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片翼の天使は空を飛ぶ夢を見る  作者: ゆーしゃめ
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「いやぁ、驚くほど似合いますな!やはり私の目に狂いは無かった!」

「狂ってんのはテメェの頭ん中だろ、……マ〜ぁジでシュミわるすぎるぞ?男にこんなん着せやがってよ。キモチワりぃだろ」

「そんなことはないぞ、ルーシー君!とても良く似合っている……!君は華奢で肌が白く、顔も整っているから、女物の服を着ていても違和感が無い!素晴らしい!」


うれしくねぇんだけど。ムダにでけぇ家に連れてかれて、いきなり女装させられた上で、似合ってる!とか言われてもな〜んもうれしくねぇんだけど!


「……」


都市部、フィリップ邸一階。リビング

『相談所』から恐ろしく離れたこの場所で、俺は今、なんやかんやあってフィリップの屋敷に連れて来られ、そして何故かフリッフリのメイド服を着せられてる

最初は普通に嫌だったから死ぬ気で対抗したんだけど、あのゴリラメイド……確かジェーンだっけ?


「チッ」


あ〜そう、あそこでめちゃくちゃ俺のこと睨んでるメイドがジェーン。アイツに力ずくで抑えられてからはもう諦めた

おっさんの目の前で女の服に着替えさせられるのは死ぬほどキモかったけど、多分これ以上ヘタなことをするとマジで死ぬ

……単純な力比べで女に負けると、なんかこう、クるものがあるな……


「……しっかしまぁ……」


ほんっとにデッケェ家だな。金ピカピンのキラッキラ〜って感じじゃねぇけど、なんかこう、落ち着いた感じで。ホコリとか一切見当たらねぇし

家具とかは木で出来てるもんばっかだけど、良いやつなんだろうなってのはなんとなく分かる

……うっすらそんな気はしてたけど、コイツ、なかなかの金持ちだな?


「いやぁ……良い……凄く良い………。」

「……」


当の本人は残念な感じだけど


「……なぁ、これほんとに研究に必要なのか?あんたは種族ごとの『メイド服』の違いについて教えてる先生だったっけか?」

「夢にまで見た天使族(てんしぞく)のメイド姿……!いやぁ、良いものだな……。他の種族には無い背徳的な魅力がある……。」

「やっぱりてめぇの趣味だろコレ!いい歳して変な方向にこじらせてんじゃねぇよ!」


先生っつーからそれなりにすげぇヤツなのかと思ったら、とんでもねぇド変態じゃねぇか!

……コイツもしかして、先生名乗ってるだけのただの金持ちメイドオタクなんじゃねぇのか!?あぁどうしよう、その方がなんかいろいろ納得できちまう……!


「あっはっはっは!あーっはっはっは!」

「……ジェーンさんからもなんか言ってくれよ〜。このじじぃヤバいってマジで」

「悔しいです。」

「ジェーンさん?なにが?」


ベインの野郎……話がちげぇぞ!まともなやつが一人もいねぇじゃねぇか!


「今回は翼の為に背中に小さめの穴を開けただけだったが、いっそ大胆にスリットを入れてみても……なら、黒を基調としたデザインの方が白い肌や翼とコントラストが出来て……」

「先生、私のメイド服にスリットを入れて頂いても結構ですよ?」

森人族(もりびとぞく)の君にスリット入りの服を着せても意味が無いだろう。一体何を言っているのかね。」

「いえ、先生。私、背中の綺麗さには結構自信が……」

「……」


……はぁ、なんでこんなことに……





ーーーーーーー


ーーーーー


ーーー







「……は?」


なに言ってんだ、このおっさん?


