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自分が生き残る為ならば手段は選ばないけど、仲間はほしいと思うのは当然ですよね

「全乗員に次ぐ。これより緊急のブリーフィングを開始する。ブリッジクルー及び戦闘員は十分後に会議室へ。そのほか、航行スタッフも持ち場はそのまま、話は聞け。重要な話である」


 なるべく元のキャラに合わせた口調は言えたと思う。


「すまないが中尉、先に行ってくれ。私は私で、準備がある」


 艦長権限による全艦放送を手短に行った後、省吾は腕を組み、しばしの思案にふけった。


「はぁ、それはわかりましたが」


 マークという男も、目の前の男が一体何を考えているのかが分からなかった。

 しかし、今はまだ命令には従っている。マークが想像していたような男ではなく、まだ見極めが必須であると考えたのだ。

 マークは言われた通り、艦長室を後にした。

 そんな彼を見送りつつ、省吾はぱしんと己の頬を叩く。気合を入れるというものだ。


「やっちまったぞ、ついにやっちまったぞ」


 心臓が早鐘を打つ。後戻りはできない。

 とどのつまり、省吾はただ生き残りたいだけであり、原作を愛するとかキャラをどうこうするなどという崇高な理念も目的もない。まさしく俗物の考え方であるが、つい先ほどまで一般人であったはずの省吾の心持など、そのようなもので当たり前だ。

 生まれ変わったので、何事かの使命を自覚して、それに邁進しようなどといきなり考え方を切り替えられるわけもない。

 何より省吾をげんなりとさせるのは、イケメンやダンディな男に転生するならまだしも見た目はぱっとしない中年のおっさんになってしまったことだ。

 転生前の年齢よりも年を食っているなどという拷問はあるだろうか。


(転生した意味? 俺の役割? アニメ世界でひゃっほうな生活? できるか、そんなこと。もう手遅れだわ。すべてが終わってるわ)


 何度も、何度も、自問したことである。

 ジョウェインというキャラクターがあまりにもつんでいる人生なのだ。結局、これを何とかするには原作を破壊する勢いの行動をとるしかない。

 幸い、打ち切りアニメだ。今後の顛末がわからない以上はとにかく主人公たちに勝ってもらうしかない。

 それに与する為の大義名分はいろいろと考えなければならないが。


(その前にはこの戦艦の乗員を納得させるなりせにゃならん……)


 そして、その方法を今からやろうというのだ。

 正直を言えばうまくいく可能性の方が低い。しかし、それ以外に省吾が思いつく内容はなく、それ以外に実行できる手段もない。

 省吾は、ジョウェインの記憶を頼りに、通信回線を開き、コードを入力する。

 その宛先は、自身の上司である大佐殿の暗号回線。直通であった。


『──なんだ』


 普段からして不機嫌そうな声。しゃがれた老人のような声が聞こえたと思えば、一拍置いて映像が映し出される。禿頭の巨躯、みっちりと軍服に身を包んだ男がいた。

 アンフェール大佐だ。


『どうかしたか中佐』

「いえ、作戦行動十一時間前ですが、そろそろ無線封鎖に入りますので、その前に一応のご報告をと」

『なに? それならば通常回線でよかろう』

「まぁ、それはそうなのですが、ぜひともご内密なお話がありまして」

『なんだ』


 ここからが重要だ。気を引き締めろ。省吾は自分に言い聞かせた。


「プラネットキラーについてです。やはり、奪われた新型一機に、これは過剰といいますか」

『いいかね、中佐。あれを放置することはいずれ我々の命を代償とするものだ。あれはな、トリスメギストスはこの世界のバランスを崩壊させるものだ。そんなものを反乱軍などに使われてみろ。我らの立場など消滅するわ。故にさっさと破壊するのだ』

「は、はぁ……ですが、プラネットキラーを民間惑星に放ったとなれば」

『どうとでもなる。反乱軍が暴走の末に打ち込んだと言えばいい』

「はぁ、それは、そうかもしれませぬが……撃ち込んだという事実は艦内データに残りますし」

『撃沈させる』

「は?」

『次の合流場所で、その艦を撃沈させる。貴様は適当にシャトルで脱出でもすればいい。事実を知るものは始末するのだ』

「は、いや、それは……」


 省吾はどきりとした。思わずせき込みそうになり、心臓が飛び出しかねない衝撃を受けている。

 凄まじいことを言っているぞ、この男は。


『あぁ、貴様が言いたいのはあれか。合流するまでの話か。小心者め』

「はぁ、申し訳ございません」

『それについては、そやつらを口止めすればいい。民間人虐殺の汚名をテロリストにかぶせる代わりに、今後どのような命令も無視することはできん。裏切ればどうなるか、わかるなとな? 多くは公表はされたくないだろう? 軍艦が、民間惑星に、プラネットキラーを打ち込み虐殺などと、センセーショナルだ。我がニューバランスの名誉も地に落ち、貴様ら家族も批難の的になること請け合いだ。で、どうするかね? うん?』

「……了解いたしました。では、手はず通り……大佐。最後に一つ」

『なんだ、今日はやけに質問が多いな?』

「申し訳ございません。ですが、気になりますので……トリスメギストス。あれは、一体どのような新型なのですか?」

『あぁ、そのことか。あれは凄まじい。技術的なことはわしも知らんが、重力などを操るという。地場や電子なども操作するというが、詳しくは知らん。だが、あれ一体で、プラネットキラーの代わりをすることができる。艦隊を潰すことも可能だと博士は言っていたが、さてどれほどのものか。しかし、テストをわしも見たが、小惑星は粉々になったぞ? 君たちが、それを真正面から撃破してくれるのであれば構わんがね? だが、データの関係もある。全て消せ。その為のプラネットキラーだ。パイロットがいなければ、鉄くずと変わらん』

「それほどまでの……」


 と同時に省吾は叫びたいこともあった。


(知らねー! そんな設定、知らねー! なにそんな取って付けた超性能!? 出る作品間違えてなぁい?)


『それにだ、あれはプラネットキラーを無力化する。そうなれば、軍事バランスも乱れる。一撃必殺の武器が、通用しなくなるのはまずい』

(おー、おー……凄い機密情報じゃねーか)


 こんな状況でもなければ、知ればちょっと得をした気分になるまさかのスペックに本当は叫びたかった。でもできない。


『とにかくだ。トリスメギストスは何としてでも破壊しろ。いいな?』

「はい……では、そろそろ無線封鎖に……」


 そういって、省吾は通信を切った。

 そして溜息をついてしばらく上を見上げた。

 一秒、二秒……たっぷり十秒は白い天井を見上げて省吾は立ち上がり、コンソールを操作。マイク設定を調整して、ゆっくりと口を開いた。


「……だそうだ、諸君。大佐殿についていきたいと思うものがいるかどうか、艦橋で話し合おうではないか」

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