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自称癒士の救世感  作者: 筆工房
第三章~自称癒士の開花~
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第三十九話:金剛鉄の巨亀

 蘇生されたフィアは、村を出ても歩くことをやめなかった。門番の人は快く開門してくれたけれど、まさか僕たちがリビングデッドを連れているなどと予想もしなかっただろう。


「失った身体を求めてるんじゃないか、もしかして」


 彼女はただ一点を目指して進んでいる。それはルーイの言うとおり喰われた場所へと導かれているのかもしれない。

 防壁の前で立ち尽くした時は、どうしたのか分からなかったけど、なるほど壁の越え方を理解できなかったらしい。


 十分ほど歩いただろうか。彼女は小高い山の前で立ち止まる。周囲を警戒するが、フェストリの姿は見当たらなかった。空の高い位置には、ひつじ雲が悠然と広がっている。


「フィアさん、貴女はどうしてここに来たかったの?」


 質問への返答はない。ただ立ち尽くすのみであった。


「君は殺されたんだね、ここで」


 地面に落ちていた何かに気づいたルーイが、それを拾い上げる。落ちていたのは指輪だった。それを僕に放って投げる。


「これを探していたの?」


 手渡されたフィアは、ただ呆然と指輪を見つめる。表情はぴくりとも動かず、感情を読み取ることはできなかった。


「さて━━」


 ルーイは槍を構えると、山に向かって話しかける。


「私たちは倒せばいいのかな、こいつを」


 地が鳴り、丘がゆっくりと動く。


「この山は生きているでござるか!?」


 鎌首をもたげたそれは、巨大な異形だった。頭だけでも馬車と変わらない。僕たちのことなど、さして気にも止めていないようだ。サカの村へ向けて、ゆっくりと歩きだした。


「行かせないでござるよ」


 チェリャは異形に飛び乗ると、短剣を首に突き立てた。


 ━━ガキィン!


 金属質な音を響かせ、弾かれた短剣が飛んでいった。


「これは硬ぅござる! 腕が痺れもうした!」

「じゃあ、どいてな」


 ロロが上空に飛び上がる。


「無視するたぁ、いい度胸だ。消し炭にしてやるよ!」


 両手を前で合わせると巨大な火球が放たれ、異形へ向かって一直線に飛んでいく。着弾すると激しい炎が上がり、異形全体を包んだ。


「げ、マジかよ……!」


 燃えカスしか残らない、そんな予想は見事に裏切られた。異形を包んでいた土や植物が焼け落ち、中から鮮やかな深紅の鉱石で包まれた本体が出現した。ロロの炎術も意に介さず、ただただ歩みを続ける。

 金属の甲羅を纏った亀のような見た目をしていた。


「まさか、アダマンタイマイ!?」


 エラがハッと気づいて声をあげる。


「最高の防御力を持つ鉱石、アダマンタイトで身を包んだ巨亀よ!」

「タイマイなのにリクガメなんだな」

「それは言わないお約束じゃない?」


 こいつで村を踏み潰すつもりらしい。知能は低そうだけど、あの質量はそれだけで暴力だ。ここで止めないといけない。


「エラとネネはフィアさんを連れて、安全な所へ!」

「分かったわ!」

「了解、あたいは村へ報告に行くよ」


 エラたちが離脱したのを確認すると、再度巨大な異形と立ち向かう。


「刃も熱も効かないとなると厄介だね、単純だけれど」

「とりあえず、こういう奴に対する定石を試してみるでござるか!」


 チェリャは正面に躍り出ると、肩ベルトに付けた袋から取り出した謎の玉を鼻っ面に投げつける。


「解!」


 多分意味はない印を組むと、玉が目の前で弾け、鮮やかな色の粉が飛散した。

 あれはチェリャが王城の料理長から譲り受けたスパイスだ。大量に浴びれば、目や喉がただれるほどの強い刺激を持っている。しかし━━


「あまり効いてないでござるな」

「では、ここなら━━!」


 ルーイは足の付け根を狙って槍を突きだす。土の魔力を纏った突きは、轟音と共に関節部分を襲った。しかし、そこにも傷一つつけることはできなかった。


「弱ったね、ガッチリ固められてるようだ」


 物理が効かない、魔法も効かない。こんな敵がいるなんて……


「決まった訳じゃないさ、何も効かないとは。手伝ってくれないか、みんな!」

「承知!」

「何をすればいい?」

「まずは━━」


 作戦はすぐに理解できた。ロロが僕を抱えて、宙に浮かぶ。


「やっぱり足だけだとバランスが難しいな」

「頑張って、ロロ」

「わぁーってるよ」


 ロロと僕はアダマンタイマイの周囲をぐるりと一周し、仕掛けを施す。

 ルーイはそれを確認すると、両手を前に出して集中する。僕も魔力を全力で“四つ”の仕掛けへと送り込んだ。


「伸びろ!」


 仕掛けたのは林で拾ったウリのような植物の種だ。魔力に反応し、巨大なツル状の植物が生えた。膨大な癒の力があれば、思いのままに成長させることができる。お伽噺に出てくる雲の上にある巨人の城まで登っていくことも容易いんじゃないか。

 ツルは異形の脚の付け根に絡みつくと、その歩みを鈍らせた。でもすぐに、幹がミシミシと悲鳴を上げる。


「ルーイ、長くは持たないよ!」


 僕の言葉が言い終わらないうちに、ルーイの魔法が発動した。アダマンタイマイの体がよろめき、地に沈む。それは奴の足下にあった大地が大きく抉れたからだ。登ろうと脚を持ち上げるけれど、絡まった植物により上手く這い上がることができない。特に焦っているように見えないのは、やはり知性がないからだろうか。

 だけどルーイはまだ手を休めない。次々と異形を支えていた大地が削り取られていった。それに伴って異形の姿が暗く陰っていく。


 この魔法はただ異形の動きを止めただけではない。攻防一体の手なんだ。奴の足元から消え去った大地、これがどこへ行ったかというと━━


 奴の頭上だ。


 アダマンタイマイの甲羅ほどに膨れ上がった大地が、奴に影を落としていた。印を結んでいるチェリャの時魔法によって、空中で静止している。


「では特大の拳骨を喰らわせてやるでござる!」

「やっぱり取っちゃうんだね、決め台詞を」


 チェリャが印を解く。すると空中浮遊していた大地の塊は、重力の呪縛により自由落下を開始した。それは動けなくなった巨亀を過たず穿ち、爆音と大量の砂埃を撒き散らした。

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