海の魔物
百物語二十七話になります。
一一二九の怪談百物語↓
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俺もう20年近くも漁師の仕事をやっている。
これは漁師になってからまだ日が浅かった時に体験したことだ。
その日の海はえらく荒れていてなぁ。親父たちも機嫌が悪くて最悪だった。
「準備遅いぞ!何やってんだ!?」
親父たちに叱られながら、必死で漁の準備を進めていると、海の向こうから「小さな船」がゆらゆらとこちらに向かって近づいてくるのが見えたんだよ。
よく見るとボロボロの漁船でさぁ。海も荒れてるのに危険だと思ったんだ。
「親父!前に小さな船が!」
近くにいた親父にボロボロの漁船が現れたことを伝えると…
「ああっ!?…あぁ、あれか。気にするな。気にしちゃならねぇぞ」
いきなり意味のわからないことを言い始めた。
「気にするなって言われても…」
ボロボロの漁船はゆっくりとこちらへ近づいてくる。下手をすればぶつかってしまうかもしれない。
「お前は準備だけしていればいい。船の中は見ない方がいいぞ」
先輩の漁師もそう言っている。しかし、漁船が段々こちらへ近づいてくる。見るなと言われたのだが、そう言われると気になってしまうのが俺の悪い癖だ。
「誰が乗っているんだろう…」
俺は近づいてくる漁船の中を軽い気持ちで見てしまったのだ。そこには…
「うわぁああああああああっ!?」
思わず声が出てしまった。
「お、親父!腐った人間や…が、骸骨が!船の中に…!」
漁船に乗っていたのは、人間ではなかった。皮膚がボロボロになって腐敗した人間や骸骨が楽しそうに船の中で踊りながら、こちらへ手招きをしていたのだ。今でもはっきりと覚えている。恐ろしい光景だったよ…
「見るなっていってんだろ!お前も連れて行かれるぞ!」
親父の声で落ち着きを取り戻した俺は、急いで漁船から目を離した。漁船が俺たちの船から遠ざかるまで、俺は震えながら船の床を見続けていた。しばらくすると、震える俺の肩を親父が軽く叩いた。
「ええか、海にはああいう『魔物』もたくさんいる。海は生きているものだけが住む場所じゃないんじゃ…」
俺が見たあの魔物は「水葬」された人たちの魂が集まったものだと先輩から聞いたよ。海には俺たちが知らない「魔物」がたくさんいるんだ。だから…あんたらも気をつけなよ…?