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自称癒士の救世感  作者: 筆工房
第三章~自称癒士の開花~
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第三十一話:眷属フェストリの謀略

「初めましテ、ワタシは魔王様の眷属、フェストリと申しまス。

 以後、お見知りおきヲ」


 口はしっかりと縫い合わされていて、どこから声が聞こえるのか分からなかった。

 自己紹介した異形は、深々とお辞儀をする。


「それはご丁寧にどうも。私は勇者代表のルーイと言います」


 ルーイも軽く会釈をする。


「それで、今日は自己紹介だけなのかな?」


 笑顔で問うものの、声には明らかな敵意を含んでいた。

 フェストリの表情は動かなかったが、


「残念ながラ━━」


 その下げていた腕をゆっくりと持ち上げる。


「足止めをさせていただきに参りましタ」


 すぐに動いたのはチェリャだった。

 フェストリとの距離を一瞬で詰めると、腰に差した短刀を振り抜き、その首を刎ねとばした。


「相手が悪かったでござるな」


 まさに疾風迅雷のごとし。時の魔法により繰り出される早業には、反応することさえ許さなかった。

 駄目押しとばかりに、ルーイが槍を突き出す。無数の砂礫が飛翔する槍となり、フェストリの胴体を貫いた。


 首を失くし、風穴を空けられた体は、そのまま仰向けに倒れた。


「なんだぁ、あっけねぇ。魔王の幹部つってもこんなもんかよ。こりゃ魔王も大したことねぇな」


 ロロが燃やそうと、手に炎を灯す。


 その時だった。

 何かを察したチェリャが、声を張り上げる。


「ヒロ殿、逃げるでござる!」

「……え?」


 何が起こったのか分からなかった。目の前に先ほど倒されたばかりのフェストリが、五体満足で現れた。


「させない!」


 エラが僕を庇うように前に出て、戦闘体勢をとる。身のこなしは、幼い頃から続けた戦闘訓練の賜物だろう。

 だけど、このフェストリという異形が只者ではないことは分かる。このままではエラが━━!


 その異形はやはり表情を変えることなく、腕を拡げる。全身を芯まで凍るような怖気(おぞけ)に襲われた。






 ━━だが、奴の攻撃が僕やエラを襲うことはなかった。


「あぁ、美味しイ」


 攻撃されたのは、ヒヒ丸だった。


「ヒヒィ!?」


 奴が手を振ると、ヒヒ丸の右足が忽然と消えた……消えてしまった!

 ヒヒ丸の足から、思い出したかのように鮮血が吹き出す。


「ぐふゥ!」


 こちらに戻ってきたチェリャが、再びフェストリの体を切り刻む。


それがしだけが分かる気配のような感覚!

 彼奴は時の魔法の使い手でござる!」


 魔法は特定の魔素を操作することで繰り出される。そして優れた魔力を持つ者は、近しい種類の魔素であれば、魔素の流れを知覚することが可能だ。


「からくりは分からんでござるが、魔法により変わり身の術を行っているでござる!」


 チェリャが感覚を研ぎ澄ます。

 魔法の発動を察知し振り向いた先には、やはり全快したフェストリが佇んでいた。

 おそらくチェリャと同様に、奴もチェリャが操る魔素を感知できる。だからチェリャのスピードを活かすことができていないのだろう。


「やれやれ、同じ時魔法は相性が悪いですネ」


 フェストリが片手をあげる。その大きな手のひらには、無数の牙が生えた大きな口が見えた。ヒヒ丸の足を食べて満足したのか、ゲェップと汚いおくびが響く。


「とりあえず目的は達しましタ。間抜けな勇者共でたすかりましたヨ」


 表情こそ変わらないが、もう片方の手にある口がパクパクと動き、言葉を紡ぐ。


「そのヒヒは、もう使い物になりませんネェ」



 そして両手でゲラゲラと笑った。



「お前、ちょっと黙れ」


 ロロが手をかざすと、フェストリの足元から炎が吹き出す。


「━━ッ! ギャアアアアアッ!?」


 一瞬怯んだように見えたけど、すぐに炎柱が上がり、姿が見えなくなる。


「無駄だということに、そろそろ気づいてもよさそうなものですがネ」


 チェリャの構え直した先━━さらに離れたところへ、フェストリは再生していた。


「では、ワタシはこれデ。

 ああ、そうそウ。アナタたちの目指す村が、到着まで無事だとよいですネ」


 そう言い残すと、一陣の風と共に異形の姿は消えてしまった。


「すまぬ、皆の衆! それがしは、時魔法の使い手でありながら、彼奴めに手も足も出なかったでござる!」


 チェリャはドカッと地面に腰を落とすと、深々と頭を下げた。


「チェリャ、誰かだけの責任ではないよ、前にも言ったけれど。

今回は奴が一枚も二枚も上手だった」


 ルーイが悔しさの滲む声で答えた。


「最初の姿が囮だったとはね、前衛をヒヒ丸から引き離すための」


 奴の目的は足止めだった。最初から狙いはヒヒ丸だったんだ。

 ロロに出血部位を焼いてもらって止血できたものの、右足の大腿から先を奴の腹に持っていかれた。


「頑張って、ヒヒ丸」

「ヒヒィ……」


 エラが心配そうにヒヒ丸の頭を撫でる。ヒヒ丸は健気にも笑って答えた。


「また、俺とチェリャで先行するか?」

「いや、奴がわざと残していったのが気になる、村に危機が迫っているという情報を。

 これも作戦かもしれない、私たちを焦らせて分断するための」

「じゃあ、どうするってんだよ! 次の村も見捨てんのか!?」


 フェストリの撹乱は見事としか言いようがなかった。たった一戦交えただけで、僕たち勇者一行を疑心暗鬼に陥らせたんだ。

 おそらく、一つだけ確実なのは、足を奪う必要があったということだ。つまりヒヒ丸が荷馬車を引けるようになれば、間に合う可能性が高い。


 ただ━━


 癒の力では治癒や成長の促進をできても、自己治癒能力を超えての再生はできない。王都で修行した際に、導師からそう伝えられた。

 であれば傷口を塞ぐだけで精一杯だろう。癒の魔素をありったけ送り込んで治癒を継続しているが、全てを元通りにするなんて途方もないことだと思っていた。



『……本当にそう思っているのか?』



 突然、声を掛けられたような気がして顔をあげる。みんなが僕の方を見る。


「どうした?」

「誰か、僕に話しかけた?」

「いや、誰も……チェリャ、お前か?」


 ロロの問いかけに、チェリャは首を横に振る。


「私も違うわ」

「そっか、ごめん。聞き間違いかも」


 再びヒヒ丸の怪我に集中する。



『……馬鹿だな、君は』



 頭がズキリと痛む。今度はハッキリとわかった。

 話しかけてるのは他の誰でもない。僕の頭の中にいる男だ。


『ご名答、理解の早い馬鹿で助かる』


 漫画とかで見る脳内会議を、自分がやることになるとは思わなかった。


「頭の中の僕が、何の用?」

『邪険にするなよ。せっかく知恵を貸してやろうってのに。

 そうだな、私のことはシキと呼ぶといい』


 勝手に自分を名付けた不遜な男は、自らをシキと名乗った。

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― 新着の感想 ―
[一言] え?待って待って。 それじゃあ、たまに聞こえていた声というのか彼だったということ? でも、彼は何者? どこにいるの? ヒヒ丸が助かるなら彼の言葉に耳を傾ける必要があると思うけど、信用して良い…
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