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自称癒士の救世感  作者: 筆工房
第三章~自称癒士の開花~
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第三十話:林のキノコは光り輝く

 僕らが野営地に到着した時には、地平線の近くまで日が落ちていた。大分暗くなっていたけど、焚き火のおかげで、容易に見つけることができた。


「おー、皆の衆! 見てくだされ、今日は馳走でござるぞ!」


 見ると大きな獣が丸焼きにされていた。食欲をそそる、香ばしい匂いが漂ってきた。

 どこで捕らえたのか尋ねると、チェリャがブゥとの死闘について、饒舌に語り始めた。


「嘘ばっかじゃねぇか」

「あ、ひどいでござるぞー、ロロ殿ー。言わない約束でござろう?」

「大丈夫だよ、チェリャ。誰も信じてないから」


 異形の者たちを容易く屠る勇者が、ブゥなんかに遅れをとるわけがなかった。


「で、でも創作としては面白かったわよ!」

「エラ殿も信じてくれてなかったでござるか?」

「……」


 エラが静かに目を逸らすと、チェリャは完全に拗ねてしまった。


「とりあえず食べよう、せっかく作ってくれたのだし」


 ルーイの言葉に反応して、ぐぅとお腹が鳴り出す。


「では仕上げるでござる!」


 立ち直りが早いのが、彼の良いところだ。

 肩ベルトにつけた袋を外すと、中から粉末が出てくる。それを取り分けた肉に振りかけていく。グリモア城の料理長に分けてもらった秘伝のスパイスだそうだ。

 常に携帯する意味は、よく分からないけど……。

 ロロの作ったキノコと野草のスープも配られ、晩餐を始める。

 

「うん、美味しい!」

「そうでござろう!」


 以前食べたブゥよりも、野性味のある味だったけれど、スパイスが臭みを旨味に替えてくれている。本心からの感想にチェリャも満足げだ。


「感謝だね、料理長と炭に」

それがしも誉めてくださらんか!?」


 美味しい食事はお腹だけじゃなくて、心も満たしてくれる。


「ちょっと、いいか」


 ロロから声が上がる。


「お前らは、俺の前世って何だと思う?」


 真面目な声色だった。


「ヒロの前世から推測するなら━━消防士はどうかな」

「火を制御したいってことか」


 ルーイの答えに、ちょっと納得してしまった。回答の早さから察するに、予想を立てていたんだろう。


「消防士か……水じゃダメなのか?」

「そうだね。水を操った方が消防士に似つかわしいかもしれない。ただ火を直接操れた方が、有利だろうね、消火の際に」

「そうか……そうかもな」

「何かあったの?」


 質問の裏に、悩んでいることがあるのは明白だった。

 ロロは魔法を使う際に、別の━━怒りの感情が混じることを話してくれた。最近、それが強くなっているようだ。


「本来は敵である炎を、敵を倒すために使っている、皮肉な話だけど」

「その自己矛盾を深層心理が嫌がってるのか」


 あり得そうな話ではある。


「それで説明はつきそうかい?」

「すまん、わかんねぇ。かなり漠然とした感情だからな」


 ロロは仮説に納得したような、そうでもないような微妙な反応だった。


「ところで、ロロ殿。それがしの前世は何でござろうな?」


 チェリャがワクワクしながら尋ねる。きっとキラキラした瞳をしているんだろう。糸目だからよく分からないけど。


「あ、何で俺が……? そうだな、遊び人とか」

「なにゆえ!?」

「何となく、賭け事とかで悪さできそうじゃん。あとキャラ」

「後半だけで決めたでござるよね?」


 戻すことができないとはいえ、時を操るなんて中々の能力だ。


「実際どうなんだろうね、ルーイ?」

「んー。料理人とかを考えるかな、私なら」

「それでござる! それがしもそうじゃないかと思ってたでござる!」

「自分で思ってんなら、俺に聞くんじゃねぇよ」


 ロロが額に手を添える。


「エラ殿は、どう思うでござる?」

「え、わたし?」


 話を振られると思ってなかったエラが、目を白黒させる。


「えっと、えぇ……」


 しばらく目を泳がせたエラは、


「芸人さん、とか」


 と答えた。


「ひどいでござるぅ!」


 僕とルーイは思わず吹き出してしまった。頭を抱えていたロロの肩も小刻みに震えている。


「ヒヒ丸どのぉ」


 指で首を弾きながら、荷馬車の方へ歩いていく。また絡み酒をしに行ったみたいだ。


「ルーイは自分のこと、どう思ってる?」

「よく分からないんだよね、実は」


 ルーイのことだ。きっと自身の前世についても何か考えているに違いない。そう思ったのだけど、返ってきたのは意外な答えだった。


「当てずっぽうさ、みんなの予想だって」


 肩をすくめる。


「まぁ、そうだね。墓守とかだったらいいな、とは思ってるよ」


 ルーイはそれ以上を語ってくれなかった。


「美味しいスープだね、ロロ。キノコの出汁がよく出てるよ」

「あぁ、前に食べたヒラカゲってキノコと同じ奴が、木に生えてたからな」


 林の方を見ると、所々が白く浮かんで見えた。

 何だろう、あれ。


「キノコが光ってるのか、あれは」


 ━━カラン


 物音がして振り返ると、エラが真っ青な顔をしていた。


「それ、ヒラカゲじゃないわ!

