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自称癒士の救世感  作者: 筆工房
第一章~自称癒士の旅支度~
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第二話:ここは何処? 私は誰?

「かまいません、それが召喚酔いですわ」


 なんか知ってる意味と違う気がするけれど……。


「いつまでも勇者様を硬い床の上に居させる訳にもまいりませんし、落ち着けるお部屋へ案内させますね。では、そちらの勇者様方も順次お連れするように」


 ん? 勇者様方……?

 そこで自分の後ろに三人の人間が、仰向けで転がっていることに気がついた。全員まだ意識が戻っていない。

 彼女の号令と同時に、仮面フード達が整然と動き出した。部屋の隅に重ねてあった三つの担架を持ってきて、勇者様達を乗せていく。呆気にとられている間に運び出されていった。

 準備のいいことだ。


「さて、貴方様は━━」


 とりあえず、担架での移動は御免こうむりたかったので、言葉が続く前に立ち上がってみた。力が入りづらいのは相変わらずだが、何とかいけそうだ。

 彼女は意を汲んだように、続く言葉を飲み込んだあと、こう続けた。


 「━━申し遅れました。わたくしはクリフィス聖王国第一王女、エレノア・エリー・クリフィスと申します」


 どうやらイメージ通りだったらしい。


「ご丁寧にありがとうございます。私は……」



 私は……?



「まだ召喚酔いの影響で混乱されていることと存じます。とりあえずこちらへ」


 残っていたのは、自分以外にエレノア姫と黒服少女達のみであった。担架の運ばれていった扉から共に通路へ出る。



 通路は先程の部屋より幾分落ち着いた造りであったが、両脇に肖像画や宗教画のような物がいくつも飾られていた。そして、奥へ奥へと続き、終点の見えない光景は━━窓がなく、外の状況が分からない圧迫感も相まって━━うんざりさせるには十分だった。


 だが、これはチャンスかもしれない。


「不躾ながら、いくつか質問させていただいても?」

「かまいません」


 “落ち着けるお部屋”まではしばらく時間がかかるだろう。それまでに少しでも情報を得ておきたかった。

 エレノア姫は特に迷惑そうにすることもなく答えてくれた。


 私たちは異世界からこの世界へ召喚されたこと。

 ここはクリフィス聖王国の首都グリモアにあるグリモア城内であること。

 先程の部屋は召喚の儀を行う特別な建造物で、仮面フード達は全員召喚士であったこと。

 エレノア姫にも特別な力があり、召喚の儀に立ち会っていたこと。

 今歩いているのは城内に通じる唯一の渡り廊下で、窓がないのは機密である召喚の儀を外部へ漏らさないためであること。


 召喚士も担架を運ぶなんて肉体労働をするもんだな、と思ったが━━なるほど、関係者を減らす為か。秘密を知るものは少ないほどいい、ということだろう。

 私たちが召喚された理由については、まだ話せないとのことだったが……。

 エレノア姫から対等以上の扱いを受けていることや、チラホラとおどろおどろしい化物との戦闘の様子が描かれた絵画が目に入り、とんでもない厄介事を押し付けられるだろうことは想像に難くなかった。

 一番驚いたのは、


「えっ、妹……様でいらっしゃいますか……?」


 後ろに控えていた黒服の少女達が、それぞれ第二、第三王女であったことだ。あまりの衝撃に言葉が続かなかった。

 黒スーツに目元だけが隠れる仮面をつけ、エレノア姫の半歩後ろをぴったりとついて歩いている。

 どう見ても側仕えにしか見えないじゃないか。


「ということは初対面の人間と王族だけで相対している、と?」


 するとエレノア姫はにっこりと笑い、


「能力に目覚めていない勇者様ならば、この子達でも十分取り押さえられると思いますわ」


 と告げた。


 確かに普通に歩いているように見えて、この三人は足音が全くしない。速度もあり、話しながらではついていくのがやっとだった。護身術どころか、それなりの戦闘訓練を受けていることをうかがわせた。

 能力とやらが目覚めるまでは決して逆らうまい。とりあえずの情報収集を終え、改めて王女達を観察する。


 まずは第一王女 エレノア。

 本名はエレノア・エリー・クリフィス

 最初は大柄な女性かと思ったが、驚異的な小顔と姿勢の良さからくる高頭身が錯覚させたらしい。ストロベリーブロンドのストレートで腰まで伸びる後ろ髪の一部を編み込んでいる。やや垂れた目と、左の艶ぼくろが柔和な笑みをより印象づける。

 控えめに言って、絶世の美女である。彼女がワガママを言ったなら、国が一つ傾きそうだ。


 残るは第二王女 エラ・クリフィスと第三王女 エルム・クリフィス。

 エレノア姫に近いストロベリーブロンドの髪をしているが、前者はポニーテール、後者はお団子ダブル、と飾り気のない髪型に抑えている。

 初めから一言も発さず、表情を崩さず、やはり姉姫の半歩後ろをキープしている。

 いや、やっぱり側仕えだわ。見破れないわ。卑怯だと思います。長子以外は目立てないお国柄なのだろうか……。


 長い渡り廊下を終え、扉をくぐると、ようやく窓や部屋の扉が並んだ空間に出た。外は明るく、昼下がりを思わせた。

 四つ目の扉の前で三人が立ち止まる。


「では、こちらで休憩なさってください」

「分かりました。ただその前に一点だけよろしいですか?」

「はい、何でしょう」

「御手洗いはどこか、教えていただいても?」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 王女さまと侍女と思いきや、妹姫様でしたか。 彼女はヒロインになるのでしょうか(*^^*) 描写がとても綺麗です。 最後に現実の人間らしい質問で「ふふふっ、そうだよね」と微笑ましくなりまし…
[良い点] ・テンポが良かったです。 [気になる点] ・姫様の、身体描写をもう少しして欲しかった(ドレス以外にも触れる所あるはず) [一言] 面白そうなので読み続けていきたいと思います。
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