第七話:勇者達が世界を救う理由
「これが、勇者様召喚に至った経緯です。その後およそ三十年の間隔で魔王は復活を果たし、勇者様による封印を繰り返している状況です。」
改めて確認する。
「召喚の人数は決まっているんですか?」
「こちらが意図している訳ではありませんが、毎回勇者は三名であったと伺っています」
「やっぱり三人なのか……」
「四人いると、何か問題あんのか? たくさんいた方がいいんじゃねぇ?」
赤髪の質問に美形が答える。
「問題かどうかは分からないけど、急に一人増えたんだ、今まで定員三人だったのに。考えた方がいいだろうね、何か理由があると」
「姫君、召喚の儀は滞りなく行われたのでござるか?」
「問題ありませんでした。伝承とも変えたところはございません」
「お姉さまは失敗なんてしないわ」
「では仕様がないね、今考えても。なるようになるさ。もしかしたら三人になるかもしれないしね、もう少しで」
エルム姫からやや苛立ちを含んだ声があがったところで、美形が場を治めた。
「チッ」
「某は多い方が賑やかで嬉しいですなぁ!」
「お前一人で五人分くらい煩いけどな」
「こりゃ一本とられましたな!」
糸目が“かんらかんら”と笑い、とりあえずこの話題は終いとなった。
「さて、経緯も分かったところで……一度話さないか、四人だけで」
「僕も賛成」
「異論なしでござる」
「分かった」
「お疲れ様でした。よい夢を」
再び深々と一礼する第一王女、
不安そうな第二王女、
第一王女の後ろに控えた第三王女。
彼女達を残し、僕たちは食堂を後にした。
━━集会は勇者“美形”に与えられた部屋で行われた。天蓋付きのベッドに木製のテーブル、二つの椅子、姿見等々……作りは非常に似通っていた。
日はとうに暮れ、外は闇に包まれていた。ランプがいくつか灯され、十分な光量が確保されている。
「掛けてくれ、好きな所へ。私が言うのも、おかしな話だけど」
相談の結果、糸目と赤髪が椅子に、僕と美形がベッドに腰かける形となった。
「まず確認しておきたいことがある。同じ地球で間違いないか? 私たちがいたのは」
「僕のいた世界でも地球と呼んでいたよ」
「異世界でもこんなペラペラ喋れるのはおかしくないか? そもそも同じ国家だったのか分からないよな」
赤髪の言うとおり、僕たちは全く言語に不自由していない。
「言語問題は都合よくクリアされるらしいよ、召喚の際に。だけど、生まれた星が勝手に変換されている可能性もあるね、地球という言葉に」
「それに時代も同じとは限らないよね。まずは元の知識を擦り合わせる必要があると思う」
じゃあ、と歴史的知識をお互いに持ち寄った。
大きな大陸が地殻変動により、幾つかの大陸に別れたこと。
猿が進化して人間になったこと。
二回の世界大戦や冷戦を経て、表面上は平和を得たこと。
等々。
知識は概ね一致し、同じ星の生まれであることや、過ごした時代も似通っていることが分かった。しかし、どこかの国の知識だけ詳しいということはなく、国籍を知ることは叶わなかった。
「時代が近いのが分かったのは、大きな収穫だね」
「流石に原始人並の知能しかなかったら引くしな」
似ている部分がある、というのは連帯感に重要だ。
「では本題だ。皆はどう思う? 女王からの依頼」
美形の非常にシンプルな質問は、率直な意見を聞きたいという意思の表れだった。
「気に入らないし、気が乗らない」
赤髪は即答である。
「やっぱり、勝手に召喚されたのが気に食わないの?」
「そりゃそうだろ。向こうの勝手な理由じゃねぇか。俺らはこの世界が滅びようが何も困らないしな」
「じゃあ、このまま消えてしまっても構わないって思ってる?」
「元に戻るだけだろ? 構うもんか」
本当にどうでもいいと思ってるみたいだ。
「ふむ、やっぱり必要なんだね、理由づけが。私たちには足りないんだ、モチベーションになる要素が」
「記憶もないし、能力も分かりませんからなぁ」
美形と糸目もあまり乗り気には見えない。
何か、何かないか。
多分きっかけ、視点なんだ。この人達は女王から受けたショックが大きい。
僕だって最初が違えば、同じだったかもしれない。例えば……
「例えば、僕らは前の世界で死んでしまっている。その後は教えによって様々だと思うんだけど、天や地の異界に召されたり、経由して現世に戻ったりするわけだよね。
場所が違うだけで、新たな生を受けることに変わりはないんじゃないかな?」
「なるほどね。私たちは新たに生まれ落ちた、この世界に。ただ、ちょっと成長した状態だっただけで」
「そう考えれば、これからお世話になるこの世界に恩を売っておくのも悪くなってないかな、って」
「……うん、いいね。悪くない。私は乗ったよ、君に」
美形はあっさり僕の意見に乗ってくれた。
「正気か? それでも体よく利用されてるのに変わりはないだろ」
「悔しいと思うんだ。自分達だけの力じゃ何もできない。思想も意志も曖昧な存在に、生まれたての赤ん坊に未来を任せないといけない。
だから禁忌だったんじゃないかな」
「……」
赤髪は僕を真っ直ぐに見据える。真意を測っているのだろうか。
「ということは、あれでござるな。エレノア姫は我らが母上ということになりますな!」
「は?」
「フフッ」
エレノアママ……なんか罪深い……。
糸目の謎の発想に、美形からも笑みがこぼれる。
「では、母上達の為に一肌脱ぐと致しましょうか!」
「これで三人だ。勇者としては伝承通りだけど?」
美形が君はどうする、と促した。
「わーったよ! とりあえず勇者になってやるよ。やってみて駄目なら途中で抜ければいいだけだしな」
「あ……」
「確かに聞いてなかったね、途中下車に関しては」
「俺にどんな力があるのか、興味がない訳じゃない。
だから━━興味本位だ、興味本位!」
「これで四つ子勇者の誕生でござるなぁ!」
「お前と兄弟は嫌だ」
「殺生な!?」
ようやく皆が笑顔になった。
とんだ異世界転生だけど、この人達となら何とかやっていける。そんな気がした。