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アリスの箱庭冒険記  作者: 愛朱
第0.5章
6/18

05 もし私自身の世界があったとしたら

2020.0521 投稿

2020.0718 修正



 体感時間にして15~20分かかって、なんとか出口のようなものが見えた。さすがに薔薇には飽きたらしく、碧はやったーと喜びを露わに、出口へと駆けて行った。

外に出ると、ヨーロッパの都会のような街が広がっていて、双子はそれぞれ感嘆の息を吐いた。

 煉瓦で敷き詰められた道路に、外国の古い建物がひしめき合い、その中央には噴水のある広場があり、そこから階段や道が360度、それぞれの方向に伸びている。広場の真ん中には、薔薇園からも見えた高い時計塔がちょうどゴーンゴーンと何時だか時を告げた。ここまで高いと逆に時刻が見にくい。立派な塔なのだが本末転倒だな、と茜は思った。


 時計塔を二人して眺めていると、後ろからトントンと肩を叩かれた。叩かれた碧は振り返る。すると、衛兵のような恰好をした二人組が立っていて、不思議そうに双子を見ていた。




「君たち、見かけない服装をしているけれど、ちょっと身分証をみせてくれないかい?」

「身分証?」

「この街の住人かな?」




 周りを見れば、ジェントルマン風の燕尾型のスーツやドレスなど身なりの整った人か、シャツにサロペットのついたズボンや動きやすそうなドレスにエプロンを付けた人たちで、皆17~19世紀の映画の舞台のような恰好だった。Tシャツワンピースにショートパンツが隠れた碧と、Tシャツに黒のストレッチパンツの茜の寝間着ファッションはどうしてもこの世界では通用できそうにもなかった。せめてシャツワンピとYシャツ黒パンなら、ギリ紛れられただろうに、と思いはしたが、Yシャツで寝るなんて寝苦しすぎると脳内で速攻却下した。




「いや、違います。」

「それじゃあ、この街に来た時に許可証をもらわなかったかい?」

「えーと…」





 衛兵はチラッと二人の足元を確認した。寝るための恰好だったために、靴どころか靴下も履いてない状況だった。そして、薔薇園から20分ほど歩いたので、それなりに足は汚れてしまっていて、夢だというのに、砂利や土が足の裏や甲についてしまっていて、とてつもなくリアルな感覚が足の裏に伝わっている。小石など痛みを感じたものは踏んで速攻はじいたし、今は煉瓦の平坦な道のおかげで快適だったのだが。それに気づいた衛兵たちは、ひそひそと話をする。

 家出か?でも関所を通らない限り、政府街(セントラルシュタット)には入れないはずだぞ。そんな会話が聞こえてきた。そうか、この街に入るには関所を通って許可証が必要なんだ。しかもこの街の住人は身分証が発行されていて、そのデータによって管理されているのだろうか。夢にしては随分と細かい設定があるものだ。しかし、その関所も通ってなければ、自分たちが目覚めたのは薔薇園の中心にあった銅像の足元である。それを馬鹿正直に言ったところで、怪しまれることくらい二人はわかっていた。




「あの、」


 茜は恐る恐るといった口調で、衛兵に問いかけた。


「関所というのは、どっちの方角ですか?」

「どこの街からの関所だね?」





 参ったな、意外とセキュリティがしっかりとしていたことに頭を抱えそうになった。街の人々も衛兵に問い質されている双子を見て何やら話している。そんな中、近くで通りがかった男たちの会話が聞こえてきた。





「あの髪色と肌、ジパングの子なのかな。」

「あぁ。ミステリアスシュタットの?」

「あそこの文化は非常に独特で趣がある。君も、一度行ってみた方がいいさ。」

「俺はお前と違って忙しいから無理。」




 それを聞き取った茜は衛兵に「ジパングからです。」と言い放った。実際、日本のことをジパングと謳われたというのは歴史の授業でも習ったし、有名な話だ。異国感の強いこの街より自分たちの出身地に近いだろう。すると衛兵たちは眉を(ひそ)めた。回答をしくじったかと、内心はらはらしながら茜と碧は様子を(うかが)う。

