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2020.0704 投稿
2020.0718 修正
ふぁ、と欠伸を噛み殺すことなく豪快に口を開ける。スマホで時間を確認すると、もうすでに昼下がりだった。特に意味はないが睡眠時間を逆算してみる。思った以上の睡眠時間がはじき出され、よくもそんなに寝たなと自分に感心しつつ、アラームが鳴らない設定になっているスマホを持ったままベッドから立ち上がると、カーテンを開けて日の光を浴びる。するとチュンチュンとすずめが気持ちよさそうに電線に留まって、挨拶し合っていたのが見えた。グッと腕を上にあげて伸びをして、大きく息を吸って吐く。今日もなんだか疲れが抜けきってないような感覚ではあるが、心は穏やかな方だった。
机に向かうと、置いてあったスケジュール帳を取り出して月間ではなく、週間のページを開く。一週間、つまりは七日分に区切られたページに書き込みをしていく。最近はよく夢を見た感覚でいる。なんとなく覚えているのは、女の子と男の子が出てきたことと童話のアリスが関係すること。中身を思い出そうにも、靄が邪魔をして見せてくれようとはしない。まあ、夢なんて大した内容でないことは確かだ。だって夢なんだから。現実の関係のないところで、何をしようがさして意味なんてない。思い出したところで何か得をするわけでもなかった。
ベッドの傍の小さいテーブルの上に置いている薬を見れば、残りが僅かになっていた。そしてふと、今日は病院だったかと思い出す。スケジュールをチェックすればやはり今日が予約日で、診察券に印字されている予約時間を確認した。いつも通り夕方からの診察だったので、まだまだ時間はあるか。
じゃあ、今日は読める範囲で読書をしよう。どうせすぐに集中力が切れてしまう自分を見越して、淡い桜色に女の子のイラストが描かれた薄めの小説を手に取った。挿絵の入った一冊ならおそらく読み終えることができるだろう。何度も読んだ目次とチェスボードの書かれたページをめくると、早速挿絵が登場した。鎧をまとった騎士が馬に乗り、森の中にいる絵だった。そこに女の子が一人、騎士を見て立っていて、挿絵の隣のページからは、本編の序文とも言える詩が連なっており、言葉がまるで躍るように遊ばれている。
何度読んでも全ての意味が理解できるわけではないが、ただいたずらに綴られた文章に魅了されている自分がいて、何らかの中毒性を感じていることは確かだった。
しばらく時間が経つと、案の定集中力が持たず、三章に入る前に気持ちが途切れてしまった。しかし、時計を見るといつもよりは頑張ったようで、さっき見た時間から1時間が過ぎていた。ボスンとベッドに体を預け、目を瞑る。こうも集中力が続かないことに嫌になってくるが、仕方がないと諦めた。ポケットからスマホを出し、ダラダラとゲームをしたり気になった時事のニュースを読んだりと時間をつぶした。
病院の予約時間が近づくと、漸くクローゼットから襟元がゆったりとしたラフなYシャツを取り出した。別に遊びに行くわけでもないし、下はもうそのままでいいかと結論付けた。ラフな黒の長ズボンだったので、トップスと合わせても違和感はない。スマホと財布を小さめのポーチに入れ、ヘッドホンをつけて大きめの音で扉を開けた。