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自称癒士の救世感  作者: 筆工房
第三章~自称癒士の開花~
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第二十九話:野営準備

 ぱちりと目が覚める。上半身を持ち上げると、掛けられていた深緑のマントがはらりと落ちた。


「目が覚めたんだね」


 起床に気づいたルーイが、声を掛けてくる。


「ごめん、どのくらい寝てた?」

「20分くらいじゃないかな、寝ていたのは」


 確かに日の高さは、意識を失う前とあまり変わっていない。数十分とは思えないほど、かなり疲れがとれていた。

 マントは誰が掛けてくれたんだろう。


「それは私じゃないよ。エラ姫じゃないかな」

「だから心を読むのやめてくんない?」


 ルーイは本当に心を読めるわけではない、と思う。勇者の能力でもないようだ。


「マントに目線を落とすからさ、不思議そうに」


 人の仕草に敏感に反応して、答えをくれる。ルーイは特別なことじゃない、というけれど。


「ずっと起きてたの?」


 横に目をやると、すでに起きていたヒヒ丸が、蝶を追いかけていた。


「まぁね。ゆっくりさせてもらうよ、夜には」

「うん、もちろん」


 最近は眠るのが怖かった。前世の夢をまた見るんじゃないか、夜の静寂がより一層と余計な考えに意識を集中させた。

 知識が増えることは嬉しいことのはずだけれど、思い出したら僕が僕で無くなっていくような、そんな気がした。


「今度からシエスタを導入しようかな」

「それがいいよ」


 ヒヒ丸がついに蝶をつかまえた。


「あれ」


 つかまえたはずの蝶は、跡形もなく消えてしまった。

 僕だけが幻覚を見ていたわけでないことは、ヒヒ丸の不思議そうな顔を見れば明らかだった。


「おはよう、はおかしいわね。ちょっとは眠れた?」


 エラが歩いてくる。ニーハイを脱いでおり、黒のミニスカートから覗く色白の肌が、日差しを受けて眩しく輝く。


「大丈夫だよ。マント、ありがとう」

「ええ」


 エラは僕の正面に立つと、どこからか櫛を取り出し、髪を直し始めた。この世界に召喚された日、鏡ごしに濡れた前髪を整えてくれた。


「~♪」


 鼻歌が聞こえる。知らない歌だ。旅の初めは━━ルーイの警戒もあって━━どことなくぎこちなかったけど、王城にいた頃の彼女に戻ってきたように感じる。チェリャは元々王族に好意的だし、ロロもエラには普通に接している。女王のことは相変わらず毛嫌いしているけど……。


「よし、できたわ」

「ありがとう」


 鏡がないから、前後が分からない。多分綺麗になっているんだろうな。


「そろそろ行こうか。あまり待たせても悪いからね、ロロたちを」






 ━━俺たちはキャンプ地を開拓していた。


「んじゃ、いつも通り頼むわ」

「承知したでござる」


 チェリャが腕を振るうと、まるで豆腐でも切るかのように大木を斬り倒す。

 腕を振ったことすら、俺には認識できない。


「相変わらず無茶苦茶だな」

「時の魔術の、ちょっとした応用でござるよ」


 チェリャの手にはいつの間にか鉄の糸が握られている。倒れた木に再び腕を振るうと、今度は薪の形に切り分けられていく。

 もちろん、このままでは薪として使うことができない。


「ロロ殿、よろしくでござる」

「あいよ」


 広げた両手に魔素を込めると、1ヵ所に集められた薪に集中させる。手を胸の前に近づけていき、炎の円蓋で包み込む。絶妙に操作された火の魔素が、薪を蒸し焼きにする。

 完成を認めると、チェリャが胸の前で印を結んだ。


「では、“時送りの術”!」

「それ要る?」

「要るでござる」


 炎の揺らめきが、尋常ならざる速度になる。動画を倍速再生しているような不思議な光景だった。術を解除すると、良質な炭ができあがっていた。


「こんなもんだろ」

「では食料を探しにいくでござるか。近くに川がござるから、魚でも捕らえに━━」


 ━━ガサガサ


 不意に茂みから物音がする。チェリャは素早く腰に手を回す。


「ブゥ」


 2本の牙に茶色い体毛、つぶらな瞳、そして特徴的な上向きの鼻。元いた世界のイノシシとよく似ていた。


「野生のブゥでござるぞ! 初めて拝見しもうした!」

「何だそれ」

「城での夕餉(ゆうげ)に出てきたでござろう? ロロ殿は食さなかったでござるが」

「あぁ、そうだったな」


 俺は何故か分からないが、魚を除く肉類を受け付けない。宗教上の理由かもしれない、とヒロ達は言っていた。


「別に気にしねぇから、捕っていいぞ」

「承知!」


 貴重な鮮度のいい食料だ。個人の嗜好で逃す手はない。


 ━━プギィ!


 断末魔の叫びを尻目に、炭に火を灯す。


 なぜ俺は、この力を求めたのか。ヒロの記憶復活をきっかけに、また考えるようになってしまった。あのク○女王の言った通りなら、前世の俺は、火を操る能力を欲していたことになる。

 だが、それならば━━力を使う度に感じる、強めるほどに増す、怒りの感情はなんだ。


 チロチロと動く火を見つめる。

 思いっきり力を爆発させれば、答えが見つかるかもしれないと感じた。まだ、その機会には恵まれていない。考えてもしょうがないことは分かってるが、ふとした時に頭をよぎる。


「果実か野草でも探しに行くか」


 暇になったので、考えを振り払うように行動を開始する。ブゥを器用に捌き始めたチェリャへ一声掛けて、森林探索へ向かった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ロロの火を使うときに感じる怒り、ここ重要な気がしますね。 初めはベジタリアンなのかと思っていたけれど、魚は食べる時点でその線は消えた。 宗教上とすると……絞られては来るものの、かの宗教が食べ…
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