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「さて、着いたね。お客さまはこの中だよ。」
「は〜……。やぁ〜っと着いた……この廃墟ムダにデカいから迷うんだよな。俺1人だったらあと10分はかかってたね」
『相談所』はボロいけどわりとデカめの建物で、俺らはだいたい二階で生活してる
一階は広間(リビング?)で、みんなで一緒に飯食ったり、お客さんもてなしたりするのが多い
二階から一階に行くには廊下から階段を降りていくか、外の非常階段を使うしかない
……が、廊下の配置がみょ〜にぐねぐねしてるせいで毎っ回階段が見つからなくて詰む
今回はベインがいて良かった
サンキューベイン
「ついた〜!!!いえ〜〜〜い!!!」
「……」
……ついでに、一応マリーもな
「10分早く着いて良かったじゃない。行ってらっしゃい。」
「はぁ、寝起きで気が乗らねぇなぁ……」
「ほんと〜???もう一回お顔洗ってあげよっか???」
「いってきます」
かんべんしてくれ
次こそほんとに死んじまう
「ふーっ……」
……なんか、変に緊張しちまうな
ま、こういうのは考えてもしょうがねぇ。さっさと行こう
ガチャッ
腹をくくって広間へのドアを開く
「おじゃましまーす……」
「っ!!」
中に入ると、白髪まみれの知らねぇおっさんが俺を見てソファーから勢いよく立ち上がった。目をキラキラと輝かせながらこっちをガン見している
なんだコイツ。
「あ、どうも……」
「お……おお……。」
高そうなスーツに育ちの良さそうな顔、褐色の肌
ここらへんじゃ珍しいタイプの地人族だな
「……素晴らしい……これが、『天使族』……」
ベインが俺の見た目に変にこだわってた意味が分かった
なるほどたしかに、ある程度は「上品」にしないといけなさそうな相手だ
「純白の髪に、黄金の目、透き通るような肌……そしてその大きな翼!あぁ、知識としては分かっていたが実際に見るとやはり違うな……!」
とはいえ、髪型だけ整えても意味なくねぇか…?結局ボロいスカジャンにジーパンだし
……あ、いつのまにかジーパンに穴空いてる
「本当に絵画から出てきた様だ……!何か、他の種族に無い神秘的な力を感じる……もしや、あの翼が何か特別なFATEを生み出しているのか!?うううむ片翼であるのが実に惜しい……!」
うわ、隣にメイドさんまでいるんですけど。なんかデカいカバン持ってる……
ってかメイド服って初めて見た……
「そういえば天使族は光を操ると聞いたな……光そのものを『魔法物質』として翼を利用し、生み出しているのか?それとも……」
「先生」
「……はっ!?いかんいかん、私としたことが、つい興奮してしまった。」
白髪のおっさんはメイドさんの一言で急にシラフに戻り、やや乱れたスーツをきっちりと整えて、ソファーに座りなおした
なんだコイツ
「はは、いやぁ、すまないね、ルーシーくん。さ、こっちに来て座ってくれ。」
「……あ、はい」
「ルーシー」
「ん?」
ヤった後みたいにハァハァ言ってるおっさんの前に仕方なく行こうとすると、この相談所のトップに声をかけられた
「……なに?アポー」
コイツはアポー
角と尻尾が生えた竜人族で、筋肉ムキムキのマッチョマン
「あとで付き合え」
「……え〜」
状況を見るに、さっきまでアポーがこのおっさんの相手をしていたんだろう
俺が起きるまでずっと
「……」
「……んあ〜もう!分かったよ!遅れて悪かったよ!」
アポーは無愛想な上に人見知りだ。なんで客の応対なんて慣れねぇことしてんのかは知らねぇけど、きっとめちゃくちゃストレスだったんだろう
今すぐにでも体を動かして発散してぇ!って顔だ
「……いつもの広場だ」
「……」
「来いよ」
「行くよ!行くから!!すっぽかしたりしねぇから!!」
「……」
うおーい頼むからそう睨まないでくれ
お前の目ほんと怖いんだから
「……」
アポーは黙ってこっちを見ながら、俺が入ってきたドアを使って部屋から出た
……次からちゃんとはやめに起きよう。ろくなことがねぇ
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ーーーーー
ーーー
ー
「……さて、まずは自己紹介からだね。私の名前はフィリップ。マキナ共和国立魔法専門学校という所で、種族ごとの魔法の違いについて研究している者だ。」
裕福そうなおっさん……もといフィリップが、ソファーの真ん中で堂々と自己紹介をする
「……魔法専門学校?」
「文字通り、魔法について勉強するところだよ、ルーシー。入学できただけでもほめられるし、卒業できたら生活には困らないって言われてるほど、すごいところだよ。まぁ、僕たちには関係ない世界のおはなしだけどね」
「へ〜」
ベインはものしりだなぁ
「……ジェーンです。先生、……フィリップさんのお手伝いをさせてもらってます。」
ソファーの横で立っている女の人も、フィリップに続くように名乗った
耳が尖ってるから森人族かな?
……なんでメイド服着てるんだろ?
手伝いって言ってたけど、さすがにそのコスプレはウケるな
フィリップの趣味かな?
「メイド服はフィリップさんの趣味ですか?」
「あ?」
「あ、」
やべ、声に出てた
「ルーシー」
「サーセン」
「……。」
すげぇ冷たい目で見られた。メイドってこわい
「……さて、もう名前を知っている方もいるが、一応そちらの皆さんからも自己紹介をして頂けるかな?」
「あ、はい。ルーシーです。どうも」
「ベインです。お待たせしてしまい申し訳ありません。ようこそ、『相談所』へ」
「マリーだよ!!!」
「マリーはこっち」
「あ、リサちゃん!!!ちょっとぉ、何するのさぁ〜〜〜」
俺らが座ってるソファの後ろからひょっこり出てきたマリーは、リサにずるずると引きずられ、尾ビレをぺちぺちと床に叩きつけながら部屋からいなくなった
ちょっとスカッとした
「……竜人族に天使族……地人族、人魚族に森人族まで……いやぁ、ここまで多種多様な種族が一つ屋根の下、共に暮らしているとは……信じられん。」
「ここははぐれ者が行きつく場所ですから、自然といろんな人が集まるんですよ、フィリップさん」
「は、はぁ……。」
「さて、だいぶ待たせてしまいましたし、さっそく本題に入りましょうか」
こういう時、ベインは本当に頼もしい。そこらの大人よりよっぽど周りがよく見えている
逆にマリーはクソ。いつもその場を荒らすだけ荒らして最後にはどっかに消える。リサが連れてってくれて本当によかった
「……僕たち『相談所』は本来なら、このスラム街……いわゆる『ゴミバコ』の住民の悩みを解決するための組織です」
「えぇ、分かっています。」
「あなたのような都市部に住む人が来る場所じゃない」
「……それも、分かっています。」
「では、なぜここに?」
たしかに、なんで学校の先生なんてえらい人が、わざわざゴミバコの端っこまで来たんだろ?
しかもなぜか俺指名。みょーにあやしい
「……そうですね、単刀直入に言いましょう……。」
……あれ、なんだろう
「実は……」
なんか、いやな予感がする
「ねぇ、ちょっとまっ」
「……実は、そこの天使族の少年、『ルーシー』くんを、私に売って欲しいのです。」