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自称癒士の救世感  作者: 筆工房
第四章~自称癒士のお使い~
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第五十四話:氷蝶は山頂へ導く

「━━ん」


 夢から覚めて、現実に戻ってくる。寝る前に導師の話をしたからだろうか、修行の時の出来事を夢見ていた。

 入り口に邪魔された風が洞窟の壁で乱反射し、不安を煽るような甲高い風音を響かせていた。外はまだ真っ暗だったが、まだまだ吹雪は止んでいないらしい。

 首を動かすと、焚き火を見つめるルーイの顔が目に入った。


「眠れないの、ルーイ?」


 ルーイは視線を上げると、ニコリと微笑んだ。


「ちゃんと寝たさ。焚き火で分かりづらいけど、空は少し白んできているよ」


 今いる場所からは、空の色が全く分からなかった。それを知るために寒い入口に行く気は起きなかったし、ヒヒ丸という毛布から離れたくなかった。それに、ルーイがそういうなら、きっとそうなんだろう。


「一つ、いいかな?」


 ルーイが少しだけ真剣な表情になる。寝惚けていた僕の頭が冴えていく。


「何?」


 隣で同じくヒヒ丸にくるまっていたエラに視線を移す。エラはスースーと静かに寝息を立てていた。


「嘘をついていた者がいる、修行の時に」


 ……嘘?

 僕は突然の発言にポカンとしてしまった。


「そして、その嘘は今回の聖王国の動きに関係していると考えている、遠からず」


 彼の言葉の真意を考える。なぜ僕に、僕だけに打ち明けたのか。

 まず僕は嘘をついただろうか。━━いや、この世界に転移した後は何もかもが必死で、嘘なんかついてないと思う。勘違いした発言をして、結果的に嘘になってしまったことはあるかもしれない。だけど、それをルーイが咎めるだろうか。

 次に聖王だ。彼女は嘘をついている可能性が最も高い。だけど、それは元々僕たちの共通認識だ。今さら改まって掘り返すことではない。そもそもルーイは“修行中・・・”と言った。つまり修行の場に居合わせた人間の誰かだろう。


 少しだけ顔を上げる。黙り込んでしまった僕を、ルーイはじっと待ってくれる。


 再び目を伏せて、さっき見た修行の夢を一つ一つ思い返す。


「あ━━」


 辿り着いた答えを確認するために再び顔をあげる。ルーイは唇に人差し指を当てて、制止をもとめた。

 そうか、ルーイは気づいていたんだ。そして僕に打ち明けた理由が、やっと分かった。


「よかった。気づいてくれると思っていたよ、君なら」


 ルーイは嬉しそうに答える。僕とルーイだから気づいた違和感。


「意地が悪いよ、ルーイ」


 人を試すような視線が無くなり、ホッと胸を撫で下ろす。


「しかし判明した訳じゃないけどね、何故嘘をつく必要があったのか。解決の糸口にはなりそうだけど」


 何か思い当たることはないかと聞かれたけれど、僕自身はさっきまで気づいていなかったこともあって、皆目見当もつかなかった。

 そうこうしているうちに、外が洞窟内からでも分かるくらいに明るくなってきた。


「さて、作戦を練ろうか、彼女たちを起こして」






 ━━明るくなったとは言っても、吹雪は衰えることを知らず舞い踊っていた。


「こうして改めて見るとやっぱり違和感があるよね」


 吹雪の強さに対して空が明るい。これだけの天候であれば、上空はもっと黒く厚い雲に覆われているはずだ。


「術者を探したいね、これが魔法で起こされているものなら」


 何か探す術を考えなくてはならないが、相手も分からないので明確な方針を立てようがない。そう思っていたけれど━━


「分かるかもしれないわ」


 思い出したようにエラが声を上げる。


「これを見て」


 エラは掌を上に向けると、昨日見た氷の蝶を造り出す。それはやはり程なく霧散してしまう。


「もう一度」


 数回蝶の生成を繰り返す。その度に砂の城が風邪で飛ばされるように流れていく。


「もしかして……」

「気づいたかしら」

「崩れていく方向が変わらない、吹雪は複雑にうねっているのに」


 エラは力強く頷く。


「私の虫は風に飛ばされている訳ではないわ。強い魔素の流れによって掻き消されているの」

「そうか。術者は常に一定の方向へ魔法を飛ばしていて、山の複雑な気流に乗せているだけなんだ!」


 その上流に奴はいる。エラの魔法が方位磁石となって、僕たちを導いてくれるはずだ。


「ヒヒ丸、この方向って━━」

「ヒヒ!」

「山頂か」


 ヒヒ丸は本能的に、どちらが山頂で、どちらが麓かを理解している。やはり敵は安全な山頂から僕らを見下ろしているようだ。


「冷気である氷の魔素は流れやすい、低い方向へ。理に敵っているね、魔法効率としても」


 後はこの吹雪をどう進むかだけど━━


「ルーイはやっぱり厳しそう?」


 言わんとしてることを理解したルーイが雪に手を降ろす。


「うん、そうだね。積雪は数十メートルとみていいかな、やはり」


 あまりに雪が厚く積もっているため、土の魔素をほとんど感じられなくなっているらしい。ルーイの魔法はかなり制限されてしまっている。


「それじゃあ、僕の道具が役に立ちそうだね」


 そういって洞穴で準備していた装備品を取り出す。


「これは傘、かな?」


 植物で作ったそれは、巨大な傘を半分閉じたような形をしている。ちょっとした隠し要素を仕込んであるのがポイントだ。


「これで、雪を防ぎながら進もう。足場は━━」

「大丈夫、崩れないように私が固めながら行くわね」


 積もってしまった雪はエラが何とかしてくれる。


「ヒヒ丸、よろしくね」

「ヒヒー!」


 傘をヒヒ丸に任せて、一直線に並んで進んでいく。雪風を避けられるだけで、大分進みやすい。

 さらに傘で塞がれた視界は僕の透視鏡で解決できる。


「本当に私は役立たずだね、今回は。よく分かったよ、ヒロ達の気持ちが」


 僕は首を横に降る。


「そんなことないよ」


 それに予想が正しければ、ルーイの出番はきっと来る。






 ━━二時間ほど進んだだろうか。空が明るさを増し、昼に近づいたことを想像させた。

 おそらく八合目あたりまでは来たはずだ。何も目印がないのが不安だけれど。エラの“方位氷石”も、変わらず同じ方向を指している。


「おや?」


 急に辺りが静かになる。さっきまで、うるさいくらいに吹雪いていたのに。ピタリと、極めて不自然に。


「ほんに諦めの悪いやつらじゃのぅ」


 そして聞き慣れない子供の声が鳴り響く。透視鏡で前方を覗くけれど、誰も見当たらない。一体どこに━━


「上だわ!」


 見上げると、この寒さには似つかわしくない着物姿の少女が、空中で胡座をかいて座っていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一応どうにか乗り越えた訳ですね!╰(*´︶`*)╯♡ 良かった! そこにいたのは子供?の形をした仙人?のようなものという感じですかね? ルーイが感じた事とヒロが気づいたことは何だろう? 私に…
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