第六話:無毛の勇者はキャラが濃い
「今回の勇者は三人ではなく、四人なんだね」
食堂へ案内される間、その言葉が引っかかっていた。どういう意味だろう。そのままの意味かもしれないし、よく分からない。
「今回は大活躍だったね」
美形から声を掛けられ、現実に引き戻された。
「あ、いえ、こちらこそ助けていただいてありがとうございました」
「いいよ、フランクで行こう。私たちは仲間だろ? 同じ境遇の」
「ありがとう。ところで……」
「さっきの質問かい? 王位をくれるかってやつ。あれは試金石さ」
「試金石?」
「あそこで王位をあげる、なんて答えられたら、一生信用しないと決めてただろうね、あの女王を。
後は知りたくなったのさ、単純に」
この人は多分凄く慎重なんだ。口振りからは、まだ女王を信用してない節もある。
「ところで君は少し知識がありそうだね、私たちよりも」
そんな人からこんな質問がくれば、喉元にナイフを当てられたように感じるのも無理はない。
「僕は、あなた達よりも早く目が覚めたんだ。その間に王女達と話す機会があっただけだよ」
絶対僕のことも信用してないな、これ。
「大丈夫だって。信じてるよ、君のこと!」
いや、それが怖いんだってば。心を読み取る能力なんじゃないの、この人。
「しかし話しづらいね、名前もないと」
「それについては」
共に食堂に向かっていたエレノア姫から声が掛かる。
「皆様が勇者の使命に同意いただければ、聖王陛下より天名を授かる儀式が執り行われます」
「いらねぇ」
赤髪は心底嫌そうな顔をする。
「そうですかな、某は楽しみでござるなぁ」
皆の注目がスキンヘッドの男、一点に集まる。
「ん、どうなされた。皆の衆?」
「お前、喋れたのかよ」
しかも独特。
「君は黙って見ていたじゃないか、ずっと」
「いやぁ、女王様の美しさに|見惚れておってな。その美貌と美声を目耳に焼きつけようと集中しておった故、口を挟む余裕が無かったでござるよ」
「只の女好きじゃねぇか!」
「胆の据わった方だと勝手に勘違いした、数分前の自分を殴りたい……」
見た目もキャラも濃い人だった。
「して、お主はどの娘がタイプでござった?」
「お前、そこでよく俺に話しかけられるな!? 本当にさっきの話聞いてたのかよ!?」
「ではお主は!?」
「いや、そこに王女様達がいるのに言えるわけないでしょ!」
「つまり、意中の女子がいるのでござるな!?」
「しまった……」
「ははーん、さては姉様にずっと見惚れてたな~?」
ぐっ、両脇を固められた。すると、先頭を歩いていたエレノア姫が急に振り返る。
「私の妹達、とても可愛かったですよね!」
いや、貴女も参戦するのかよ。
「……不潔」
さらに後方のエルム姫から追い討ちがかかる。
これが四面楚歌ってやつか。半分涙目で美形に助けを求める。
「私は……惹かれなくてね、あまり。譲るよ、君に」
あっさりと見捨てられてしまい、責め苦は食堂に着くまで続けられた……。
正直な話、渡り廊下のエラと部屋で会ったエラ、玉座のエラの連続ギャップは卑怯だと思う。
……面倒くさいから絶対言わないけど。
食堂では、豪勢なフルコースが振る舞われた。
前菜、スープ、煮魚、ソーセージ、ロースト肉、パン、果物……
「カボの冷製スープでございます」「ブゥの腸詰めでございます」
材料名が謎だったので、試しながら記憶の中のどの食材に近いか、想像しながら食べることになった。
王宮料理だからかもしれないけど、幸いにも舌に全く合わない食材は無かった。特に温かい焼きたてパンは、旅先で食べられない可能性が高く、おかわりしておいた。
他の勇者の受け止め方も様々だった。
美形はエレノア姫にテーブルマナーを逐一確認し、綺麗に食べることを心がけていた。
本当に王族入りする気なんじゃないだろうか。僕はそれを盗み聞きできたので、ありがたかったけど。
「ん~、美味! もう一杯いただけますかな? できればもっと大きなグラスで!」
「ツーンときますなぁ! この食材はどこで仕入れたものでござるか!?」
お酒と香辛料が気に入ったらしく、給仕係に何度も産地や入手方法を熱心に聞いていた。
酒好きで女好きとか、俗世の垢にまみれすぎじゃない?
「あー、俺これパスだわ。食べる気しねぇ……」
「では代わりの品を用意いたします」
赤髪はソーセージやロースト肉を、一口食べるや否や吐き出してしまっていた。
菜食主義者なのだろうか? でも煮魚は食べていたな。そういえばそういう宗教もあったはずだ。記憶になくても体が覚えていて、忌避反応が起きるのだろうか。前世を知るヒントになるかもしれない。
最後の果物になったところで、
「では私から、この世界の歴史……
皆様を招請することになった経緯も含めて説明いたします」
エレノア姫からこの国の歴史が語られた。