#2.4 ビルとナツ
「ハルちゃんはさ、なんで冒険を始めたの?」
廃ビルの中、ビルの声ときゅうりをトントンと切る音が響く。
「んー、何となく?」
「何となくってあるの? ほら、もっとドラマチックで、ファンタスティックな物語とか。」
ビルがそう言うとハルは腰を折ってケラケラと笑う。
「そんなものないよ、ナツと色々見たいってだけ。見てどうしたいとかじゃなくて、何処までも一緒にいたいな、なんてね。どう、ドラマチックでしょ?」
胸を張ってハルは言う。自慢気な表情が2人の仲の良さの証だ。
ハルとナツは幼なじみで、同じ道を同じように進んできた。
同じようなご飯を食べて、同じような遊びをして、同じような親を持っていた。
ずっと一緒に歩いてきた。
「ドラマチックかな、ファンタスティックじゃない? ハルちゃんとナツちゃん、いいな。僕もそんな人が欲しいよ、僕以外人がいないんだ、第2区」
「ドラマチックがいいな、曲げないよ私は。こう、運命な感じしない?」
「運命な感じか、素敵な話だね。ナツちゃんのこと大事にして欲しいよ。それはそれとして、僕の感傷はドラマチック? ファンタスティック?」
「ビルの感傷はドラマチックでファンタスティックだよ」
「どうでもいいんだね」
ハルはお腹を軽く抑えて笑った。
少しして優しい目になり、ビルの袖を見ながら話し始めた。
「……ナツとはずっとそばにいるけど、それだけじゃないんだ。そばにいたいからいてくれてるの、ずっと一緒だったから一緒にいるんじゃなくて、一緒にいたいからいてくれるんだ。こういうのって、あまり言いたくないから、一回しか言わないよ。よく聞いててねビル。」
「私ね、ナツとはどこへでも行けると思うんだ。ううん、信じてたいっていう方が正しいかな。どこへでも行った結果に何が待っていても、隣にいるのがナツで、楽しいことがあって、楽しくないこともあって、今すぐにAIが暴走して全てが壊れちゃったとしても、そばにいれる自信が私にはあるから。だから一緒にいたいし、冒険してる」
「ごめん、きゅうりを切るのに夢中で聞いてなかった。もう一度最初からいいかい?」
「ビル。」
ハルがじっとビルを見る
「……だって、その話に反応してもナツちゃん照れちゃうだろ? それで照れ隠しを僕がしてあげてたんだ」
「ビル、顔赤いよ」
ビルの頬はほんのりと赤く染まっていた。
ハルが自分に、ナツとのことを教えてくれたのがうれしかったことの照れと、自分にそういう相手が現れないことへの口惜しさがあった。
「ビル、顔赤いよ」
「二回言わなくてもいいだろう!? 羨ましかったんだよ、君たちが。……そうだな、僕の話もしようか」
ビルは微笑んでいた。キッチンに入り込む日差しがさらさらとした粒子となってビルの髪を流れた。
遅くなってしまった。