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自称癒士の救世感  作者: 筆工房
第三章~自称癒士の開花~
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第三十七話:不完全な死者蘇生

 ━━取り出したのは、フェストリに無惨に食い殺されたフィアの右腕だ。


 食われて間もなく村へ持ち込まれ、接触後は僕が癒の力で維持していた。



 つまりこの腕は、まだ“生きている”。



 であれば、癒の魔法で再生できるのではないか。それが去り際に残したシキの考えだった。

 僕の魔法は“生きていない”ものを直すことはできない。だけど“生きて”さえいれば治すことができる。薪の一片からだって木を生やすことができる。


 だけど腕から人を再生するなんて、想像もつかなかった。



「まさか、それを……」

「うん、治すよ」


 チェリャは興味津々といった表情を、ロロとエラは引きつった表情を浮かべていた。王女として、記録士として見届けなくてはという義務感から、顔を背けたい気持ちを抑えているようだった。

 深緑の魔素が渦を巻き、僕の体から遺体へ流れこむ。


 フィアの腕が光に包まれ、先の臓器が再構成されていく。


 これは治すという範疇を超えているのではないか━━癒の光はこんなにも暖かいのに━━言い様のない怖気が纏わりついていた。


「あっ」


 思わず声が漏れる。

 再生が体幹に差し掛かると、そのふくよかな胸部が徐々にあらわになっていった。

 フィアは女性だったらしい。性別までは確認していなかった。


「ヒロ、見ちゃだめ!」


 エラが、思わず僕の両目を塞ごうとする。


「ちょ、ちょっとエラ━━見えないと治癒がうまく出来ないってば!」

「あ、ごめんなさい」


 手を離してもらったけど、おかげで余計に意識するようになってしまった。


「しかし、本当にできるもんだな」


 彼女は徐々に再生し、ついに完全な人の姿を取り戻した。

 ロロも今は関心の方が勝ってしまっている。


「筋肉等はどうしてるでござるか?

 遺伝情報に体脂肪や筋肉量はないでござろう?」

「僕は特に意識してなかったから、腕の情報が元になってるのかな」


 知ってる人が見たら、ちょっと違うってなるんだろうか。


「くっ……」


 意外な反応を示したのはルーイだった。口に手をあてると、顔を背けてしまう。


「ごめん、私はダメみたいだ……」


 息も荒く、苦しそうにしている。

 僕たちは前世との繋がりによるものか、明確な“好き嫌い”がある。例えばロロが肉料理を嫌っていたり、チェリャが酒を好きだったりだ。

 死体を蘇らせるなんて、非人道的な行為をしているんだ。生理的に嫌悪されても仕方ないと思う。 


「とりあえず、服を着させるわよ」


 エラが彼女にローブを羽織らせる。


「これは、目を覚ますのか?」

「どうだろう……」


 手首に脈を感じる。生命活動は再開しているみたいだけど、一から作り直した脳が動くんだろうか。


「ヒロ、あんた何者だ?」


 振り返ると、ネネが驚愕を目に宿していた。


「死んだ人間を蘇らせる?

 そんな、そんなこと━━」

「ネネ、どうしたの?」


 エラが手を伸ばすと、触れられまいと数歩後ずさる。腕を広げると、美しい白羽が大きくきらめいた。


 言われなくても分かる。これは威嚇だ。僕たちに対する最大限の警戒。


「なんで薬師のあんたが、そんな高度な魔法を使える!?」


 それは僕を勇者として認識していない、決定的な証言だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 腕から人一人を再生する。 そこから生まれる様々な感情と認識。 果たして目覚めるのか? 果たして脳はその人本人なのか? 移植を受けた人が、急に好みが変化するということはあるというのを聞く限り…
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