルだ。おばあちゃんに囚われている」


 おばあちゃん?ビルはおばあちゃんがいるの?


 ビルは諦めの帯びた微笑みを見せて続ける。


「もう、僕はいいや。ごめんね2人とも、あまりおもてなしが出来なくて、だって、他の料理なんて練習する時間がなかったからさ、というより、あれ以外知らないんだ。」


 なんだろう、このビルの言い方は。透明で、どこか儚いような。


 というか、意味が分からない。


「そうだな、僕以外に第2区の人間はいない。これだけは言っておこうかな。じゃ、あそこ見てて」


「え? うん」


 正直にビルの指した方を見る。


 きゅうり畑がある。日差しを受けて、みずみずしい実がある。


「見てもなにも……」


 ビルに向かい直そうとした時。


 ビルはいなかった。


 ハルの咀嚼の音が止まっていた。

まずは、すみません。何が3日に1回だ! これからも色々立て込んでで遅くなりそうです。気長に待っていてくれると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