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自称癒士の救世感  作者: 筆工房
第四章~自称癒士のお使い~
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第五十話:チェリャは再び、大剣を受け流す

 日が替わり、再び巨亀の骸へと足を運んだ。


「今日も快晴でごぞるなぁ、よきかな!」


 チェリャは小躍りしながら、アダマンタイトの山を登っていく。


「昨日あんだけ飲み明かしたのに、なんで元気なんだよ」

「あの御仁の並々ならぬ生命力が為せる業でしょうか」


 二人でやや異なる嘆息をもらす。


「さて、では今回はそれがしの隙を付いてみるでござる」


 チェリャは腰の短剣を抜くと、くるっと振り向く。


「勇者な回復力は相当なものらしいでござるし、遠慮なく斬りかかってくるでござるよ」


 ガルドは頷くと背の大剣を構える。

 昨日のことを思い出したのか、口を開けて早い呼吸を繰り返す。狐色の背中も、やや艶めいて見える。


 このまま膠着状態が続くかと思われたが━━次の瞬間には尋常ならざる速度で、チェリャの眼前に迫っていた。

 それも予測済みだったのか、チェリャは素早く短剣を胸の前に構えて防御の姿勢を取る。


「む━━!」


 チェリャには突然ガルドが消えたように見えただろう。

 速いな、と呟く。横から見ていたロロには軌跡が見えていた。ガルドは直前で方向を変え、反時計回りに回り込むと背後から斬りかかった。第三者視点で見ても追うのがやっとの速度だ。流石のチェリャでも反応し、防御するのは難しいのではないか━━


 そんな予想は見事に裏切られた。


 チェリャはぐりんと身体を捻ると、短剣の腹で落ちてくる剣筋を逸らしてみせた。


「な……っ!」


 狼人はその金眼を見開き、驚愕の表情を隠せないでいる。慌てて体勢を直そうとするが、その隙を逃さず流れてきた回し蹴りを腹部に受ける。


「カッ、はっ━━!」


 鎧が無ければ骨を何本か持っていかれたに違いない。衝撃を殺しきれずに息が詰まる。


「驚いてどうするでござるー! そんな暇は無いでござるぞー」


 ガルドは腹に力を入れ直して、呼吸を戻す。


「失礼いたした!」


 もう一度構え直すが━━スキンヘッドの男はやれやれ、と首をふる。


「やはりなぁ……速ければ勝てる相手としかやってこなかったのでござろう?」

「それは━━」


 自分の強みはスピードだ。彼はそう信じ、常に最高速度を伸ばす鍛練ばかり行ってきた。それが間違っていたというのか。


「踏み込みから剣を振り下ろすまで常に一定でござる。それではタイミングを計られて終いでござるよ」


 来る場所と時間が分かれば、対応は容易い。


「それに、最初迫った時に剣を振ろうとする意志が無さすぎでござる。あれでは裏に回ろうとしてるのが丸分かりでござるよ」

「なるほど、分かりやすすぎたと……」

「いや、それが普通みたいな言い方はどうなんだ」


 瞬時に対応できるのは限られた相手だろう。


「え、そうでござるか?」

「そうだよ。その意外そうな顔やめろ、ムカつくから」


 首をかしげても、可愛くもなんともない。


「まぁ今のままでは格下は屠れようが、同格の異形にすら負ける可能性はあるでござるなぁ。奴らもそこそこ知恵が回るでござるし━━」


 チェリャはポン、と手をたたく。


「では、今からそれがしが打ち込んで行くでござる。防御してみてくだされ」

「お前、また無茶なことを……」


 そもそも現世出身者の風魔法と勇者の時魔法では速度のレベルが違いすぎる。


「もちろん、全力は出さないでござる。ガルド殿の半分の速度でいいでござるよ」

「それならば流石に拙者でも対応できると思いまするが……」


 ゆっくりと構えをとり、ガルドの応戦を促す。


「無駄のない無駄な動きがポイントでござるな」


 彼の表情は、圧倒的な自信に満ちていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] チェリャの剣捌きと覇気の使い方の指導に、思わずふむふむとうなずいている自分がいました。 成る程〜と納得です。 彼に指導して貰えれば、騎士達は結構伸びるのではないですかね?
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