#2.1 廃ビル管理人
「誰かいますか〜?」
ハルの声は良く通る、絶対にそんなことは無いのに、このビル全体に響くように感じてしまう。
空気を振動させて、鉄骨を伝って、雑草も震わせて。
私の身体にも良く響く。
昔そう言うことをハルに言ったことがある。その時は私の声も素敵だよと言ってくれたけど、今も思ってくれているだろうか。
ビルは何処から生えているのか分からない雑草だらけだ。アスファルトに咲く花だらけでなんだか自然の恐ろしさを感じる。
中は広々としていて、向こう側の割れた大きい窓ガラスから入る昼の日差しが影を作っている。規則正しく並べられているテーブルとイスに影がかかっていた。
ちょうど光の届かない日陰の部分にキッチンがある。奥の棚に並べられている食器はすべて木製で、ビルとは思えない雰囲気があった。
まるで喫茶店みたい。
「おや、お客さんかい? 珍しいね、第2区に人が来ることなんてほとんどないのに」
ハルのそれとは違う、体の芯まで響いてくる低い声。左側にある植物園らしき部屋から出てきた。
白いシャツに黒いエプロンを着ていて、モノクロみたいな雰囲気の人。
それと若そうだ。23歳くらいに見える。
「はい、こんにちわ! ちょっと冒険をしてまして、ここで休ませてもらえませんか? 少ししたら出ていくので」
笑顔でいつもよりワンオクターブ高い声。こういう時のハルは頼もしい。社交性があって、愛嬌がある。
でも一週間お風呂に入っていない。
「冒険とはこれまた珍しい。まぁ、少しなんて言わないでもしばらくいてよ。可愛いお客さんが二人も来たんだ。おもてなししたいよ僕だって」
「ほんとですか!?ありがとうございます! じゃあしばらくお邪魔します。ちなみに荷物はどこへ……」
でも一週間お風呂に入っていない。
「ああ、荷物は椅子の上にでも置いといて。おなかすいてるかな? 二人とも」
「もうペコペコです。」(一週間お風呂に入っていない)
「はい、もう」
クスリと笑いつつその人はこういった。
「食べる気満々だね。こっちもやる気出るよ。」
「それはそうと、僕がご飯作る間に身体綺麗にしてきな。冒険で汗もかいてるだろう、僕の出てきた場所の反対側がバスルームだよ。はいこれタオル。」
ふわっと大きめのタオルが二枚。放物線を描いてこちらに飛んできた。どこか懐かしい木の匂いがふわりと届く。
「お風呂入ってなかったのばれたかな……」
小声でハルが尋ねてくる。
「わからない、でもハル、声高くしなくても良いと思うよ」
「これはわざとじゃないの。」
体を寄せ合って小声の会話をしていた私たちを、お兄さんがはてなマークを頭上に浮かべて見ていた。
そのはてなマークを飛ばすような勢いでハルが言う。
「お兄さん名前は?」
「ビル、そのまんまだよ」
苦笑いでビルが答えた。
私はそれを笑わずに見ていた。
1話1000文字くらいで書いていこうと思います。できれば毎日投稿する予定です。