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自称癒士の救世感  作者: 筆工房
第四章~自称癒士のお使い~
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第五十六話:神と呼ばれるようになった少女

「なんじゃ、あっけない」


 眼下に積み上がった雪の塊を見下ろして、ツキヨミは呟く。イツカが言うには、勇者は相当な魔力を有する一騎当千━━いや、一騎当万の兵とのことだった。


「山そのものが相手ではどうにもならんかの」


 ワシは今こそ神と呼ばれているが、元々は違う。むしろ真逆の存在とも言える。


 ワシは、山神を鎮めるための供物であった。






 ━━遡ること五百年と少し前、まだこの霊峰フジを含む一帯が鬼人の領地であったころ。ある姉妹がベルディア巫国に産まれた。都から離れた辺境の村でひっそりと暮らすはずだった少女達は、ある違いを持っていたために運命の渦へ飲まれていくことになる。

 彼女達は肌が白かった。鬼人は燃えるような赤い肌と頭皮から生えた角を身体的特徴とする種族だ。それと全く異なる特徴を持って産まれたことに両親は困惑し、村一番の知恵者だった村長に相談した。報せを受けた村長は急いで都に早馬を飛ばし、都から使者が到着するまで二日とかからなかった。


 姉妹を迎え入れた宮内は歓喜に沸いた。というのも白い肌を持った子は千年に一人しか産まれず、繁栄の兆しとの伝承があったからだ。

 問題は“二人”産まれたことだった。姉の方は肌だけでなく、全身の色素が抜けていた。毛や角の色も純白、瞳だけが赤く輝いていた。一方の妹は肌が白いものの、毛や角、瞳は黒かった。賢人達が召集されるも、両名の扱いをどうするか迷いに迷った。文献を持ち寄り議論を重ねたが、前例など存在しなかった。そこで、より白かった姉を神より授かりし子とし、妹を忌み子とすることが結論づけられた。

 理不尽と感じるかもしれないが、そう決まったのだ。


 しかし宮内から出ないことを条件とされただけで、姉妹は同じように育てられた。一部の使用人から忌避の目で見られることはあったが、詮無きことであった。

 生活するうちに他の特徴が明らかになっていった。まず、鬼人として圧倒的に膂力が低かった。五歳の鬼人ともなれば中木を引っこ抜くことも容易いのだが、鋼の剣を持つことさえ難渋した。

 一方で内包する魔力は圧倒的に高く、姉は占術で当代の巫女を圧倒的にしのぎ、妹は膂力を補って余りある炎術により大の大人を触れさせずに伸してしまえるほどであった。


 彼女達が九つを数えた時、姉を新たな巫女として迎えることが決定された。そこで再浮上したのが、妹の扱いをどうするかという問題だ。ある時一人の賢人がこう言った。“霊峰神に捧げてはどうじゃ”と。神の子を授かった御礼に半分を返そうというわけだ。元より魔力の強い者は神の所有物であり、神を鎮める人柱にはそういった者が選ばれることになっていた。それに妹はうってつけであったし、忌み子の存在も解決できる。彼らにとって一挙両得の案であった。

 滅茶苦茶な理屈だと思うかもしれないが、そう決まったのだ。


 何より当の本人が喜んだ。人柱とは国民総てを救う名誉なこと、そう教えられてきたのだから。唯一引き留めてくれる可能性のあった両親とは、九年間一度も会うことがなかった━━。






 生き埋めにされたツキヨミは、長い年月を経て霊峰の内包する魔力と馴染んでいき、その総てを手中に収めるまでに至った。この霊峰フジという領域において、神と呼ばれるに相応しい力を行使できるようになったのだ。

 あのジジイどもの思いつきが偶然うまくいったことよ。


「さぁて……可哀想じゃし、そろそろ掘り起こしてやろうぞ」


 ツキヨミが雪山に近づいた、その時だった。


 ━━バキバキバキ


 雪の丘が砕け飛ばされた。

 中にいた勇者達は依然として健在であり、手の平を前に掲げた桃髪の少女から同質の魔力を感じる。


「無事に帰してやろうというのに、ワシの老婆心が理解できんと見えるな?」


 勇者たちの目からは戦意が全く消えていない。それどころか尚一層と希望に満ちている。つい最近その目を見たばかりだ。


 (じゃが魔力が貧弱すぎるのじゃ。生前のワシとであれば、良い勝負をできたやもしれんが……)


「手ぶらで帰るわけにはいかなくてね、ご厚意を無下にして申し訳ないが」


 傘を携えた長髪の男が答える。

 おそらく、あやつが頭領であろう。なればそこから潰す。


「押し通らせていただく!」

「吠えるな、わっぱ!」


 次の瞬間に動いたのは、振り上げた拳を降ろそうとした相手ではなかった。氷の魔術を用いる、あの少女だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何々!どうしたこの後は! と我慢できないので先へ行きます!!!
[一言] こんばんは。風泉です<m(__)m> 小説読まさせていただきました。読みやすくて、セリフや言い回しなど勉強になりました。  また読みに来させていただきます(^^♪
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