「俺を………『買う』?」

「ええ、そうです。今回来たのはその値段交渉のためです。それなりの額は用意させてもらっています。」

「……ははっ」


()()()()()()()()()()


「……俺のこと、インテリアか何かとカンちがいしてんじゃねぇのか?オイ。……それともアレか?ボケがはじまってんのかな……?帰り道、分かりますかぁ〜!?えぇ?クソじじぃ」

「やめなよルーシー。みっともないよ」

「みっともねぇのはこのシラガ野郎だろうがよ!!」


あまりにムカついて、思わず立ち上がっちまった


「なんだよ『俺を買う』ってよ!?俺はモノじゃねぇッ!!!フザけんな!!!」


自分でもびっくりするぐらいデカい声が出る


「……まぁ、そうだね。貧しい人に人身売買をけしかけるなんて、ずいぶん古っぽい考えだな、とは思うけどね。……何かの冗談ですか?フィリップさん」


静かに、でもやや苛立ちが混じった声と態度で、ベインはフィリップに問いかける

落ち着いてはいるけど、ベインも腹が立ってるんだ。仲間を売れって言われて

フィリップにもその気持ちは伝わってるはずだ

けど、


「いや、私は真剣だよ。研究対象として、ルーシー君にとても大きな価値を感じている。是非、うちに来て研究を手伝ってもらいたい。」


全く動じない。ピクりとも表情を変えず、真剣な面持ちで俺を見つめてる

さっきまでのおちゃらけた雰囲気が嘘のようだ


「……はっ」


フザけんな


「『研究を手伝う』、ねぇ……『全身バラして好き勝手イジらせてほしい!』、の間違いだろ」

「……先程も言ったが、十分な額は用意してある。何かそちら側が条件を付けたいなら、ある程度はのむつもりだ。せめて交渉はさせてくれ。」


否定はしねぇのかよ……


「……手ぶらじゃ絶対帰らない、って感じですね……。分かりました、話だけでも聞きましょう」

「おいおいおいおい」


おいこらベイン

何考えてんだベインこら

……聞かれると気まずいな、ちょっとこっち来い、ほらはやく


「ちょっと、何すんのさルーシー。腕引っ張らないでよ」

「シーッ!シーッ!!」

「……?………(で、急にどうしたのさ)」

「(何考えてんだよベイン、俺を売っちゃう気か?)」

「(そんなわけないでしょ。聞くだけ聞いて断るよ)」

「(ハナっから追い返しちまえばいーじゃん!んなめんどくさいことしないでさ!)」

「(まぁまぁ、いいじゃない。このままだと多分ずーっとここに居座るよ、彼ら。あーいう人たちはある程度頑張らせて、自主的に諦めてもらうのが一番手っ取り早いのさ)」

「(…………う〜〜〜ん、そういうもんかねぇ……)」

「(大丈夫、任せといて)」

「(……分かった。たのむぞマジで)」

「(ふふ、もちろん)」


ベインが優しく微笑む

……うん、大丈夫だ。きっとベインなら何とかしてくれる。

とりあえず今は任せよう


「どうされました?」

「あぁ、いえ、何でもないです。どうぞお気になさらず」

「……?では、お話させて頂いても?」

「ええ、良いですよ。」

「んじゃ、商品はだま〜っておりますねぇ〜。はよ終わらせて帰りやがれ下さいねぇ〜」


大袈裟に手をひらひら振って相手を挑発する

マジで早く帰ってくれ


「……。」

「やめたまえ、ジェーン君、子供相手にむきになるもんじゃない。」

「……すいません。」

「まぁ、回りくどいのもアレですし、早速金額の方を聞かせてください。それなりの額と言ってましたけど……具体的にいくらぐらいですか?」

「5000万スピリトです。」

「こんなんで良ければどうぞ持ってって下さい」

「ベイン?」

「ちゃんと手足拘束しておきますね。その方が運びやすいでしょうし。ついでに翼もくくっとこ」


いつの間にか手足と翼が細いワイヤーみたいなので縛られてる

あれ?


「ベイン??」

「あ、5000万ってそのバッグの中ですか?後で確認するんでしっかり持ってて下さいね、ジェーンさん」

「え、ええ、もちろんです。」

「ベイン???」

「さてと、……それじゃ、」


いや、え?なに一仕事終えて満足みたいな顔してるワケ?