 うっ……!」


 顔が一層青ざめた次の瞬間には、口から大量の吐瀉物が撒き散らされた。


「エラっ!?」


 その場に座り込んだエラに慌てて駆け寄ると、耳を近づけなくても分かるくらい、お腹がぐるぐる音を立てていた。


「まさか、キノコ中毒!?」


 さっきのキノコはこちらの世界でツキカゲというらしい。闇夜で光る特徴的な毒キノコだった。


「すまねぇ、確認するべきだった。どうすりゃいい?」


 ロロの焦りが伝わってくる。

 癒の魔素をエラに送り込むことで、症状は一旦治まるものの、すぐに再発してしまう。

 多分、中の毒物を何とかしなくちゃいけないんだ。肝心な時に役に立たないな、癒の勇者は!

 僕は得たばかりの知識を全稼働させる。


「まず舌の奥を押して、できる限り吐いて!

 それから荷馬車と川から水をたくさん持ってきてほしい!」

「分かった!」


 ロロとルーイはひとしきり吐いた後に、川へ向かっていった。

 同じように食べたはずだけど、エラの症状が重い。勇者との抵抗力の差だろうか。

 左が下になるようにエラを横たえて、何とか吐かせる。


「ごめん、ヒロ」

「気にしないで」


 ルーイが先に川から水を汲んで、走ってくる。


「いいんだね? ただの水で」

「うん、ありがとう。エラ、飲める?」

「頑張る」


 エラが少しずつ飲みこんでいく。


「ルーイ、今のうちに炭を砕いてもらえる?」

「分かった」


 荷馬車の方からロロも戻ってくる。


「水と、塩も持ってきたぜ。あのバカにも伝えてきた」

「ありがとう、助かるよ。エラ、また吐いてもらうよ」

「えー、頑張って飲んだのに……」


 不満そうだけど、素直に従ってくれる。


「みんなも何回かやっといて」


 二人も水を持って腹の中にあるものを出しに行く。

 エラの背中をさする。僕の小さい手では中々一苦労だ。


「ちょっと楽になってきたかも」

「うん、大分出せたみたいだね」


 形のあるものを、ほとんど吐かなくなってきた。


「じゃあ次はこれね」


 カップに入った黒い液体を差し出す。


「これ飲むの? 本当に?」


 僕は肯定の頷きを返した。エラは恐る恐る口をつける。


「美味しくないー」


 物凄く嫌そうな顔をした。美味しいわけはない。水に2つまみの塩と、粉々に砕いた炭を溶いたものだ。これで大抵の毒物なら吸着してくれるはずだ。

 エラは吐き気と闘いながら、少しずつ飲んでいく。


「なぁ、それ俺たちも飲むのか?」


 僕が再び頷くと、ロロは心底嫌そうな顔でカップを受け取った。






 ━━翌朝まで僕たち勇者が中毒症状を呈することはなかった。

 発症したエラも吐き気がおさまり、水分をしっかり取れるほどに回復した。まだまだ疲れた顔をしているけれど。


「ありがとう、ヒロ。三回も救われちゃったわね」

「三回?」

「そうよ。私たちを見捨てないで、勇者のみんなを引き留めてくれたのが一回目。じゃなきゃ、私たちは全滅してるもの」

「そんな偉いもんじゃないよ」


 引き留めたのは事実だけど、このパーティなら、なんだかんだ引き受けていたんじゃないだろうか。


「しかし、今回はお手柄だったな。俺らもこうやってピンピンしてるぜ」

「それは良かったよ」


 だけど、僕は素直に喜べなかった。



 なぜなら、僕自身には全く治療をしていないから。



 吐きに行くフリをして、様子をみていた。けれど朝まで何も起こらなかった。つまり勇者の抵抗力があれば、大抵の毒物は無効である可能性が高い。

 何故だか分からないけど、知らなくてはいけない気がした。

 とんだ人体実験だ。なんでそんな無茶なことをしたんだろう……。


「それじゃあ出発しようか。サカの村に着きたいからね、今日中に」


 ルーイの号令にならい、荷馬車へ乗り込もうとした━━その時だった。


「何奴でござる!?」


 チェリャが腰から剣を抜き、林に向かって叫んだ。


「おやおや、バレてしまいましたネ」


 木の後ろから現れたのは、腕が長く、鋭い爪を持った異形だった。


「初めましテ、ワタシは魔王様の眷属、フェストリと申しまス。

 以後、お見知りおきヲ」

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[一言] さすがヒロ!前世で医者だっただけある! 炭は余計な物を吸着しますもんね! エラは酷くならずに良かった〜
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