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自称癒士の救世感  作者: 筆工房
第三章~自称癒士の開花~
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第三十八話:記憶操作の痕跡

「なんで薬師のあんたが、そんな高度な魔法を使える!?」


 それは僕を勇者として認識していない、決定的な証言だった。


「薬師? 薬師って一体━━」

「何を言ってるの、ネネ。ヒロは勇者よ、最初からそう言ってるじゃない!」


 エラは前に出ると、僕らの肩を持ってくれる。

 だけどネネは腰を落とし、更に警戒心を強くする。


「聞いてないぜ、そんなことは!

 ヒロはポーションの知識を見込まれてついてきた薬師だって、そう言ったはずだ!」


 ネネとの会話は全く噛み合わない。


「ヒロ殿、どういうことでござる?」

「私たちの予想が当たったんじゃないかな。

 おそらく彼女の記憶は━━」


 ルーイは死体の方を見ないようにしながら、僕に耳打ちをする。


「ルーイ……うん、そうだね」


 僕はネネに数歩近寄ると、こう問いかけた。


「覚えている? ネネは僕を最初こう呼んでいたんだ。ヒオ(・・)って」

「いったい、何を━━」

「何でかっていうとね、ネネが僕の頬を引っ張ったから、うまく名前を発音できなかったんだよ」


 僕は両頬をむにーっと引っ張ってみせた。


「あ、あぁ……それは覚えてる」


 僕の変な顔で少し気が抜けたのか、それとも記憶の共有ができたからか……ネネの足から力が抜け、腰の位置が高くなる。


「ネネは興味を持ったんだ。こんな年端もいかない子供が勇者だってことに」


 ネネの表情が陰る。

 勇者一行の連絡役に任命されるほどの存在だ。記憶力が良くないと務まらない。もし記憶を操作されているなら、どこかで不都合が出るはずだ。


「いや、それは……子供が勇者一行に参加するのが不思議だっただけで……」


 ネネは戸惑いを隠せないでいる。もうすっかり警戒心も薄れ、意識は自己の記憶へと向いてしまっている。


「まぁ、そんなことはどうでもいいんだ。どっちの記憶が正しいか、なんて証明できないし」


 ネネはきょとんとした表情を浮かべる。


「いや……いやいや、どうでもよくないだろ!? だって━━」

「僕は薬師だ。それでいいんだよ」


 今度は僕が近づいても、逃げられることはなかった。

 ネネの手を取り、その瞳を真っ直ぐ見つめる。


「お願い、ネネを巻き込みたくないんだ」


 ネネは僕の真意を確かめるように、じっと見つめ返す。そして、深くため息をついた。


「分かったよ、ヒロ。でも困ったときは、あたいも頼ってくれ」


 ネネは僕を羽根で包むと、右頬をついばんだ。


「あたいは、お姉さんだからな」


 にかっと笑いかけられ、僕も思わず破顔する。

 後ろで顔を真っ赤にしたエラがあたふたしていることなど、全く気づかなかった。



 ネネは敵じゃない。それが分かっただけでも、僕たちとしては心強い。

 だけど、はっきりしてしまった。王国側には、勇者が4人いることを快く思ってない人間がいる。そして、記憶を操作する何らかの方法がある。

 そのことは僕たちが記憶を失っていることと、無関係とは思えなかった。



「でも流石のあたいも、これにはドン引きだわ」


 未だに目を覚まさないフィアの遺体を見て、そう言った。

 それには僕も苦笑するしかなかった。


「で、どうすんだよ、これ」

「ちょっと見させてもらってもいい?」


 僕は再びフィアに近づくと、拡声器を取り出す。これもアークセイントライトでできた魔道具で、魔力を込めると自分の声を大きくすることができる。

 けれど一部の知識が戻った今は、もう1つ別の使い途が頭に浮かんでいた。

 拡声器を逆に向けて耳を近づける。確かな鼓動と空気の通り抜ける音を聞き取ることができた。


「やっぱり心臓と肺は大丈夫みたいだ」


 すると突然━━


「わっ」


 フィアはパチッと目を開けると、上体を起こした。ゆっくりとした動作だったけど、一番近くにいた僕は、驚いて尻餅をついてしまう。

 ルーイを除くみんなが、おっかなびっくり経過を見守る。

 一方のフィアはどこか虚ろな目で周囲を見渡した。


「フィアさん、わかる?」


 だけど問いかけに反応を返すことはない。やっぱり━━


「記憶は戻らんでござるか……」


 いかに細胞を治したとしても、そこに蓄積されていた記憶まで修復することは難しい。

 恐らく産まれたての赤ん坊に近い状態じゃないだろうか。


「つまり私たちの記憶回復も望み薄ということだね、ただ脳を壊して治すだけでは」

「ちっ、使えねぇ……」


 ルーイは明後日の方向を見たまま、ロロも興味を無くしたようにそっぽを向いてしまった。


「気を落とさないでござるよ」


 チェリャが、僕の肩を叩いてくれる。


 フィアは僕らのやり取りをぼんやりと見つめた後、ゆっくりと立ち上がった。

 そして、どこかへ向かってふらふらと歩きだした。


「ちょっと、どうしたの!?」

「よく分かんないけど、追いかけてみよう!」


 他の住民たちに見られないようにフードを被せ、僕たちは追従を始めた。

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