「じゃあね、ルーシー。お別れは寂しいけど、いつかきっとまたどこかで会えるよ。フィリップさんたちによろしくね。彼ら学校の先生だし、しかもとっても良い人たちだから、きっとここよりずっと良い生活が出来るはずだよ。もしかしたら、『楽園』への帰り方も分かるかもね。でも、あっちでもときどき、ここでの生活を思い出してくれると嬉しいな。それと……」

「ベイン???」


ダメだ、聞いてることが頭ん中を滑ってどっかいっちまう

何が起きてんだこれ?は?


「先生、準備出来ました。」

「うむ、では行くとしよう。」

「あ、ごめんなさい、話し込んじゃって……おお、ルーシーを片手で担ぎ上げるなんて……。意外と力持ちですね、ジェーンさん」

「ベイン???」

「ああそうだ、フィリップさん、後腐れのないように、少しだけ確認したいことがあるんですけど……」

「おお、良かろう。何かね?」

「こっちです。ついて来て下さい」

「うむ」

「では、私も……」

「ああ、いえ。本当にすぐ終わるんで、先に行っててもらっていいですよ」

「しかし……」

「構わんよ、連れて行ってくれ」

「先生!」

「……ジェーン君、これは千載一遇のチャンスなんだ。余計なことをしてこのチャンスを潰したくないんだ。分かるだろう?」

「それは……先生、ですが、」

「ジェーンさん」

「っ!」

()()()()()()()()()()()()()()()

「……………かしこまりました。では外でお待ちしております。先生、お気をつけて。」

「心配いらんよ、すぐ戻る。」

「それじゃあ……またね、ルーシー!元気で!」


…………。


「ベイン???」





ーーーーーーー


ーーーーー


ーーー







「あん時あまりにもびっくりして何にもできなかったなぁ……。あぁなんか、思い出してムカついてきた。クソベインめ、ケツ掘られて死んじまえ」

「何を呆けているのかね、ルーシー君。さ、時間ももう無いことだし、早速研究を始めるとしよう。」


フィリップがおもむろに引き出しを漁り始める

そして、


「お、あったあった。」


恐ろしく鋭い、大きなハサミを取り出した


「あぁああぁ」


ついに……


「バラされる……!せめて痛くしないでくれ……!」

「安心したまえ。言っただろう、君は大事な研究対象だ。無下に扱いはしないとも。」


お、おぉ……!

まるで子供をあやす様な、なんて優しい笑顔だ……!


「そ、それなら……」

「丁寧にバラさせてもらうよ」

「最悪だ!!!」


余計にタチが悪くなった!!!


「ジェーン君、連れてきてくれ。」

「はい。」

「ぎゃぁぁああああ!!!!誰か!!!!!誰か助けてくれぇえええええええ!!!!!!!!」


もう無理だ、どうせこのままじゃ死ぬ!!

いっそもう……!


「落ち着きたまえよ、全く……元気のいいことだ。ベイン君!」

「ルーシーさん、失礼します……ふっ」


ドスッ

首の後ろの方から、何か鈍い痛みが襲ってくる


「ごぶっ」




……あれ、なんか、……急に眠くなって、きた……?目が開けられない……


……俺、このまま死ぬのか……?




……まぁ、もし生きてたとしても、ここで一生暮らすんだろうな……




……今考えると、「ゴミバコ」での生活も悪くなかったな。いろいろ不便だけど楽しかった……







……アイツら今、何やってるかな……







……あぁ、そういやめっちゃ金もらってたんだっけ……じゃあ、まぁ、心配いらないか……



















もう、何も心のこりは……































ーーーーーーー


「もしかしたら、『楽園』への帰り方も分かるかもね。」……


ーーーーーーー












































「……?」




走馬灯、ってヤツだろうか

死ぬ直前に見る最後の景色が『楽園』絡みなんて、なんとも皮肉な話だ








「……だから、帰らないって……言って……」











そして………………




















「……………」


ふと、完全に、意識が溶けて無くなった

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