表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自称癒士の救世感  作者: 筆工房
第四章~自称癒士のお使い~
66/66

第六十二話:ツキヨミの裏技

「追い出されてしまったね、あっという間に」


 集中が必要ということで、僕たちは工房を追い出されてしまった。


「では、娘……エラと言ったな。汝はなぜ、勇者たちに同行しておる」

「私は━━」


 エラは自分がクリフィス聖王国の第二王女であることや、記録士として旅に同行していることを説明した。


「なるほどの。道理で魔力が低い訳じゃ。最初は手を抜かれておるのかと思ったぞ」

「うっ……」


 ツキヨミは、かっかっかっと明るく笑う。けれど気にしていたところを付かれ、エラはショックを隠しきれないでいる。

 僕たちはどうフォローすべきか、言葉を掛けあぐねていると━━


「まぁ、そう落ち込むでない。それについてワシに考えがあるのじゃ」


 落ち込むエラの肩を叩こうとするが、そのままでは届かない。すかさずエラが屈もうすると━━


「子供扱いするでないわ!」


 と頭をはたかれていた。


「魔力量こそ勇者には及ばぬが、汝には魔法の繊細さや敵に臆せず立ち向かう胆力がある。大きな魔法であっても難なく繰ることができよう」

「補う方法があるのですか? その魔力量を」


 エラはすがるような目で彼女を見た。


「あるとも」


 ツキヨミはふふんと胸を張る。

 エルム姫を思い出す可愛らしさで、思わず頭を撫でたくなった。


「ワシの力の一部を使役するのじゃ」


 ツキヨミは神に相応しい力と引き換えに、霊峰フジから離れることができない。まさに霊峰の土着神というわけだ。しかし場を動かなくとも、力の一部を一時的に貸し与えることは可能らしいのだ。


「元は巫女の魔力不足を補うための魔法じゃったが━━戦時中は前線の兵にも使われておった」

「不具合もありそうだね、その話し方だと」

「魔力を正しく操作できなければ、魔力が暴発して大怪我を負うこともある。ワシほどの膨大な魔力を送るなど、誰もしたことがないからの━━」


 あっけらかんと答える。


「失敗すれば、身体が木っ端微塵に吹っ飛ぶやもしれんな」


 想像してしまったのだろう。エラの希望を見出だしたような顔は、すぐに不安に押し潰されそうな顔に変わる。出発時より少し伸びた髪が、不規則に揺れていた。

 しかしその表情もまた、決意を帯びたものに変化していく。


「それでもやるか?」

「はい、よろしくお願いいたします」


 ツキヨミは、今までで一番嬉しそうな笑みを浮かべる。


「よう言うた! 見込み通りで安心したのじゃ」


 そう言うと緊張で動きがぎこちなくなってしまったエラを連れて、外へ出ていってしまった。


「良かったのかい、付いていかなくて」


 ルーイの言うとおり、エラの修行を見に行きたかった。心配もあるし、興味もある。表情に出ていただろうか。


「うん、今はちょっと別に考えたいことがあって。ルーイは?」

「やりたいことがあってね、私も」


 するとルーイは工房へと通じる石扉の近くに座ると、膝の上に手を置いて、指でリズムを取り始めた。

 耳を澄ますと、工房から金槌を叩きつける音が響いてくる。


「え、まさか……」

「そのまさかさ。身体に叩き込む、このリズムを」


 次は一人でアダマンタイマイを倒してしまうつもりだ。

 僕はそんなルーイを置いて、暖炉の前に向かう。みんなができることをしている。僕も今できることをしよう。


 (シキ、僕の声が聞こえる?)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ツキヨミにそんな裏技が!!! エルム姫、鬼に金棒じゃないか!(あ、ここ鬼の世界だった……) そして恐るべしルーイ。叩く音を身につけるとは…… これが後々どうか変わってくるんだろう。 ちょっ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