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自称癒士の救世感  作者: 筆工房
第三章~自称癒士の開花~
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第二十七話:魔王の眷属は異形らしく

 魔王の居城では、一人の異形が尻尾を振りながら、千里鏡を覗いていた。

 瑠璃色の肌に金の瞳を持った女悪魔だ。ふわりとウェーブがかった月白色のセミロングが、薄暗い城内で一際目立っていた。


「ラピス! またワシが寝ている間に、千里鏡を取り出しおったな!」


 しわがれた声の異形が奥から現れた。

 髪の毛はなく、代わりにたっぷりと髭と眉を貯えた顔は、一見すると仙人のようであった。しかし肌は緑色であり、胴から腕が六本生えた姿は、まさに異形であった。


「おじいちゃん、こっちだよ」

「おお、そうかそうか━━」


 四本の腕を使い、ペタペタと歩み寄る。


「━━ではないわい、まったく」


 ラピスから千里鏡を奪い取る。


「あー、今見てる途中なのにー」


 六本腕の異形は、ガラス玉のような“それ”を顔の中心に埋め込む。すると“それ”はギョロリと回転し、大きな目玉となった。



「起きたら眼前に戦場が広がるワシの身にもならんか」


 やれやれ、と頭を掻く。

 ワシの名前はグリーンアイ。魔王様の眷属としては、前大戦の唯一の生き残りである。

 別に特別な力があったわけではない。非戦闘員であったため、難を逃れただけに過ぎぬ。


「はーい、報告ー。結局、全部鎮圧されちゃった」


 てへ、と舌を出してみせる。

 はて、全部……全部とは……。


「まさか━━」


 目をグリンと回転させ、兵の状態を確認する。


「今いるドラゴンゾンビ達を、全部使いおったのか!?」


 それらの姿を何処にも認めなかった。


「いいじゃん、別にー」


 ラピスは頬をぷくーと膨らませた。


「結果的に“穢れ”は早く広まったからいいでしょ」

「それはそうだがの……」


 ラピスの言うとおり、今までになく“穢れ”は広まっている。


「各個撃破され、“穢れ”を浄化されてしまえば、元も子もないぞ?」

「そこにオーガとかトロル達を送り込めば、いいんでしょ?」

「簡単に言うがの……。そこまでの移動はどうするんじゃ?」


 ラピスは指をピン、と立てる。


「もうとっくに出発させたよ。ていうか前線にたどり着いてるよ」

「なんじゃと!?」


 穢れを広める前提で進軍させたのか。無茶をする……。異形の者は、“穢れ”のない所では徐々に力を失い、姿を保てなくなるのだ。


「でも、思ったより濃くならなくて、オーガも勇者にあっさりやられちゃった」

「戦わせたのか!?」

「私は戦えとは言ってないよー、現場の独断」


 選択肢のない判断は独断と言ってよいものか。配下の災難に同情を禁じ得ない。


「魔王様はまだお休みなのだから、あまり勝手や無茶をせんようにな」


 はーい、と明後日の方を見ながら返事をする。

 なんも聞いとらんな、こりゃ。


「ってか勇者の一人さ、死にかけだったのに復活したのよ。なんなの、あいつ」


 配下が側にいれば、卒倒するであろうほどの殺気を放つ。


「勇者を他の“ヒト(・・)”共と一緒にせんことじゃ」

「どっちがバケモノか、分かったもんじゃないわ」


 と思えば、急に少女のような笑みを浮かべる。


「でも、そっかぁ。そう思うと親近感わいてきたかも」


 体をくねらせ、前に組んだ腕で、その豊満な双丘を強調させる。小指をかけた口から、男を殺す色気と溜め息を漏らす。

 女心は秋の空と言ったか……これはもはや山の天気じゃな。また何か思い付いたであろうことは、想像に難くなかった。


「……ほどほどにの」

「しかし、勇者共の進軍が早いですネ」


 後方から声がかかる。


「老人の背後からいきなり声をかけるな、と教わらんかったか?」

「ワタシたちが? どこで習うというのですかネ」


 突然現れた彼の名はフェストリ。一見するとスーツを着た青年のように見えるが、足元まで伸びる異様に長い腕と、同じくらい長い紫色の爪が、異形であることを示していた。


「進軍は、まぁこんなもんじゃよ」


 別に前回と比べて、特段早いとも遅いとも言えない。


「しかし、ラピスサンが“穢れ”を拡散したおかげで、ワタシたちが出向くこともできそうですがネ」


 顔にある口は厳重に縫い合わされており、喋っていても微動だにしない。


「あまり、大人しく籠っている性分ではないのですヨ」

「前回の仲間達も、みんなそう言って出ていき……散っていきおったよ……」


 フェストリの表情は変わらなかったが、目の奥が僅かに動いたような気がした。


「分かりましたヨ、今回は様子見だけにしますネ」

「えー、あたしも行くー」

「アナタじゃワタシの速度についてこられないでショ」

「むー」


 ラピスが付いていこうとするが、あっさり止められていた。


「こういうのは、ワタシが適任ですヨ」


 そう言うと、また煙のように居なくなってしまった。


「ワシはもう一度寝てくるわい」

「見ないの?」

「今の濃度では、大したことはできんじゃろうて」


 与えられた部屋へ戻る。


「今度はワシが起きる前に戻しておいとくれ」

「はーい」


 多分、次も見慣れぬ光景で目を覚ますのだろう。


 それがワシらなのだから。

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― 新着の感想 ―
[一言] 魔王軍側の様子も分かるとは! しかも軽い感じで、何とも緊張感が……( ̄▽ ̄;) でも、何だろう、それが一抹の不気味さも漂わせている気がする。 おじいちゃんはもう一度お休みなさるとして……孫娘…
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