 城まで連れていって軍に頼るかという話が出て、面倒な気配を察知した茜は、クイクイと碧のワンピースを引っ張って合図を出した。碧はそれに気づいて茜を見やると、茜は衛兵に視線を向けたまましばらく突っ立っていた。そしてタイミングを見計らって、碧の手首を思いっきり引き、手前にいる衛兵の足を蹴るようにひっかけて転倒させた。その隙をついて思い切り走りだし、広場を抜けて衛兵たちと真逆の方に懸命に駆けた。




 通行している人々を避けながら走る。さっきの薔薇園の迷路に頼ろうかと迷ったが、自分たちも構成を把握しているわけでもないし、そもそも行き止まりもあったのだから、捕まるリスクが高かった。建物と建物の間の路地をすり抜けて、幾度となく曲がる。しかし、茜の全力疾走に碧がついていけるわけもなく、途中で躓き、手汗で滑って二人の手が離れてしまった。すると、衛兵の声が近づいてくることに緊張感を覚え、すぐに立ち上がって茜の方に向かう。少し大きな道に出ると、向こうに関所のようなものが見えて、その近くの建物の陰に隠れた。

 少し距離があった衛兵たちは、双子がその関所を抜けたと思ってくれたらしく、その関所にいる哨兵(しょうへい)に黒髪の二人組を見なかったかと問い合わせている。哨兵は通していないと答えると、衛兵たちはきょろきょろと辺りを見回す。ここで動けばバレてしまうし、見つからないという確信もない。どう動くべきかと、走ったせいで流れる汗の中に冷や汗までも感じた。碧も目を強く閉じて上がる息を殺している。



「その二人組なら、さっきそっちの方面に走っていったのを見たね。」



 そう言う町人の声にぎくりと体が強張る。衛兵はその町人に礼をいうと、何故か違う方向に走っていった。駆け足の音が遠ざかって聞こえなくなると、茜はそっと建物から辺りを見渡した。衛兵の姿は見当たらなかった。一安心だったが、さっき衛兵に助言した町人は、声が男だということ以外の情報はなく、真意がわからなかった。助けてくれたのかもしれないし、単純に他の黒髪の人間と勘違いしたのかもしれない。実際、さっきの逃走劇の間に黒い髪を持つ人間と幾らかすれ違った。関所の方を見るが、今は誰もおらず、街の中心部の方への道にはたくさんの人が往来していた。

 関所は大きな鉄の門が道を遮断していて、人が通れるくらいの小さなドアと馬車が通れそうな大きなドアがついていた。大きな鉄の門には彫り物がされていて、王冠を被った鳥が二頭、左右を向いて羽を片方ずつ広げていた。鳥の足にはそれぞれ剣と球体に王冠がついたようなものを掲げている。その下のリボンのような帯にはプリローダと書かれていた。碧も落ち着いたのか、茜の下から覗き込んでいる。



「どうして逃げたの?」

「いや、なんとなく。軍や城に連れていくって話になってたからな。」

「ああ、アリスっぽい感じだと、ハートの女王に処刑されちゃうんだっけ。」

「確かそう。裁判にかけられた途中で夢から醒める。」

「じゃあ、お城に行った方がこの夢から醒めれたんじゃない?」

「それで醒めなかったらどうするんだよ。ちょっとしたことで首が()ねられるような女王だぞ。もしアリス通りだとしたら、ハートの女王は常識的じゃない。逃げるに越したことはないだろ。」

「確かに。そりゃそうか…。」


 この世界はアリスの箱庭と呼ばれているのは、さっきの石碑で知った。名字に含まれるアリスがまつわるあたり、この世界が双子の夢らしいなと実感させていた。となれば、ハートの女王くらい出てきてもおかしくなかった。


「でも、白うさぎは迎えにすら来てくれないねぇ。まったく、気が利かないんだから。」


 碧はそうやって茶化した。来てくれる方が身動きが取りにくくて困る、というのが茜の率直な意見だったが、この世界についての説明をしてくれるなら、ガイド役としていていてくれてもよかったかもしれない。そう考え至った茜は、そうだな、と返した。



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