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自称癒士の救世感  作者: 筆工房
第三章~自称癒士の開花~
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第三十四話:ヴァイス副団長とセイブ村長

 中へ入ると、筋肉質な大柄の男性と、やや小柄な男性が口論を交わしていた。


「避難を優先すべきです! 勇者様が警告されたと言うことは、それ相応の脅威が迫っているということでしょう!」

「避難準備は進めていますが、ここは要所ですぞ! 最小限の準備に止め、限界まで維持すべきです。そのための駐留軍ではないですか!」


 双方とも白熱しており、来客に気づいていないようだった。


「あんた達、勇者様と王女様の御前よ」


 鶴の一声に二人の視線がこちらを向く。


「こ、これはネネ様……」

「エラ王女様も……見苦しい所をお見せしてしまい、大変申し訳ありません」


 深々と一礼した大柄の男性は、茶髪の角刈りに一部白髪が入っている。ベテランの風格が漂っていたが、声音にはやや焦りを含んでいた。

 小柄な男性も、やや遅れて頭を垂れる。栗色の長髪を後ろで一つに縛っている。


「結構です、面を上げなさい。まずは自己紹介を、副団長」

「はっ、聖王国騎士団副団長兼サカ駐留軍隊長を任されております! ヴァイス・ゴートマンであります!」


 太い眉毛が漢らしい。頭を上げると、チェリャを一回り大きくしたような印象だった。


「私は村長のセイブです」


 汗でずり落ちた眼鏡を、姿勢とともに直す。ゆったりとしたポンチョのような衣装を身に付けている。痩せているのもあるだろうけど、ヴァイス副団長より歳を重ねているように見える。


「ところでセイブ、避難を渋っているように聞こえたけど?」


 エラの鋭い視線に、セイブ村長がやや気圧される。


「それは……王女殿下もご承知のとおり、このサカは重要な交易拠点であるとともに、軍事拠点です!

 易々と手離す訳には━━」

「人命が最優先であると、常々伝えているはずです。要所を守っている自負があるのなら、今すぐ肥溜めに捨ててきなさい」


 続ける言葉を許さず、エラがピシャリと言い放った。セイブ村長は口を開いたまま、動けなくなってしまった。


「村民は最低限の住民を残し、物資と共に王都へ帰還させなさい。残った住民も避難が容易な施設に移動させるように!」

「し、しかし勇者様もご到着されたことですし……避難をしなくともよいのでは!」

「おいおい、誰に口答えしてんだ。ブゥの餌にされたいの?」


 ネネが村長に詰め寄ると、首根っこを掴み、至近距離で威圧する。


「すぐに避難誘導を行います! どうか今の発言をお許しいただきたい!」


 ヴァイス副団長が顔面蒼白になり、地に額をつける。


「も、申し訳ありませんでした!」


 セイブ村長もわなわなと唇を震わせ答えた。ネネが手を離すと、その場に崩れ落ちる。


「やめてよ、ネネ。悪者みたいじゃないの。

 それと━━」


 恐怖で固まっていた村長に手を差し伸べると、ニッコリ笑った。


「あくまで個人的には……村が残っていて助かったわ、ありがとう」

「は、はいぃ!」


 一瞬ヒヤヒヤしたけれど、この場は収まりそうでよかった。


「やっぱり油断できないね、彼女」


 ルーイは口に手を当て、僕だけに聞こえるように呟いた。ネネのことかと尋ねると、ルーイは首肯した。


「誰が上かを一瞬で分からせた。なおかつ彼を赦す流れも作り、王族としての威厳も守ったんだ、自分が悪役になることで」


 ネネは腕を組み、一転して優しい笑みを浮かべている。

 エラとは幼なじみのようだったし、可愛がっているんだろうな。


「私は村民への通達がありますので、先に失礼させていただきます」


 セイブ村長は、そそくさと詰所から出ていってしまった。


「ヒロー、怖かったよー」


 扉が閉まるのを確認し、ネネが僕に抱きついてくる。


「その切り替えの速さのが怖ぇよ」


 ロロの呟きに、僕も苦笑いで返すしかなかった。


「先ほどは、本当に失礼を━━」

「それは赦しました。人払いは?」

「ここでは表に聞こえます。どうぞ奥へ」


 エラの言葉は、内密な話があることを告げていた。僕たちは更に奥にある狭い部屋へ通された。


「敵の動きはありましたか?」

「いえ、斥候を出しておりますが、未だ報告は……

 して、本当なのですか……勇者様ほどの方々でも恐れる脅威が迫っているというのは」


 魔王軍の手が伸びてきている、この事実は市民に広く伝えられている。しかし勇者でも対処困難な未知の敵が出現した━━この事実は、このヴァイス副団長にしか伝えていない。

 額に緊張の汗を滲ませながら、問うてくる。


「魔王の眷属と一戦を交えました」

「なんですと!?

 もう大陸中央まで、眷属がやってきているというのですか!」

「そしてサカにある村を落とすため、私たちの足止めをしていったのです。

 奴の不可思議な術に手立てを講じられず、逃がしてしまいました」

「なんと……」


 眷属の力は伝承でもよく語られている。勇者に比肩する魔力と知恵を持ち、ひとたび魔法を振るえば、騎士団など容易く壊滅させうると。


「しかし参加しない可能性が高い、今回のサカ攻めには」

「そりゃそうだろうな。俺らにちょっかい出すより、初めからこっち攻める方が効率いいもんな」


 ルーイの言葉に、ロロが同意する。それにはみんな同意見だ、恐らくそれは━━


「長期戦ができないから、かな」

「多分ね。あと大規模な能力展開ができないから、というのもあるかな」


 異形たちは“穢れ”が不十分では存在を維持できない。そして高位の者ほど、より濃い“穢れ”を必要とする。加えて能力を十分に発揮するためには、さらに濃厚でなくてはならない。

 だから眷属フェストリは短期決着を狙い、ヒヒ丸だけを狙った。


「であれば勝機は十分にあるでござるな」


 ━━ガランガラン!


 不意に壁に設置された鐘が、けたたましく鳴り響いた。


「これは緊急の呼び出し音です! 何かあったのやもしれません」


 副団長に続いて、先の部屋へ戻る。






 ━━部屋には数人の兵士が、一人の兵士を囲んでいた。


「何事だ!」


 その声に、兵士たちが一斉に敬礼をする。ただし、囲われた兵士は気が動転しているのか、床に座り込んだまま動く気配がない。


「そ、それが……」

「ネイサン! 王女殿下、彼は腹心の部下です。偵察に出ていたはずですが

 一体どうし……!?」


 状況を理解したヴァイス副団長は言葉を失った。



 ネイサンと呼ばれた兵士の手には、鎧ごと切断された他人の手が握られていた。

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